5 / 22
本編
5 二日目 昼
しおりを挟む
「おはよう、フェリスくん。……おや?眠そうだね」
「わっ、あ、れれレオン様……!おはようございます!」
翌朝、勇者様たちが僕の家を訪ねてきて下さった。
父と母はもてなしたくとも、大っぴらには出来なくてやきもきしているようだ。
下手な顰めっ面をしているけど、お母様の手がうずうずしている。多分、お茶か朝食を作りたいのだろう。
僕はというと、せめてこの村に滞在中はおもてなしすることにした。
だってせっかく来てくれたのだ。僕が彼らの旅に着いていくことは出来なくても、『行って損ではなかった』くらいの思い出になるといい。
「村長のところで朝食は期待出来なさそうでね。野外食をしようと思うのだが、フェリスくん、一緒にどうかな」
「はいっ!ぜひお供させてください!」
「かわっ……ぐっ……」
ヴァネッサさんが呻いた瞬間、ガルフさんが鳩尾に肘鉄を喰らわせていた。だ、大丈夫かな?女の人になんてことをするのだろう。
そう思ったら、ヴァネッサさんが即座に肘へ光を集めて報復していた。あれは身体強化だろうか。ガルフさんは大柄なのにぷるぷる震えて蹲ってしまった。……とても、仲が良いんだね……。
村の中にいると村人たちの視線がちくちくするため、僕は彼らを誘って村の外へ出ることにした。
伊達にアノンを追いかけ回していない。休憩するのに良いところや、もちろん、食べるのにぴったりな場所も知っている。
「えいっ」
ボコッ!
「とやっ」
ドゴッ!
「よっ」
ドスッ!
「思ってたんと違う」
ガルフ様が呟く。え?と振り返ると、ガルフ様はドン引きし、レオン様は目を丸くし、ヴァネッサ様は……胸を抑えている?
「いいっ……、鉄棒を振り回す美少年!あたくしのっ、癖にぶっ刺さってるわっ!ああ、なんて沼なの!」
「ヴァネッサ……、私も驚いた。まさか神官が鉄棒を振り回して豚男すら瞬殺するとは」
「豚男は危険ですからね、念入りに叩きませんと」
僕は村の女の人が襲われないように、それは常に心がけている。たまに僕を見て間違えて興奮する豚男がいるから、なんて不本意なことは言わない。
ヴァネッサ様は魔術士だから魔力を使う。魔力とは自然の力なので、木から出来た杖を使うが、僕は神力なので、貴金属で出来た杖が適している。
ただし、そんな気の利いたものが村にある訳ないので、『金属だから』という理由で鉄の棒を杖がわりに持っていた。
その鉄棒を護身術に組み合わせれば、僕のような非力でも豚男くらいなら楽に倒せてしまうのだ。
「荒くれ者の使う粗末なイメージの鉄棒なのに……」
「レオン、よく見なさいよ。フェリスちゃんの神力に浸かって、あんなに輝いている棒を鉄棒だと言える?あれはもはや天使の鉄槌と言っても……」
「それは過言だろ。っちょ、ここではやめろ!」
「お黙りなさい」
お三方は後ろで楽しそうである。いいなぁ。一緒に旅が出来たらきっと楽しいんだろう……と思う気持ちを、頭をぶんぶんと振って打ち消す。いけないいけない。僕は、村にいないと。
僕がアノンを見つけて帰る時、結構村から距離があることがある。
そう言う時、アノンが『腹へって動けない』とか『寒くて歩けない』とか言うので、割とその辺に野外食用のポイントを作っておいている。
その中の一つが川辺にあるので、皆さんを案内した。
ここはとても清涼な空気に満ちている。今は陽の光で水面がきらきらと反射するのを眺められるし、夜なら月の光も浴びれる。水のせせらぎの音以外、とても静かで、滅多に魔物も来ない場所だ。
瞑想する所としても、僕のとっておきの場所。
「では、さっき狩った猪を調理しますね。みなさまはそこに椅子がわりの岩でお休みください」
「えっ……もちろん、私たちも一緒にやるぞ?」
「いえいえ!村ではみんながすみません。僕が出来るのはこのくらいなので、ぜひやらせてください」
「なんて良い子なの……お姉さん心配になっちゃうわぁ……」
「それは同感だね」
困惑してそわそわするレオン様は、やっぱりとても良い人なのだろう。だからこそ、おもてなししたい!
