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3章 夏:再会篇
15 夏祭り③
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花火を見終え、大樹の屋台に戻ると、怒りで青ざめた優が待っていた。
「どこ行ってたんだよ!」
優を見ても、今はそんなに怖くなかった。
もう優に囲い込まれていた中学時代ではないのだと、隣で手を握ってくれる存在が教えてくれるから。
それに、周りには心強い知り合いもいる。
その筆頭のまりなが、ゆきと優の間に割りこんだ。
「女の子を怒鳴るなんて、さいてー。どういう躾を受けてるわけ?」
まりなが呆れたようにいなすと、優はまりなをにらみつける。
まったく動じないまりなは、優にどの立場での発言なのかを詰めてしまうつもりのようだった。
「その子、彼女なんでしょ? 彼女のいる男が、ただの幼馴染が男といなくなったからって、なんでそんな怒るわけ? 浮気? 二股?」
「別に彼女とは付き合ってない。ゆきにだって、前に言ってるはずだよ」
ギャル風の彼女は、とても傷ついた顔をした。
それでも、この場を離れないのは、優が好きだからなのだろう。
「ゆき、頼むから話そう。誤解があると思うから」
さっきは怒鳴っていたくせに、次は懇願するような顔をする。
頼み事をするのも珍しいが、受けるわけにはいかなかった。
(話すことなんてない。優君とは友達でもなかったんだし)
ゆきは首をふるふると振る。
優はショックを受けた顔をした。
断られるなんて、思ってもみなかったという表情だった。
まりなが追い討ちをかける。
「優ってゆきちゃんのなんなの? 引っ越し先を内緒にされるくらいの仲だったのに追ってくるなんて、普通にストーカーにしか見えないんだけど」
「ストーカー? 俺が?」
「だってそうでしょ? どうやって調べたのか知らないけど、この町にゆきちゃんが引っ越してきたのを追ってきたんだから。ゆきちゃんの周りを調べまわったんでしょ? ストーカーじゃん」
「そんなことしてない! ただ話したくて、転送されるだろうから手紙を送っただけだ……」
ゆきは優の言葉に首をかしげる。
(優君から手紙? そんなのきてた?)
確かに転送届は母が仕事の都合上出していたのは知っていた。
でも、手紙が来てたかなんて、ゆきは知らなかった。
「手紙を送っただけで、なんでこの町だってわかるわけ?」
まりなの問いに優は言いづらそうな顔をした。
「それは、その、どこに引っ越したのか知りたかった、から」
「それで?」
「……特定記録郵便で出した」
知らない言葉に、ゆきは首をかしげる。
隣で聞いていた正が、察したように説明してくれた。
「なるほどな。特定記録郵便なら、配達先の取扱局がわかるんだよ。だから、幼馴染君はそれを見て、ゆきちゃんが住んでいる郵便局がある町を特定したんだな」
「そんなことができるんですか!」
「ゆきちゃんに手紙は本当に届いてなかった? 幼馴染君の名前じゃなかったかもだけど」
言われてみれば、引っ越し当初に名無しの郵便物が届いていたかもしれない。
母のものかと手渡したとき、たしか、母は何も入っていなかったと言ってなかったか?
青ざめるゆきを見て、まりなが大げさなため息をついた。
「気持ちわるっ! やっぱりストーカーじゃん」
「違う! ただ俺はゆきともう一度話し合いたかっただけだ」
「でも、ゆきちゃんは優ともう会いたくなかったんだよ? それなのに追ってくるなんてありえないんだけど。ねえ、ゆきちゃん、そうでしょ?」
ゆきは精一杯の勇気をふりしぼって、頷いた。
「ゆきっ!」
怒ったような、それでいて悲痛な声を優がのどから絞り出す。
一歩近づいて来ようとするので、正の後ろに逃げた。
それを見て、優は真っ青な顔をして、立ち止まる。
「……なんでだよ。ゆきは俺のこと好きだったんでしょ?」
優はどういう意味で言っているのだろうか。
友だちとして? それとも?
「優君は、私が好きなの?」
依然聞いた問いが、つい口から出ていた。
前は怒鳴られたが、今度の優はうなだれて、何も言わない。
(え? 本当に? 優君が私を好き?)
