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「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」

「は……?」

突然呼ばれ、卒業パーティーの中心に進み出た途端、全く意味の分からない糾弾を受けた。
アリスの長年培った"貴族の仮面"でも、怪訝な顔つきになるのは止められなかった。

アリスの紫色の瞳は細くなり、長い銀髪をさらり、耳にかけて落ち着こうとする。


「クリスティアン殿下、今度はどう言ったお戯れを……」

「この期に及んで誤魔化そうとするな!権力を使ってこの可憐なマリアナ嬢を虐め抜き!この私から離そうと野盗まで雇って命まで狙ったなど!」

「こ、怖かったですぅ、クリスさまっ!」


クリスティアンの腰には、弱々しく涙を目に浮かべたマリアナ・ピンクデル男爵令嬢がひしとしがみついており、アリスの婚約者はその華奢な肩を優しく抱いている。
アリスを親の仇が如く睨み付けるクリスティアンは気付かない。
マリアナがねっとりとした、勝ち誇った笑みを浮かべているのを。


「証拠は上がっている。ガイアン、キリアン」

「はっ!マリアナ嬢の教本を破き、学園の制服も切り刻み、机には害虫を忍ばせ……」

「はっ!週末、帰宅するマリアナ嬢を野盗5名で襲わせました。すぐさま逃げ出した為に未遂で済んだものの……」


ずい、と出てきたのはクリスティアンの側近だった。宰相令息と魔術師団長令息である。
その後ろにはアリスを軽蔑したように睨み付ける騎士団長令息ケニアンもいた。

なるほど――。
捏造の手続きは済んでいるということか。


クリスティアンとの婚約は政略的なものだ。アリスの身分の高さや資質から選ばれた。
男女の夫婦より、男同士の方が優秀な遺伝子を残しやすいためである。高価とされる妊娠薬も、王家であれば簡単に用意できるもの。

幼少期から親元から引き離され、過酷な王太子妃教育、魔術も剣術も、殿下の政務ですら熟してきた。

アリスは自信を持って言える。
後ろ暗い事など何もない、と。


「私は潔白です。ですが、婚約破棄との事、了承しました。手続きの方は……」

「当たり前だ!ここにサインしろ!」


こんな人目のある中する事ではない。ちゃんと親の了承を得たのか心配になったが、中身を丹念に確認してからサインをした。
クリスティアンはすぐさま後方に控えていた神官に渡し、提出するよう言い付ける。


「……今を持って、お前とは無関係だ。恥晒しめ!アリス、お前を国外追放の刑に処す。私はこちらにいる、マリアナ・ピンクデル男爵令嬢と婚約を結ぶ!皆のもの!祝ってくれ!」


わあぁあっ、と会場が拍手喝采に湧いた。随分と手回しをしていたようだ。アリスは一秒でさえせっせと王国のために働いていたと言うのに。







騎士団長令息であるケニアンにアザが出るほど強く手首を握られたまま、わざと引き摺るようにして城から追い出された。
そこにあったのはぼろぼろの荷馬車で、強制的に押し込まれる。

なんと吹聴されているのかわからないが、民衆には「売国奴め!」「こんな卑しい奴が王族にならなくて良かったぜ!」などと石を投げつけられていた。



もちろん、体の周りに結界を張っているためアリスの肌は傷一つつかない。背筋を伸ばし、凛としたまま揺られていく。

数日後、アリスは国境を隔てる森の中に投げ下ろされた。


「……これでいいんだろ?」

「ああ。全く勿体ねぇな。美人なのに」

「少しだけ……な?」

「いや、ここから立ち去るまで記録せよとのお達しだ。マリアナ嬢が怖がるから、らしい」

「ちっ……」


そんな不穏な会話を背中で聞き、アリスは急いで森の中に入っていった。何をされるか分かったもんじゃない。

ガサガサッ!

身構える。まだ、ここは王国内だ。追手がかけられたのか?