魔力はあまりない僕でも、身体強化は少し使える。手や腕に付与すれば、そこだけ怪力になれるのだ。
神力は割とあるため、猪を浄化し、小刀に『防御力上昇』を付与する。錆びつくことも刃が欠けることもなく、ぬるりと切れていく。村でも解体する時はみんなの包丁にかけてあげているから、そこそこの修練度だと思う。
手早く解体し終えると、いつの間にかレオン様が調味料や鍋などを広げていた。
「勇者パーティーだからね。魔法袋は一人一つ支給されるんだ。もちろん、フェリスくんもついてきてくれるなら、支給されるよ」
「それだけじゃないわ。勇者パーティーに入っている限り給付金もたんまりと貰えるわ。子供が20人くらいいたって養えるわよ」
「そうだ。武器も特注品を貰えるし、それらはパーティーを引退したってお前のものだ」
「うわわ……すごいですね。流石という感じがします」
レオン様から渡された調味料は、いずれも新鮮で香高く、魔法袋の優秀さに舌を巻いた。それらを使って猪肉煮込みを作ると、もう、家で作るのとは全く違う美味しさ。
それに気を取られて、彼らが次々と話してくれる勇者パーティーに入るメリットを聞き逃してしまっていた。
「これは美味い……!フェリスくん、君は料理の才能もあるのかい!?正直、私たち三人とも味のセンスが無くてね。切ったり焼いたりするのは得意なのだが」
「ほとんど肉の丸焼きが多いわよね。お肌に悪いわ~」
「……これは感動ものだな。一生食える」
口々に褒めてくれ、ばくばくと食べて頂けた。
ふと浮かぶのは、アノンに振る舞った時の事。
僕はアノンを回収して、疲れていても、食べてもらえるよう工夫をして出していたけれど、アノンは何も言ってくれなかった。無理やり連れ帰っている手前、むすっとして不機嫌な彼をどうこう言えなくて、ただただ静かにモノを口に詰め込む作業。
こんなに、僕の料理で笑顔になってくれるなんて……嬉しい。
「ありがとうございます。こんなもので申し訳ないですが、う、嬉しいです」
照れて俯く僕に、レオン様の優しい視線が降り注ぐよう。
心が、揺れていた。
「わっ、あ、れれレオン様……!おはようございます!」
翌朝、勇者様たちが僕の家を訪ねてきて下さった。
父と母はもてなしたくとも、大っぴらには出来なくてやきもきしているようだ。
下手な顰めっ面をしているけど、お母様の手がうずうずしている。多分、お茶か朝食を作りたいのだろう。
僕はというと、せめてこの村に滞在中はおもてなしすることにした。
だってせっかく来てくれたのだ。僕が彼らの旅に着いていくことは出来なくても、『行って損ではなかった』くらいの思い出になるといい。
「村長のところで朝食は期待出来なさそうでね。野外食をしようと思うのだが、フェリスくん、一緒にどうかな」
「はいっ!ぜひお供させてください!」
「かわっ……ぐっ……」
ヴァネッサさんが呻いた瞬間、ガルフさんが鳩尾に肘鉄を喰らわせていた。だ、大丈夫かな?女の人になんてことをするのだろう。
そう思ったら、ヴァネッサさんが即座に肘へ光を集めて報復していた。あれは身体強化だろうか。ガルフさんは大柄なのにぷるぷる震えて蹲ってしまった。……とても、仲が良いんだね……。
村の中にいると村人たちの視線がちくちくするため、僕は彼らを誘って村の外へ出ることにした。
伊達にアノンを追いかけ回していない。休憩するのに良いところや、もちろん、食べるのにぴったりな場所も知っている。
「えいっ」
ボコッ!
「とやっ」
ドゴッ!
「よっ」
ドスッ!
「思ってたんと違う」
ガルフ様が呟く。え?と振り返ると、ガルフ様はドン引きし、レオン様は目を丸くし、ヴァネッサ様は……胸を抑えている?
「いいっ……、鉄棒を振り回す美少年!あたくしのっ、癖にぶっ刺さってるわっ!ああ、なんて沼なの!」
「ヴァネッサ……、私も驚いた。まさか神官が鉄棒を振り回して豚男すら瞬殺するとは」
「豚男は危険ですからね、念入りに叩きませんと」
僕は村の女の人が襲われないように、それは常に心がけている。たまに僕を見て間違えて興奮する豚男がいるから、なんて不本意なことは言わない。
ヴァネッサ様は魔術士だから魔力を使う。魔力とは自然の力なので、木から出来た杖を使うが、僕は神力なので、貴金属で出来た杖が適している。
ただし、そんな気の利いたものが村にある訳ないので、『金属だから』という理由で鉄の棒を杖がわりに持っていた。
その鉄棒を護身術に組み合わせれば、僕のような非力でも豚男くらいなら楽に倒せてしまうのだ。
「荒くれ者の使う粗末なイメージの鉄棒なのに……」
「レオン、よく見なさいよ。フェリスちゃんの神力に浸かって、あんなに輝いている棒を鉄棒だと言える?あれはもはや天使の鉄槌と言っても……」
「それは過言だろ。っちょ、ここではやめろ!」
「お黙りなさい」
お三方は後ろで楽しそうである。いいなぁ。一緒に旅が出来たらきっと楽しいんだろう……と思う気持ちを、頭をぶんぶんと振って打ち消す。いけないいけない。僕は、村にいないと。
僕がアノンを見つけて帰る時、結構村から距離があることがある。
そう言う時、アノンが『腹へって動けない』とか『寒くて歩けない』とか言うので、割とその辺に野外食用のポイントを作っておいている。
その中の一つが川辺にあるので、皆さんを案内した。
ここはとても清涼な空気に満ちている。今は陽の光で水面がきらきらと反射するのを眺められるし、夜なら月の光も浴びれる。水のせせらぎの音以外、とても静かで、滅多に魔物も来ない場所だ。
瞑想する所としても、僕のとっておきの場所。
「では、さっき狩った猪を調理しますね。みなさまはそこに椅子がわりの岩でお休みください」
「えっ……もちろん、私たちも一緒にやるぞ?」
「いえいえ!村ではみんながすみません。僕が出来るのはこのくらいなので、ぜひやらせてください」
「なんて良い子なの……お姉さん心配になっちゃうわぁ……」
「それは同感だね」
困惑してそわそわするレオン様は、やっぱりとても良い人なのだろう。だからこそ、おもてなししたい!
