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本編

5 二日目 昼

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「おはよう、フェリスくん。……おや?眠そうだね」

「わっ、あ、れれレオン様……!おはようございます!」


 翌朝、勇者様たちが僕の家を訪ねてきて下さった。
 父と母はもてなしたくとも、大っぴらには出来なくてやきもきしているようだ。
 下手な顰めっ面をしているけど、お母様の手がうずうずしている。多分、お茶か朝食を作りたいのだろう。

 僕はというと、せめてこの村に滞在中はおもてなしすることにした。
 だってせっかく来てくれたのだ。僕が彼らの旅に着いていくことは出来なくても、『行って損ではなかった』くらいの思い出になるといい。


「村長のところで朝食は期待出来なさそうでね。野外食をしようと思うのだが、フェリスくん、一緒にどうかな」

「はいっ!ぜひお供させてください!」

「かわっ……ぐっ……」


 ヴァネッサさんが呻いた瞬間、ガルフさんが鳩尾に肘鉄を喰らわせていた。だ、大丈夫かな?女の人になんてことをするのだろう。

 そう思ったら、ヴァネッサさんが即座に肘へ光を集めて報復していた。あれは身体強化だろうか。ガルフさんは大柄なのにぷるぷる震えて蹲ってしまった。……とても、仲が良いんだね……。







 村の中にいると村人たちの視線がちくちくするため、僕は彼らを誘って村の外へ出ることにした。

 伊達だてにアノンを追いかけ回していない。休憩するのに良いところや、もちろん、食べるのにぴったりな場所も知っている。


「えいっ」

 ボコッ!

「とやっ」

 ドゴッ!

「よっ」

 ドスッ!

「思ってたんと違う」


 ガルフ様が呟く。え?と振り返ると、ガルフ様はドン引きし、レオン様は目を丸くし、ヴァネッサ様は……胸を抑えている?


「いいっ……、鉄棒を振り回す美少年!あたくしのっ、ヘキにぶっ刺さってるわっ!ああ、なんて沼なの!」

「ヴァネッサ……、私も驚いた。まさか神官が鉄棒を振り回して豚男オークすら瞬殺するとは」

「豚男は危険ですからね、念入りに叩きませんと」


 僕は村の女の人が襲われないように、それは常に心がけている。たまに僕を見て興奮する豚男がいるから、なんて不本意なことは言わない。

 ヴァネッサ様は魔術士だから魔力を使う。魔力とは自然の力なので、木から出来たロッドを使うが、僕は神力なので、貴金属で出来たロッドが適している。

 ただし、そんな気の利いたものが村にある訳ないので、『金属だから』という理由で鉄の棒を杖がわりに持っていた。
 その鉄棒を護身術に組み合わせれば、僕のような非力でも豚男くらいなら楽に倒せてしまうのだ。


「荒くれ者の使う粗末なイメージの鉄棒なのに……」

「レオン、よく見なさいよ。フェリスちゃんの神力に浸かって、あんなに輝いている棒を鉄棒だと言える?あれはもはや天使の鉄槌てっついと言っても……」

「それは過言だろ。っちょ、ここではやめろ!」

「お黙りなさい」


 お三方は後ろで楽しそうである。いいなぁ。一緒に旅が出来たらきっと楽しいんだろう……と思う気持ちを、頭をぶんぶんと振って打ち消す。いけないいけない。僕は、村にいないと。


 僕がアノンを見つけて帰る時、結構村から距離があることがある。

 そう言う時、アノンが『腹へって動けない』とか『寒くて歩けない』とか言うので、割とその辺に野外食用のポイントを作っておいている。
 その中の一つが川辺にあるので、皆さんを案内した。

 ここはとても清涼な空気に満ちている。今は陽の光で水面がきらきらと反射するのを眺められるし、夜なら月の光も浴びれる。水のせせらぎの音以外、とても静かで、滅多に魔物も来ない場所だ。
 瞑想する所としても、僕のとっておきの場所。


「では、さっき狩ったボアを調理しますね。みなさまはそこに椅子がわりの岩でお休みください」

「えっ……もちろん、私たちも一緒にやるぞ?」

「いえいえ!村ではみんながすみません。僕が出来るのはこのくらいなので、ぜひやらせてください」

「なんて良い子なの……お姉さん心配になっちゃうわぁ……」

「それは同感だね」


 困惑してそわそわするレオン様は、やっぱりとても良い人なのだろう。だからこそ、おもてなししたい!

 魔力はあまりない僕でも、身体強化は少し使える。手や腕に付与すれば、そこだけ怪力になれるのだ。
 神力は割とあるため、猪を浄化し、小刀に『防御力上昇』を付与する。錆びつくことも刃が欠けることもなく、ぬるりと切れていく。村でも解体する時はみんなの包丁にかけてあげているから、そこそこの修練度だと思う。

 手早く解体し終えると、いつの間にかレオン様が調味料や鍋などを広げていた。


「勇者パーティーだからね。魔法袋は一人一つ支給されるんだ。もちろん、フェリスくんもついてきてくれるなら、支給されるよ」

「それだけじゃないわ。勇者パーティーに入っている限り給付金もたんまりと貰えるわ。子供が20人くらいいたって養えるわよ」

「そうだ。武器も特注品を貰えるし、それらはパーティーを引退したってお前のものだ」

「うわわ……すごいですね。流石という感じがします」

 レオン様から渡された調味料は、いずれも新鮮で香高く、魔法袋の優秀さに舌を巻いた。それらを使ってボア肉煮込みを作ると、もう、家で作るのとは全く違う美味しさ。
 それに気を取られて、彼らが次々と話してくれる勇者パーティーに入るメリットを聞き逃してしまっていた。


「これは美味い……!フェリスくん、君は料理の才能もあるのかい!?正直、私たち三人とも味のセンスが無くてね。切ったり焼いたりするのは得意なのだが」

「ほとんど肉の丸焼きが多いわよね。お肌に悪いわ~」

「……これは感動ものだな。一生食える」


 口々に褒めてくれ、ばくばくと食べて頂けた。

 ふと浮かぶのは、アノンに振る舞った時の事。

 僕はアノンを回収して、疲れていても、食べてもらえるよう工夫をして出していたけれど、アノンは何も言ってくれなかった。無理やり連れ帰っている手前、むすっとして不機嫌な彼をどうこう言えなくて、ただただ静かにモノを口に詰め込む作業。

こんなに、僕の料理で笑顔になってくれるなんて……嬉しい。


「ありがとうございます。こんなもので申し訳ないですが、う、嬉しいです」


 照れて俯く僕に、レオン様の優しい視線が降り注ぐよう。
 心が、揺れていた。







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