「アリス様。……ご無事ですか」


現れたのは、王国の騎士の姿をした美丈夫だった。アリスはさほど小さくはないのに、この美青年は見上げないと顔が見えない程大柄だった。

それなのに、怖いとは思えない。

サラッとした黒髪と、金色の瞳。
知っているような気がするのに、どうも思い出せない。


「……はい。ええと……?」

「ああもう!また貴方は私を忘れたのですかッ!レイグリッドですよ!」

「また……?」


おかしい。アリスは一度会った人は忘れない。
それは外交でも、社交界でも大いに役立ててきたから自信のあること。

何故彼のことを覚えていないのか。
しかも、『また』という。

怪訝な顔つきのアリスに、レイグリッドは呆れたようにしつつも、澱みなく説明をし始める。それは何度も説明してきたかのように無駄がない。


「俺のことはレイと呼んでいただけていました。先程まではアリス様付きの護衛騎士でしたが辞めてきたのでご安心を。貴方から頂いた空間収納鞄に色々詰め込んできたので不自由はさせません。ほら、すぐに隣国まで突っ切りますよ。『身体強化』をして下さいね。」

「わ、分かりました、レイ……?」

「はい」


ふっ、と笑う顔が精悍で、男臭くて、アリスの胸がピクッ!と跳ねたのが分かった。








あんな衝撃的な出来事があったからか、アリスは未だふわふわと現実を受け止めきれていなかった。

クリスティアンの事は、多分、好いていたと思う。
少し態度は悪いけれど、それは気恥ずかしいから。

婚約者というより、少しシャイな友人だと思っていたかもしれない。

贈り物ひとつ無かったけれど、城に住まわせてもらっていたし、質も申し分ないものを揃えてもらっていた。

もし婚姻後、子供ができなかったのなら、そしてちゃんと手続きをしたのなら、愛妾を抱えるのも了承した事だった。

あの幼い時の婚約契約書に、そう記載してあったから。


でも、だ。婚約期間中はダメだろう。
誰かが言っていた。
『婚約期間中に、婚約者を大事にしない男が結婚後大事にしてくれるはずがない』と。
『婚姻後、アラが見つかる事はあっても良くなることはない』とかも。


そうだ、誰が……と思い出そうとすると、胸がズキっと痛むのだ。何か病気なのかもしれない。





アリスが考えに耽って黙っていても、レイグリッドは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

彼のベルトにつけられた鞄は、確かに自分が製作者である印があったし、これを進呈するということは信頼していたのだろうと、彼と会ってまだ数時間しか経っていないが安心しきっていた。

森の中を進むのは案外難しい。
レイグリッドは先頭にたって小枝や葉を払い、足元を気をつけるようアリスの手を引いたり、魔物や毒蛇などが出ても瞬殺してくれる。

そんなお姫様のように守ってくれなくていいのに。アリスは男だ。アリスとて闘う手段は持っている。



アリスには空間収納という魔法がある。常に中に荷物や必需品を入れていたため、剣などの武器も防具も入っている。

しかし、レイグリッドは「私が倒す方が速いですし、防具を身につけた分疲れる上速度も落ちますし、まず私が近づけさせません」と言う。


たしかに、レイグリッドの鍛えられ方は尋常では無さそうだし、慣れてさえいる。
ここはプロに任せることにした。






国境を越えても尚、まだ森の中を進んでいた。

今日はここで野営をします、とレイグリッドはテキパキと木々を倒し地面を平すと、「あれ出して下さい」と言った。


「あれ?」

「……そうでした。ええと、なんとおっしゃっていたかな……『秘密の隠れ家』!でしたか」

「!」


その言葉で、アリスはどれほどレイグリッドを信頼していたのかが分かった。それはアリスだけの秘密、の筈だった。

開けた地面にソレを出す。小さなコテージのような家が出現した。

これは、仮に王家が侵略されて王族狩りされた時の為にとアリスがこつこつ作っていた、緊急避難用の小屋である。

魔道具作製が趣味のアリスは、こういったものを作る事で心を無にし、様々なストレスを発散していた。

その為、当初は簡易的な小屋がコンセプトだったのに、侵入防止、攻撃反射、認識阻害などの結界も付いている。

レイグリッドは見たことがあったのだろう、驚きもせずにスタスタと入っていく。自分以外に入れる者は、アリスが許可したに他ならない。
相当心を許していたのか、と動揺しながらも、アリスも漸く入ることにした。


