上 下
59 / 158

58 Cランクへ

しおりを挟む

ブランドン侯爵家に戻る前に、冒険者ギルドへと寄った。暫く放置していたのだけど、話したい事があるみたい。

お茶の時間で閑散としたギルドに入ると、既にシガールさんとリリアンナさんが待っていた。


「ロキさぁん!」

「ロキ様、お帰りなさい」

「ただいま戻りました。話はここで、ですか?」

「いえ、奥へ行きましょう」


うっとりと僕を見つめるリリアンナさんをシガールさんが鋭く小突く。そのままシガールさんが奥の部屋へ案内してくれようとした、その時だった。


「ロキ?ロキ……!」


ぱっと振り向くと、キラキラの金髪碧眼のイケメン。
ランスさんだ。三年経ったのに、全く外見が変わっていない!

僕に抱きつこうとしたので避けると、悲しそうな顔をしていた。そんな時はすかさずギンを握らせれば……少し無理をした笑顔になった。


「生きてたんだね、信じてたけど、また会えて良かった……!」

「ランスさん、お久しぶりです。全くお変わりないですね」


僕をぺたぺたと触って確かめている。不快では無いので気の済むようにされるがままでいると、ぎゅむっと頬を両手で挟まれた。


「はぁ、少年から青年になりつつあるね。背も大分伸びた。それに、かなり無茶してきたね?『魂の強化』を何回も重ねてる。隠していたって俺には分かるよ。……もう実力越されちゃったかも」

「ランスさんだって、Aランクに上がったって聞きましたよ。流石僕の師匠です」

「まだ、師匠と言ってくれるんだね……」


ぐ、とランスさんの碧眼が潤み出した。僕は慌ててランスさんを引っ掴み、シガールさんやリリアンナさんと共に個室へと入った。
Aランクを泣かせたなんて、よろしくない噂が立っては困る!


「もう、ランスさん。こんなに感動屋でしたか?」

「ロキ様。ランスさんにも色々お話を聞いています。彼もロキ様に対して行った言動で、後悔しているようですよ?」


シガールさんの言葉に、パッと思い浮かべたのは、僕に警戒心を持たせるよう、襲う演技をしたことだ。けれどあれは……必要なことだったと、今では感謝している。


「僕は、ランスさんに教わっただけです。確実に、僕の力になりました。後悔することは何も無いですよ?」

「違う。もっと他の方法もあったのに、それを選ばなかった。そしたら、ロキが思い詰める前に相談してくれただろうに。ごめんな……。」

「ええっと、たしかに相談せず引きこもってすみません。色々あって……あの時、ランスさんに頼るのは、何だか気まずくて」

「そうさせたのは俺だよ。本当にごめん。出来ればまた、いつでも話のできる関係でいたいんだけど……」

「それはもちろん!僕からもお願いします」


ランスさんはそう聞くと顔を輝かせた。こちらにも犬がいたみたいだ。ゴールデンレトリバーみたいに人懐こい感じの。

だって、味方は多い方が良い。ランスさんはAランカーだしね。

ランスさんが泣き止むと、シガールさんは僕の個人的な話だと言って追い出してしまった。














リリアンナさんが、シガールさんをびくびくチラチラ見ながら口を開く。


「今現在ロキさんは、侯爵家で護衛として雇われているとの事。なので、Cランクへ昇格してもいいですか?というのが、本題です」

「ああ、護衛任務こなさないとダメだったですもんね……」

「ブランドン侯爵家から申し分ないと評価された手紙を持ってきていますので、その条件はクリアしたと見做されましたよ」

「はい。あとは実力の方ですが、本来ゴブリンやオークの集落か、コボルト類の群れの討伐を受けていただく所なのですが……」

「Dランクへ上がる際に、既にニールが確認していますので、こちらも時間の無駄だと判断しました」

「そう言えば、そんなこともありましたね……」


懐かしいなと遠い目をしたら、シガールさんがジト目で僕を見ていた。


「10歳時点でもうCランクの実力を持っていたのに、それから『魂の強化』を何度も経験したと思われるロキ様は、一体どれ程の力を持つことか……」

「どうでしょうね……人の闘っている所は見てこなかったので……」


比較は難しい。武器も双剣を使う人はあまり居ないし、そもそも単独で活動する冒険者は少なく、それこそランスさんくらいしか知らない。

あとはオルだけど、竜人だし、冒険者登録すらしていないし、全く参考にならないくらい強いと思うから。
リリアンナさんはこほんと話を元に戻す。


「という訳でCランクにランクアップです。恐らく、直ぐにBへランクアップするでしょうが……」


と、次のランクアップ条件を説明をしてくれた。

Bランクへ上がるには、貴族の指名依頼を複数こなし、『良』を得ることが条件。
その上で、実力試験はCランク推奨の迷宮を攻略すること。


「現在ブランドン侯爵家の依頼を受けているとも捉えられるため、もう少ししたらまた評価を頂きましょう。それで指名依頼の条件はクリアできます」

「迷宮攻略は……」

「散々攻略してきたとは思いますが、貴方の記録が無いので、もう一度行く必要があります」


すみません、不法侵入していて。それは、シガールさんも調査済みのようなのでお咎めは無しのようだ。
迷宮への不法侵入は、中でなにがあったとしても自己責任になるということだけで、犯罪ではないみたい。良かった。


「それは問題ないです。そのランクの迷宮は10……?個は一度攻略しているので、最下層に転移陣でいけます」


一日、いや、数時間で終わらせられるだろう。いよいよBランクが見えてきたなぁと、感慨深く感じていると、目の前の二人がまたジト目になっていた。


「何という反則的な……いや、反則では無いのですが……」

「普通はもっとこう……数十日、何ヶ月かかかるんですがね……情緒がない……」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...