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僕は悩んだ末、指名依頼を受けることにした。


「いやぁ、辞めときなって。何なら俺が代わろうか?俺も一応Aだし……」

「ランスさん、ありがとうございます。でも、一回行ったら要注意人物リストに載せてもらえるので、それを狙っているんです」

「あー……あったね、そういうの」


ランスさんは渋い顔を作って、頭をぽんぽんと撫でてくれ、きゅっと軽くハグしてくれる。


「でもね、その一回でロキの心に穴が空くかもしれない。そう考えると、心配で……」


多分、その昔セーラさんというエルフの人にされた事をだと思う。あの事は、ランスさんも知っている。僕の『放っておいて欲しい』気持ちに大きな拍車をかけた出来事。
けれども少し違うのは、マリーはセーラさん程老獪でないこと。だからあまり脅威には感じていない。


「大丈夫です。あの時の僕とは違います。仲間がいっぱいいるし、友だちもいます。もちろん、ランスさんも」

「ロキ……」

「それに、僕にちょっかいを出したら痛い目にあうんだって分からせないといけない。と、思います……」


言いながらちょっと不安になってきた。僕は誰かに対して積極的に関わろうとはしてこなかったから。いつも受け身だった。今回だって、きっかけは向こうから。

だけどマリーは、マリーだけはもう、僕の人生から退場させたい。そう強く心に決めた。

マリーからの指名依頼の内容は、『迷宮探索における技術指導(一泊二日)』だった。依頼を受ける事を伝えると、リリアンナさんが不安そうな顔をしていた。


「ロキさん、あたしが言うのも何ですが、マリーさんには本当に気をつけて下さい。あの子、男の子を味方につけるのがすごく上手いんです……」

「あー……はい。その点は大丈夫だと思います」

「そ、そうですか?」

「はい。僕は徹底的に指導だけをするつもりです」


にこりと笑うと、リリアンナさんは引き攣ったような笑みを返してくれた。









数日後に待ち合わせ場所へ向かうと、パーティーメンバーはおらず、マリーだけがいた。
依頼料を出したのは表向き、マリーだけだものね。それは、いい。覚悟は決めてきているから。目の前の子はマリーじゃない、金貨10枚だ。


「お待たせしてしまいましたか?」

「い、いえっ!全然っ、あたしも今来たところなんですっ!」


こうしてみると、マリーは僕より少し小さい。いつの間にか背を越していたみたい。頬を染めて上目遣い……って、かつてランスさんにしていた手法と同じじゃないか。


「それで、どこに行くか決めていますか?」

「ええっとぉ、せっかくなのでAランク迷宮に行こうかなって。ほら、近くにある……」

「それはお勧めしません。マリーさんはパーティーを組んでCランクですから、ご自分の力量に合わせた迷宮を選ぶのも大事な事です」


マリーはやはり、素材価値の高いAランク迷宮に行きたがっていた。それは予想通りだったので、『指導』として至極真面なことを言っただけ。


「えっ、でもお……」

「マリーさんは鞭術を使うようですね。僕の戦い方はあまり参考にならないと……前にお会いした時に言ったので、分かっていると思います。今日は、戦い方以外のことで教えられる事を教えたいと思います。行きましょう」

「えっ……ええ~……?」


そうして連れてきたのは、先日来たばかりの『熱雨林の迷宮』。マリーは複数人でCランクだから、ソロで行くならDランク迷宮が相応しいと思うけれど……ここの第一層なら、まだ大丈夫だと思う。


「本来は入る前に調べて装備を整えるのですが、時間がないので貸しますね。これを羽織って下さい。防水の靴はありますか?えっ、では、ギン、防水の液体出して塗ってあげてくれる?……ミズタマは傘になって」


マリーは本当にCランク冒険者なのか疑わしい程に、何も持っていなかった。ええっと、その鞄は魔法鞄じゃなかったんだ……。

あれこれと世話をしている僕を見て、マリーはぽわっと頬を染めている。けれど、そんな場合じゃないんだ。


「では、まずは私が先行しますが、一通り終わったら交代しますよ」

「は、はいっ!」


マリーより前に出よう……として、裾を掴まれる。首を傾げると、口を尖らせていた。


「その、あんまり離れると……不安、かなって」

「……護衛任務についたことは、ありますよね?」

「あ、はい……皆んなとですけど」

「間合いを把握していることが大事です。護衛対象が近過ぎると、誤って切ってしまったり、身動き出来ず初手が遅れることもあります」


そういうと、マリーは笑顔を固まらせ、そっと手を離した。それでいい。







それからもいちいち細かく指導をしながら探索を続けていくのだが、マリーは何かと接触してこようとする。


見本としてアダマンタイトスネークをスパッと斬った時は、悲鳴を上げて僕に飛びついてきたり。
交代して先行させたらすぐにふらついて転びそうになり、仕方なく支えたり。


どう考えてもマリーの動きは、Dランクがいいところだった。よくよく聞けば、マリーのパーティーは総勢八人だそう。多い……。

盾役三人、剣士二人、魔法士が一人に弓士が一人。マリーは真ん中に入り、中距離の敵を弾くのが役割だとか。
正直要らないと思うのだけど、マリー以外全員男だそうで、姫のような扱いをされているんだって。
そう得意気に話しているマリーは、やっぱり戦力という意味では不要にしか思えなかった。

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