中は広々とした5LDKに空間拡張をしていて、吹き抜けや中庭があって開放的。
籠城生活になると花でも育てたくなるだろうと備え付けたものだ。


各所に洗練されたデザインの魔道具を設置しており、レイグリッドは慣れた様子で風呂を沸かし、茶を淹れ、料理を作り出す。

えっと、有能過ぎないかな、この人……。


「さぁ、アリス様。先にお風呂にされますか?それともお茶に?食事はすみません、もう少しかかりますが……」

「……貴方、騎士、でしたよね?何故料理まで……」

「ふふっ、さぁ?……なんなら湯浴みもお手伝いしましょうか?」

「……っ!い、い、いいです!」


怪しく笑うレイグリッドが、急に色気を纏った。ドギマギしてしまって、慌てて湯船に飛び込んだのだった。

風呂場も広々として、天井には星空が反映されている。幻影なのだが、ここでも開放感を意識しているのだ。
洗剤や肌を洗うタオルも、自分好みのものを大量に購入しておいて良かった。あと三十年は困らないはずだ。

王太子妃になるのだから、とアリスは見た目にも気を遣っていた。高い魔力を持つが故に月の光を散らしたような銀髪を丁寧に洗う。
ほくろもシミも無い滑らかな肌も、傷をつけないように。まぁ、ついてもすぐに治癒できてしまうのだが。
ケニアンにつけられた手首のアザも、すすと撫でれば治る。


そして、尻。
男同士が繋がるためにはここの穴を使う。閨教育の際、抱かれる側は何もなくとも毎日清めると言われて、律儀に毎日綺麗にしていた。

手を当てて『洗浄』を行使するだけなのだが、それだけの行為が何となく恥ずかしくて、なんとなく億劫だった。今日からは必要が無くなった。


の、だが。

突然、レイグリッドの顔が浮かんだ。
良く分からない。分からないけれど、そう、汚い所があるのは良く無い。
だから、アリスは気を取り直し、やはり『洗浄』を行使した。







風呂から上がると、レイグリッドは既に料理を作り終わっていた。
彼も食材を色々詰め込んで来たのだろう。
テーブルには乗り切れない程多くの料理が並べられていた。


「……っ!良い湯でしたか?」

「え、ええ。ありがとうございます。本職ではないと言うのに……」


風呂上がりのアリスを見て、レイグリッドは思わずごくりと喉を鳴らしてしまったが、アリスは気付かなかった。
王城では出されない種類の料理に目が釘付けだ。


「大した料理ではありませんが。」

「いえ、でも……作りたて……!食べても?」

「ええ、ぜひ。ご一緒しても宜しいですか?」

「はい、もちろん!」


そうか、護衛騎士と一緒に食べるのはなかなか珍しいかもしれない。
レイグリッドが作った料理は火傷しそうな程熱く、ホクホクとして、心までも温まるようだった。

王城では、常に毒見後の冷たいものしか食べられなかったから。そのうち慣れてしまったけれど。





食事を終えると、レイグリッドも湯を浴びてくると言い、アリスは寝室へと向かった。

ここは、一番無防備になる場所であるため、この小屋に入る許可とは別に許可が必要だ。
わざわざ招き入れないといけない。それはつまり、何が起こってもアリスの同意があるということ。


城で使っていたものと同等以上の寝台。
ゴロゴロと転がっても転がり落ちないくらいに広い。
他にも客室は用意しているけれど、主寝室はここで、一番立派な寝台を備え付けた。