魔力はあまりない僕でも、身体強化は少し使える。手や腕に付与すれば、そこだけ怪力になれるのだ。
神力は割とあるため、猪を浄化し、小刀に『防御力上昇』を付与する。錆びつくことも刃が欠けることもなく、ぬるりと切れていく。村でも解体する時はみんなの包丁にかけてあげているから、そこそこの修練度だと思う。
手早く解体し終えると、いつの間にかレオン様が調味料や鍋などを広げていた。
「勇者パーティーだからね。魔法袋は一人一つ支給されるんだ。もちろん、フェリスくんもついてきてくれるなら、支給されるよ」
「それだけじゃないわ。勇者パーティーに入っている限り給付金もたんまりと貰えるわ。子供が20人くらいいたって養えるわよ」
「そうだ。武器も特注品を貰えるし、それらはパーティーを引退したってお前のものだ」
「うわわ……すごいですね。流石という感じがします」
レオン様から渡された調味料は、いずれも新鮮で香高く、魔法袋の優秀さに舌を巻いた。それらを使って猪肉煮込みを作ると、もう、家で作るのとは全く違う美味しさ。
それに気を取られて、彼らが次々と話してくれる勇者パーティーに入るメリットを聞き逃してしまっていた。
「これは美味い……!フェリスくん、君は料理の才能もあるのかい!?正直、私たち三人とも味のセンスが無くてね。切ったり焼いたりするのは得意なのだが」
「ほとんど肉の丸焼きが多いわよね。お肌に悪いわ~」
「……これは感動ものだな。一生食える」
口々に褒めてくれ、ばくばくと食べて頂けた。
ふと浮かぶのは、アノンに振る舞った時の事。
僕はアノンを回収して、疲れていても、食べてもらえるよう工夫をして出していたけれど、アノンは何も言ってくれなかった。無理やり連れ帰っている手前、むすっとして不機嫌な彼をどうこう言えなくて、ただただ静かにモノを口に詰め込む作業。
こんなに、僕の料理で笑顔になってくれるなんて……嬉しい。
「ありがとうございます。こんなもので申し訳ないですが、う、嬉しいです」
照れて俯く僕に、レオン様の優しい視線が降り注ぐよう。
心が、揺れていた。
107
お気に入りに追加
850
あなたにおすすめの小説
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい
雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。
賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい……
一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長
※ご都合主義です
※無理矢理な描写があります。
※他サイトからの転載dす
文官Aは王子に美味しく食べられました
東院さち
BL
リンドは姉ミリアの代わりに第三王子シリウスに会いに行った。シリウスは優しくて、格好良くて、リンドは恋してしまった。けれど彼は姉の婚約者で。自覚した途端にやってきた成長期で泣く泣く別れたリンドは文官として王城にあがる。
転載になりまさ
[完結]嫁に出される俺、政略結婚ですがなんかイイ感じに収まりそうです。
BBやっこ
BL
実家は商家。
3男坊の実家の手伝いもほどほど、のんべんだらりと暮らしていた。
趣味の料理、読書と交友関係も少ない。独り身を満喫していた。
そのうち、結婚するかもしれないが大した理由もないんだろうなあ。
そんなおれに両親が持ってきた結婚話。というか、政略結婚だろ?!
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
婚約破棄してくれてありがとう、王子様
霧乃ふー 短編
BL
「ジュエル・ノルデンソン!貴様とは婚約破棄させてもらう!!」
そう、僕の婚約者の第一王子のアンジェ様はパーティー最中に宣言した。
勝ち誇った顔の男爵令嬢を隣につれて。
僕は喜んでいることを隠しつつ婚約破棄を受け入れ平民になり、ギルドで受付係をしながら毎日を楽しく過ごしてた。
ある日、アンジェ様が僕の元に来て……
パン屋の僕の勘違い【完】
おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる