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しおりを挟むバルカスと話をして、俺はとうとうロドリックに直接文句を言うことを決心した。
こんなに気分が重いのは、向こうが公爵令息、俺が子爵の三男だからと言う訳じゃない。俺とアイツの付き合いはもうすぐ二年になろうとしていて、同室ということもあってかなり親しくしていると思っている。
この学園の寮は、成績順で組み分けられる。アイツは一位、俺は二位。だからこそアイツのことは良きライバルとして、切磋琢磨してきた。
約二年、こんな変なトラブルなく過ごして来たんだ。他のヤツの同居人の話を聞くと、モノを片付けなくてイライラするとか、生活音が大きくてイライラするとかは本当によく聞く話。その点、ロドリックは全然そんな事なく、『俺ってばラッキーだ』とさえ思っていた。
これまで色々やってきたが全然解決しない。
これはもう、本人に言うしかない。
「なぁ、ロドリック」
「なんだ、レイ」
ロドリックは俺のことをレイと呼ぶ。これも、そういえば少し前からかもしれない。特に気にならなかったから放置していた。
課題をすらすらと解いていたロドリックは顔を上げ、俺を見た。紫にも見える濃紺の髪が流れ、艶やかにヤツの耳にかかる。同じく紫紺の瞳は、俺をまっすぐに見た。
くそう、男なのになんてツラが美しいのか。この顔面を見るとついつい『まぁ……いっか』と思わせる何かがあるので、負けないように、俺は少し視線をずらして切り出した。
「俺さ……、お前に言いたいことがあるんだ」
「……なんだ」
「えと……茶化さないで、聞いて欲しい」
俺がそう言うと、ロドリックは僅かに頬を赤らめた。そしてコホンと咳払いをし、俺の前へ身体ごと向き直る。
「分かった。何でも言うといい。何があろうと受け入れる」
「……やっぱり恥ずかしくなってきた……」
「そんな!いや……いくらでも待つ。私は待てる男だ」
ロドリックには珍しく、そわそわしている。何だこいつ、俺からのクレームを待っていたのか?期待しているような目の輝きだ。
それでもコイツ、はっきり言わないと分からないんだ。そう、ここで挫けたらまた悩むことになる。よし、言え、俺!
「俺さ……その、言いにくいんだけど……」
「よし分かった」
「え?」
何故か何も言っていないのに了承された。はて?
怪訝な顔をしていると、ロドリックは俺の両の肩を掴み、熱っぽく潤んだ瞳で言ってくる。
「もういい。君の気持ちは知っている。ようやくこの日が来た……、気持ちが通じて嬉しい、レイ」
「???は???え、」
ぎゅうっ、とハグをされる。き、キツイ。試合で勝ったとかそういうハグ以外は要らないんだけど、何のハグなのこれ?――――あ!きっと、交渉成立のハグか!
「わ、分かってくれたのか?俺、てっきり言わないと分からないって思ってて」
「もちろんだ。私の察しの良さは分かっているだろう?」
その言葉を聞いて、はーっ、と息を吐いた。
そっか、良かった!やっぱり学年一位の賢さは伊達じゃない!
「良かった!じゃあ今日から、俺がシャワー使っている間は遠慮してくれよ!」
「…………ん?」
ピタリ、とロドリックの動きが止まる。
けれど俺はここ最近の悩みが消えたと思い、ついすらすらと喋り倒してしまう。
「はぁ、こんなことならもっと早く言っておけば良かったぜ!もう、こっちが裸なのに服を着ているやつに見られてるってすげー落ち着かねぇんだよ。逆なら……って俺はお前ほどお腹ゆるくねーからしないけどよ!」
「れ、レイ……」
「大浴場とかよ、みんな裸なら気になんねーけど……俺はお前のキバッてる姿なんか見たくねーし見せたくもないだろうから見ないようにしてたのに、全く、もう少し気を遣えよ!ははっ」
ポンポン、とロドリックの背中を叩く。ガバッと体を離されて、話は終わりか、と立ち上がりかけた時、ぐいと腕を引かれた。
……さすが騎士科学年一位。力も桁違いだ。
「…………レイ。じゃあ、私も裸なら気にならないんだな?」
で、何で俺、クソせまいシャワールームに男二人で入ってるんだ……?
「ロドリック……なんか違う気がするんだけど」
「そうか?これで何もかも解決するだろう」
「そういうものなのか……?」
ロドリックが言うには、同時にシャワーに入れば、ロドリックの排泄姿を見なくていいし、お互い裸で気にしなくていいし、ロドリックが俺の背面にいるからヤツの裸を見なくて済む、という一石三鳥らしい。
んで、俺の身長173。ロドリックは188。そこそこデカくて騎士科の俺たちが一緒に入れば、常に体のどこかがぶつかり合うことになる訳。
シャワーヘッドを操作したいから俺が前なのはいいけど、後ろにカッチコチで俺よりタッパのある男がズーンと控えてるんだ。
確かに扉越しにガン見されるよりはマシだが、これのどこがリラックス出来ると?
「お前、もっと後ろにいけよ!ほら、前に来るから俺とぶつかっちまうんだろ!」
「嫌だ、壁が冷たい」
「そんくらい我慢しろよ!ったく、これじゃ足洗いたくても、しゃがめねーしよ……」
「それじゃあ私が洗ってやる」
「はあっ!?」
ロドリックは柔らかな布巾――――絶対公爵家で使ってるやつだ――――で石鹸を泡立てると、俺の尻へとぴたり、当てた。
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