ぽす、と埋まる。今日は色んなことがありすぎた。まさか、僕が国外追放されるなんて。
油断していた。

何故なら、アリスはこれまで相当王国に貢献してきたのだ。アリスが王なら、逃さないよう画策することはあれど、まさか手放すことがあるとは。


……ショックだった。


自分の存在価値を、真っ向から否定された。


しかしそれも、レイグリッドによって別の衝撃に置き換わってしまった。

アリスは恐らく、彼を意図的に忘れたのだ。魔術を使って。
何故なら、この家の存在のことや、彼への贈り物を考えれば、気に入っていたことは間違いない。

そしてレイグリッドも、騎士という地位を一瞬で、迷いなく捨てなければ、アリスが放り出されたあのタイミングに間に合う訳がない。

もう任務でもなんでもないのに、アリスが転ばないよう手を取ったり、アリスの視界を背中で塞いでいる内に外敵を処理し、慣れないだろうに料理までして。


「~~~っ!」


思わず顔を覆う。身体を丸めてじたばたした。

こんなの、狡い。


「ふぁ……」

『アリス様?』

「!」


扉の外から、レイグリッドの声がする。

『湯船、最高でした。ありがとうございます。もう寝られますか?……その、安眠効果のある薬草茶を淹れたのですが……』


アリスは一瞬身体を硬くした後、ほっと力を抜く。なぜならここは、寝室だけど、お茶を飲むだけ。

それだって婚約者のいる身であればダメなこと。今はもう、いない。


「……では、こちらに」


カチャ。扉を開けると、まだ湯気をたてているレイグリッドと薬草茶。

雑に拭いたのか、彼の艶やかな黒髪はまだ湿っていて、なんとも色っぽくて目を逸らす。

小さな机に茶を置くレイグリッドを、じっと見つめる。
この寝室に椅子は無いので、座るものは寝台しかない。急にドキドキしてくる。


「……座って、下さいね。レイ」

「ありがとうございます。失礼して……」


机を前にして座ると、すぐ隣にレイグリッドが座った。んんん、何だか、近い。

そわそわする気持ちを誤魔化すように、アリスはレイグリッドの淹れてくれた茶を飲む。
少し甘くて美味しい。
薬草の、少し独特な香りが鼻を抜けた。


「……俺のこと、思い出しましたか?」

「……いえ、まだ……」

「そうでしょうね。いつも……あなたは忘れてしまう」


少し掠れた低い声。思わず見上げると、レイグリッドは切なそうにアリスを見つめていた。

ドク、ドク。

心臓が掴まれたように、動けない。彼のゆったりとした柔らかな寝巻きは、鎧のように鍛えられた筋肉を型取り、目が吸い寄せられる。

クリスティアンは細身だったため、服を着ていてもこんな肉厚な身体ではなかった。


「アリス様。……俺の、目を見て」

「い、いえ……それは」


目を見るのは、ダメだ。
目を合わせたら、……してしまうから。


「アリス様……」


ぎゅっ、と目を瞑る。

レイグリッドの金色の瞳に捉われてしまったら。


心の中を、貴方が占拠してしまう。


ちゅ。

唇に柔らかいものが触れて、アリスは思わず目を見開いた。視界いっぱいに、レイグリッドの顔。


「やっと見た」


ちゅ、ちゅう。


ふにふにとつつくように、アリスの唇に口付けを落としている。
何を、と言う前に、呼吸が出来ない。
心臓が千切れそうなほどに暴れて、身を硬くする。

ああ、どうしようもなく、好きだ。


「れ、レイ……っ、」

「ごめんなさい。でも、我慢できない。貴方は、熱っぽく俺を見ていると思ったら、すぐに俺を忘れてしまうんです。何回も。……貴方は、あの元婚約者に操を立てていたから。」

「……!」

「だから、あなたの得意な魔術で記憶を消したのでしょう?俺の記憶を。……でも、貴方は何度も俺を見る内にまた、可愛い顔をするんだ。もう、俺を消すのは辞めてください……」

「レイ……」

「愛しています。アリス様。この命全てをかけて誓います。傷付く貴方をずっと側で見ているしか出来なかったけれど……これからは、俺が守ります」


泣きそうな顔のレイグリッドに、アリスは罪悪感に駆られる。
忘れられる恐怖を、何度も、レイグリッドに味合わせてきたのだろう。
そして今日、想いを止める理由は無くなった。


