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58 Cランクへ
しおりを挟むブランドン侯爵家に戻る前に、冒険者ギルドへと寄った。暫く放置していたのだけど、話したい事があるみたい。
お茶の時間で閑散としたギルドに入ると、既にシガールさんとリリアンナさんが待っていた。
「ロキさぁん!」
「ロキ様、お帰りなさい」
「ただいま戻りました。話はここで、ですか?」
「いえ、奥へ行きましょう」
うっとりと僕を見つめるリリアンナさんをシガールさんが鋭く小突く。そのままシガールさんが奥の部屋へ案内してくれようとした、その時だった。
「ロキ?ロキ……!」
ぱっと振り向くと、キラキラの金髪碧眼のイケメン。
ランスさんだ。三年経ったのに、全く外見が変わっていない!
僕に抱きつこうとしたので避けると、悲しそうな顔をしていた。そんな時はすかさずギンを握らせれば……少し無理をした笑顔になった。
「生きてたんだね、信じてたけど、また会えて良かった……!」
「ランスさん、お久しぶりです。全くお変わりないですね」
僕をぺたぺたと触って確かめている。不快では無いので気の済むようにされるがままでいると、ぎゅむっと頬を両手で挟まれた。
「はぁ、少年から青年になりつつあるね。背も大分伸びた。それに、かなり無茶してきたね?『魂の強化』を何回も重ねてる。隠していたって俺には分かるよ。……もう実力越されちゃったかも」
「ランスさんだって、Aランクに上がったって聞きましたよ。流石僕の師匠です」
「まだ、師匠と言ってくれるんだね……」
ぐ、とランスさんの碧眼が潤み出した。僕は慌ててランスさんを引っ掴み、シガールさんやリリアンナさんと共に個室へと入った。
Aランクを泣かせたなんて、よろしくない噂が立っては困る!
「もう、ランスさん。こんなに感動屋でしたか?」
「ロキ様。ランスさんにも色々お話を聞いています。彼もロキ様に対して行った言動で、後悔しているようですよ?」
シガールさんの言葉に、パッと思い浮かべたのは、僕に警戒心を持たせるよう、襲う演技をしたことだ。けれどあれは……必要なことだったと、今では感謝している。
「僕は、ランスさんに教わっただけです。確実に、僕の力になりました。後悔することは何も無いですよ?」
「違う。もっと他の方法もあったのに、それを選ばなかった。そしたら、ロキが思い詰める前に相談してくれただろうに。ごめんな……。」
「ええっと、たしかに相談せず引きこもってすみません。色々あって……あの時、ランスさんに頼るのは、何だか気まずくて」
「そうさせたのは俺だよ。本当にごめん。出来ればまた、いつでも話のできる関係でいたいんだけど……」
「それはもちろん!僕からもお願いします」
ランスさんはそう聞くと顔を輝かせた。こちらにも犬がいたみたいだ。ゴールデンレトリバーみたいに人懐こい感じの。
だって、味方は多い方が良い。ランスさんはAランカーだしね。
ランスさんが泣き止むと、シガールさんは僕の個人的な話だと言って追い出してしまった。
リリアンナさんが、シガールさんをびくびくチラチラ見ながら口を開く。
「今現在ロキさんは、侯爵家で護衛として雇われているとの事。なので、Cランクへ昇格してもいいですか?というのが、本題です」
「ああ、護衛任務こなさないとダメだったですもんね……」
「ブランドン侯爵家から申し分ないと評価された手紙を持ってきていますので、その条件はクリアしたと見做されましたよ」
「はい。あとは実力の方ですが、本来ゴブリンやオークの集落か、コボルト類の群れの討伐を受けていただく所なのですが……」
「Dランクへ上がる際に、既にニールが確認していますので、こちらも時間の無駄だと判断しました」
「そう言えば、そんなこともありましたね……」
懐かしいなと遠い目をしたら、シガールさんがジト目で僕を見ていた。
「10歳時点でもうCランクの実力を持っていたのに、それから『魂の強化』を何度も経験したと思われるロキ様は、一体どれ程の力を持つことか……」
「どうでしょうね……人の闘っている所は見てこなかったので……」
比較は難しい。武器も双剣を使う人はあまり居ないし、そもそも単独で活動する冒険者は少なく、それこそランスさんくらいしか知らない。
あとはオルだけど、竜人だし、冒険者登録すらしていないし、全く参考にならないくらい強いと思うから。
リリアンナさんはこほんと話を元に戻す。
「という訳でCランクにランクアップです。恐らく、直ぐにBへランクアップするでしょうが……」
と、次のランクアップ条件を説明をしてくれた。
Bランクへ上がるには、貴族の指名依頼を複数こなし、『良』を得ることが条件。
その上で、実力試験はCランク推奨の迷宮を攻略すること。
「現在ブランドン侯爵家の依頼を受けているとも捉えられるため、もう少ししたらまた評価を頂きましょう。それで指名依頼の条件はクリアできます」
「迷宮攻略は……」
「散々攻略してきたとは思いますが、貴方の記録が無いので、もう一度行く必要があります」
すみません、不法侵入していて。それは、シガールさんも調査済みのようなのでお咎めは無しのようだ。
迷宮への不法侵入は、中でなにがあったとしても自己責任になるということだけで、犯罪ではないみたい。良かった。
「それは問題ないです。そのランクの迷宮は10……?個は一度攻略しているので、最下層に転移陣でいけます」
一日、いや、数時間で終わらせられるだろう。いよいよBランクが見えてきたなぁと、感慨深く感じていると、目の前の二人がまたジト目になっていた。
「何という反則的な……いや、反則では無いのですが……」
「普通はもっとこう……数十日、何ヶ月かかかるんですがね……情緒がない……」
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