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第一章 一回目の結婚生活

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「……もう、本当に心臓が止まるかと思いました。二度としないでくださいませ。リスティア様。爺の寿命が縮みます」

「……はい。ごめんなさい」


 大袈裟なまでに頭に包帯を巻かれた状態で、リスティアは薬師団長からこんこんと説教されていた。

 発情期特有の性欲は、これまでどおりの抑制剤を打たれて収まっていた。しかし抑制剤には避妊効果もあり、リスティアは不服だった。せっかくの子種が無駄になってしまった。


「殿下にも困ったものですね。番の精液で発情期はかなり軽くなるはずですのに」

「……一晩抱けば十分だと、思ったのかもしれない……殿下は、あまりオメガのことは詳しくないのかな」

「流石に一晩では……。しかし、間違いなく番関係が成立しているということは、フェロモンの相性は良いということ。それなのに魔力の質がそれ程合わないとは、困りましたね。このことは、殿下以外には内密にしましょう。恐らく、子の出来る確率に関わってきますので」

「……え……」

「ゼロとは言いませんが、限りなく低いと思われます。知られると……リスティア様にとっては都合が悪いでしょう」


(子が、出来ない……?)

 呆然とするリスティアに、薬師団長は同情するように眉を下げた。

 主治医である彼は、未だ花紋が開かないことを知っている。その理由も、魔力の質の相性の悪さに起因するものと推測していた。最も、花紋持ちオメガに関しては絶対数の少なさ故に謎は多く、もしかすると別の理由があるのかもしれないとのこと。

『前例のないこと』、そう説明されて、冷えていく指先をきゅっと握った。

(大丈夫。まだ、咲かないと決まった訳じゃない……)


「殿下には、薬師団の方に精液を提供するように伝えます。そこから魔力を抜いて精液だけの状態で、その、中に入れられるような道具を用意しますから。それであれば、発情期は快適……とはいかずとも、マシには過ごせるでしょう」

「子は……」

「残念ながら、魔力を抜く過程で子種としては弱まると思いますので……あまり、期待はしないことをおすすめします」










 薬師団長から魔力の質が合わないと聞いたマルセルクは、『リスティアの身体に負担をかけたくない』という名分で、リスティアの寝室を訪問することはなくなった。

 発情期が重なって優先させたフィルとは、やはり番になっていない。フィルの首にはネックガードが嵌められたまま。番にもしないのに優先させた理由は一つしか思いつかなくて、リスティアを精神的に落ち込ませた。

(単純に抱きたいのは子猫なんだ……。本当は、愛している、なんて嘘なんじゃ……)

 そう考えようとする思考を無理やり停止させる。

 まだ、二回だ。
 たった二回しか抱いていないのに、分かる訳がない。

 そもそも初心者の自分はまだ、行為そのものに慣れていないし、あの痛みを伴う二回だけでは、行為を好きになれるはずもない。

 マルセルクは、そう、きっと、リスティアの身体を思い遣ってのこと。

 しかし、それなら発情期には寄り添って欲しい。
 番に放置されるのは、心が乾涸びてしまう程に辛いから。


「マルセルク様。その、発情期に一人なのはとても、とても寂しいのです。性交渉が無くても、いいのです。あなたの腕の中で、眠りたい。肌に触れたい。……それだけなんです」

「リスティア……。リスティアを愛している私にとっては、拷問だ、それは。そんなことをすれば抱きたくなる。しかしお前の身体には、毒……。到底耐えられない」

「……ごう、もん」


 触れ合いだけでも、と懇願したリスティアだったが、強い言葉で否定されてしまった。まさか、マルセルクにとっては拷問と思えるほどの苦行だったとは。

 ショックを受けたリスティアだが、それも次の言葉で一気に浮上する。


「薬師団長とは相談して、私との子を孕めるか、魔力の質を変えるか、魔力の相性を感じなくさせるか……解決案を出すよう指示した。それまでの辛抱だ。今だけだから、どうか堪えてくれ。愛しい人」


 それを聞いて、リスティアは目の前が開けたように嬉しくなった。


(そうか、マルセルク様は何とかしようと動いてくれているんだ!)

 気分の良くなったリスティアは、マルセルクに微笑んで感謝を伝える。それは誰しも見惚れるほどに、花開くような可憐な笑顔。


「ありがとうございます!マルセルク様。僕も、お慕いしています……!その時を、お待ちしていますね」








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