「僕もです、レイグリッド。心から、お慕いしています……」


アリスの方から、少し伸び上がってキスをした。
熱い唇はすぐに覆い被さってきて、少し空いた隙間からにゅるりと舌が入り込む。

甘い唾液を絡ませて、舌同士が溶け合いそうなくらいに激しい口付け。

フッ、と一瞬体が浮いて、ふわっと寝台に横にされた。レイグリッドの身体が縫い止めるように被さってきて、彼の胸に手を置く。


(おっ、おっ、雄っぱい…………!)


そこには見事に張った大胸筋。アリスではどれだけ鍛錬しようとついぞ得られなかった筋肉。

もぞもぞと触っていると、口付けをしていたレイグリッドがくすくすと笑い出す。


「ああ、そうでした……貴方は、俺の身体が、とても好きなようでしたね」

「そ、そんっ」


ばさっ。
勢いよく寝巻きを脱いだレイグリッド。現れた身体は彫刻のよう。研ぎ澄まされた筋肉の鎧。組み敷かれているというのに、アリスはうっとりと見惚れた。


「鍛えていて良かった。どこでも触っていいんですよ?ほら」

「……っ本当に、良い身体をしています……」


手を取られて、おそるおそる、なぞるようにその熱い身体に触れた。弾力があって、硬すぎるということはない。やみつきになりそうな張り。




レイグリッドは自身の身体に夢中にさせている間に、アリスの夜間着を脱がしていった。

白い肌は吸い付くようで、指で舐めるように触れていく。体毛などほぼ無く、産毛しか生えないらしい。
綺麗な鎖骨の下には、紅をほんの少し落としたような胸の飾り。


「こんなところまで慎ましい……」


優しく撫でると、アリスがピクリと反応する。
まだ誰にも触れられていない身体。
気持ちよさを引き出してあげなければと、舌で慰めるように舐め、吸って、齧って。


「ん、んっ、んんうっ」

「可愛い……」

「んんんっ!れ、レイ……っ!なんだか、そわそわ、します……っ」

「それが、気持ちいいと言うことです。もっと感じて……」


胸の飾りをコリコリと舐るのが好きなようだ。レイグリッドはアリスの赤く染まった顔を見ながら、どんどんと手を下の方へ移動させた。

腰布を解き、下の衣もはだけさせれば、アリスは下履きだけになった。その下履きも、随分と窮屈そうになっている。

長く伸びた白い足。形の良さはさながら芸術品のようで、レイグリッドは愛おしそうに爪先に口付ける。
ピクン!と跳ねた脚を捕まえて、下の方から思う存分舐めていく。肌の薄いところをざらざらした舌が這い回って、アリスはどんどん息を荒げていった。


「はぁ、あ、……んむっ……ん。……ああっ」


太ももの内側。下履きに届くか届かないか、ギリギリの所。そんな所を舐めるなんてどうかしている、とアリスは思いながらも、気持ちよさに抗ってまで彼を止めることはできなかった。

そっと、レイグリッドの指が下履きに侵入してくる。
ぷりっとした小尻を摘んだり、やわやわと揉んだりしながら、鼠蹊部を撫で、巧みに快感を高めていった。
臍を舐め、そしてその下……アリスの下腹の方へと近づいて行く。
硬くなった欲望は、もうシミになる程下着を濡らしてしまっている。


「あっ、」


下履きを剥ぎ取られた。
ぷるんと飛び出た花芯は、アリスのコンプレックスでもあった。見られるのが恥ずかしくて目を逸らす。


「本当に、貴方って人は……俺を狂わせるのがお上手ですね」


思わず手で隠してしまうが、レイグリッドに両手を取られてしまった。

ほんの少ししか生えない下揃え。それも銀色なものだから、パッと見ると何にも生えてない子供のようにも見えてしまう。

色も白く、先端だけが赤い。未熟なイチゴのようだ。大きさだけは、体格に見合ったものだと思っている。

それをレイグリッドはじっと凝視したかと思うと、頭を近づけ……ぱくりと咥えてしまった。


「!んっ、ああっ!あっ、あっ、あっ」


生温かい口内に含まれ、舌は予測不能の動きをしてアリスを翻弄する。
先端の蜜口を優しく愛撫したかと思えば、カリのくびれを扱くように刺激し、唇を窄めてじゅぷじゅぷと幹を擦る。

アリスは何が起こったのか分からないうちに、あっという間に高められ――。


「だめっ、離し……、あっ、あんんっ!!」


ビュク、ビュク、ビュク。精を放った。
レイグリッドはゴクゴクと美味しそうに飲んでいる。


「甘い……、貴方のミルクはとても美味しいです」


信じられない。ありえない。そう思いながらも、アリスははーっ、はーっ、と息を整えるのに必死だった。

開いた両脚の間にいるレイグリッドは、にこりと微笑むと懐から何かを出して指に塗していた。

そしてまたアリスの胸を舐めながら、双丘を割り開き、蕾に侵入してきた。
たっぷりと温かい潤滑油を纏った、ゴツゴツとした太く長い指。
慎重に入口を広げて、皺を伸ばして行く。


(意外と、柔らかい……。)


レイグリッドはすんなりと指を飲み込んでいく媚肉の柔らかさに、動揺を悟られないように丹念に愛撫をしていく。


「ひあっ、う、う、」

「もう、二本目も入りましたよ……アリス様」


顔を赤くしたアリスは、羞恥のせいかアメジストの瞳を潤ませ、レイグリッドを少し睨む。
その仕草すらレイグリッドを昂らせると、この人は知っているのだろうか?


「あんっ!あっ、あっ!や、あ、そこ、」


掠ったしこり。優しく焦らすように撫でるだけで、アリスに激しい快感を齎した。引き締まった細い腰が揺れて、両腕はぎゅうとレイグリッドにしがみつく。
きゅん。ときたレイグリッドは三本目をも挿入し、乳首を愛しながらより解していく。

そうしてようやく解放されたかと思えば、そうではなかった。
荒々しく服を脱ぎ去ったレイグリッドの、下肢に生えた巨大な熱杭。
アリスは思わず口を手で覆う。


「おっき……」


ダメだった。そう口に出してしまうのを止められなかった。

レイグリッドのレイグリッドは、天を向いて聳り立つ鉄塔のようだった。
熱く猛った怒張はグロテスクに赤黒く、子供の腕くらいありそうなほどの確かな質量を持っていた。


(ちょっと待って。これは想定していない。こんな大きなもの、僕の玩具ランキング一位よりも……!すごい……これ、入るのか……?)


思わず腰が引けてしまったアリスだったが、レイグリッドは逃さまいとがしっと尻を掴む。
その欲望をぴたりとアリスの震える蕾にくっつけると、

「アリス様、愛してます」

そううっそりと笑うレイグリッドは、精悍な美貌をくしゃりと歪ませた。


「~~~っ!」


みち。みち。


(指三本じゃ絶対足りてない……っ!)


圧倒的圧迫感。少し、痛い。
しかし、アリスが少しだけ眉を下げるたびにレイグリッドは苦悶の表情で止まるのだ。

アリスを苦しませないように。


「息を吐いて、アリス様」

「……っは、はぁ、ふ……」

「あと、少しだけ……はぁ、貴方の中は、熱く畝って……今にも放ってしまいそうだ」


ぬち。ぬち。

慎重に腰を進めるレイグリッドに、アリスは内側からせり上がってくる感情に瞳を濡らす。

ぽろぽろと涙を溢したアリスに、レイグリッドはぎょっとして腰を引こうとするのに、脚を絡められてできない。


「いいのです、レイ……。僕は、嬉しくて……。だから、痛くたっていい、レイが、欲しい」

「くっ……!」

「ああああっ!――――ッ!」


どチュン!
勢いのまま貫かれた。痛みよりも、レイグリッドと繋がれた喜びに胸が詰まる。
下腹部がキュンとして、畝っているのが分かるくらいに。


「アリス様っ!もう、貴方は……っ!」


覆い被さってきたレイグリッドは、アリスの唇にむしゃぶりつく。
唾液がだらだらと溢れてしまう程の激しいキスと同時に、開いたばかりの内壁を、その熱い肉棒で擦り始めた。


「ひあっ、あ、あ、あ、あ」

「どれだけ、我慢したと、思ってんですか……!」

「ああっ、や、ひぇ、ああんっ!」


レイグリッドの金色の瞳は、ギラギラと野生の獣のようにアリスを捉えていた。格好いい。

はぁ、今この瞬間、食べられたって構わない。

苦しかろうが痛かろうが、彼から与えられたものならなんだっていい。

レイグリッドの首に抱きつく。二人ともが熱く、汗の滴る肌がこすれ、尻の奥でもじゅぷじゅぷと水音がする。


「はぁ、あっ、あっ、あっ、」

「ああ、アリス、さま、もう……!」

「んんっ、あう、あ、――――っ!」


ジュプッ!ジュプッ!ジュプッ!ジュプッ!

グッ……!と腰を引いた次の瞬間。
パンッ!と奥まで捩じ込まれた欲望から、熱い飛沫が叩きつけられた。


「ひ、あ、――――!」


絶頂した。自分では到底得られない快感の高みへと上り詰め、背中がぐんっと仰け反る。


(これが、レイの……)


そしてその高みから降りるとともに、アリスの意識は、暗闇に沈んでいった。







翌朝。窓から差し込む爽やかな陽気と共に、起床したアリスは顔を覆っていた。


全てを思い出したのだ。


それは、散々乱れまくった昨晩の事だけではない。

その前の、何度もレイグリッドを忘れようとして『封印』していた過去の事。


(レイに『埃がついてる』なんて言って髪の毛を採取したり、偶然を装って匂いを嗅いだり、少し照れる顔を眺めたりそれを思い出しながら自慰をしたり、『秘密の隠れ家』にレイの好きなお茶や好きな珈琲も書籍も揃えて、……僕、結構やりたい放題じゃないか!)


レイグリッドへの想いを自覚してから、何度も捨てようと思った恋心は、大切にしすぎて捨てきれず、『封印』をしたのだった。

封印を解く条件は、『レイグリッドの精を受け止める事』。



それが出来たら思い出してもいい状況ということだ、などとだらしのない顔で想像して、彼の髪の毛から魔力を参照して。


クリスティアンという婚約者がいたにも関わらず、彼の身体や瞳を見るたびに胸が跳ねるのをどうしても止められなかった。

だから、何度も封印して、その度に彼のことだけ忘れたのだ。

それでも、やっぱり、彼を愛してしまった。


「……アリス様」

「あ、……お、はようございマス……」

「……何とも眼福ですね。寝起きの色気が漏れて……身体は大丈夫ですか?」

「んっと、どう、でしょう……少しだけ、腰が痛い気がします……」

「!貴方がそう言うということは、かなり痛いですね?すみません、無体を……」

「い、いえ!その、嬉しい痛みですから、これは」

「~~っアリス様!」


ぎゅむ、と逞しい身体に包み込まれる。そしてゴリッと当たる腰のもの。

えっと。流石に、しない……よね?朝だし?数時間前にしたばかりだし?

おずおずと見上げると、レイグリッドはとてもいい笑顔で笑った。


「アリス様。今度は優しく、しますね」


その言葉通り、レイグリッドはアリスが『もういれて』と懇願するまで愛撫し続け、再び気絶するまで何度も抱いたのだった。






隣国帝国へ亡命したアリスは、レイグリッドが実は隣国の辺境伯嫡男であり、帝国の間諜だったことを知る。レイグリッドと婚姻したアリスは、次期辺境伯夫人として的確に采配を振るい、辺境の領を大いに富ませた。

帝国の皇子らとも懇意となり、アリスは皆に頼りにされ、レイグリッドにも毎晩愛され、幸せに過ごしたのだった。
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