混乱するゆきは、ただ、優がうつむいているのを眺めるしかなかった。
沈黙が続く。
まりなは満足そうにしているが、ほかの皆はなんとも言えない顔になっていた。
気まずい空気がいつまでも続きそうだったが、ぶったぎる声が背後からした。
聞き覚えのある声にふりむくと、紺色の浴衣を着こなした美女が立っていた。
「差し入れにきたんだけど、取り込み中かしら」
真紀が目だけ笑っていない顔で、首をかしげている。
肉食獣の捕食後のように、赤い唇がテラテラと光って、ゆきは食べられちゃいそうだと本能的に思った。
「どこ行ってたんだよ!」
優を見ても、今はそんなに怖くなかった。
もう優に囲い込まれていた中学時代ではないのだと、隣で手を握ってくれる存在が教えてくれるから。
それに、周りには心強い知り合いもいる。
その筆頭のまりなが、ゆきと優の間に割りこんだ。
「女の子を怒鳴るなんて、さいてー。どういう躾を受けてるわけ?」
まりなが呆れたようにいなすと、優はまりなをにらみつける。
まったく動じないまりなは、優にどの立場での発言なのかを詰めてしまうつもりのようだった。
「その子、彼女なんでしょ? 彼女のいる男が、ただの幼馴染が男といなくなったからって、なんでそんな怒るわけ? 浮気? 二股?」
「別に彼女とは付き合ってない。ゆきにだって、前に言ってるはずだよ」
ギャル風の彼女は、とても傷ついた顔をした。
それでも、この場を離れないのは、優が好きだからなのだろう。
「ゆき、頼むから話そう。誤解があると思うから」
さっきは怒鳴っていたくせに、次は懇願するような顔をする。
頼み事をするのも珍しいが、受けるわけにはいかなかった。
(話すことなんてない。優君とは友達でもなかったんだし)
ゆきは首をふるふると振る。
優はショックを受けた顔をした。
断られるなんて、思ってもみなかったという表情だった。
まりなが追い討ちをかける。
「優ってゆきちゃんのなんなの? 引っ越し先を内緒にされるくらいの仲だったのに追ってくるなんて、普通にストーカーにしか見えないんだけど」
「ストーカー? 俺が?」
「だってそうでしょ? どうやって調べたのか知らないけど、この町にゆきちゃんが引っ越してきたのを追ってきたんだから。ゆきちゃんの周りを調べまわったんでしょ? ストーカーじゃん」
「そんなことしてない! ただ話したくて、転送されるだろうから手紙を送っただけだ……」
ゆきは優の言葉に首をかしげる。
(優君から手紙? そんなのきてた?)
確かに転送届は母が仕事の都合上出していたのは知っていた。
でも、手紙が来てたかなんて、ゆきは知らなかった。
「手紙を送っただけで、なんでこの町だってわかるわけ?」
まりなの問いに優は言いづらそうな顔をした。
「それは、その、どこに引っ越したのか知りたかった、から」
「それで?」
「……特定記録郵便で出した」
知らない言葉に、ゆきは首をかしげる。
隣で聞いていた正が、察したように説明してくれた。
「なるほどな。特定記録郵便なら、配達先の取扱局がわかるんだよ。だから、幼馴染君はそれを見て、ゆきちゃんが住んでいる郵便局がある町を特定したんだな」
「そんなことができるんですか!」
「ゆきちゃんに手紙は本当に届いてなかった? 幼馴染君の名前じゃなかったかもだけど」
言われてみれば、引っ越し当初に名無しの郵便物が届いていたかもしれない。
母のものかと手渡したとき、たしか、母は何も入っていなかったと言ってなかったか?
青ざめるゆきを見て、まりなが大げさなため息をついた。
「気持ちわるっ! やっぱりストーカーじゃん」
「違う! ただ俺はゆきともう一度話し合いたかっただけだ」
「でも、ゆきちゃんは優ともう会いたくなかったんだよ? それなのに追ってくるなんてありえないんだけど。ねえ、ゆきちゃん、そうでしょ?」
ゆきは精一杯の勇気をふりしぼって、頷いた。
「ゆきっ!」
怒ったような、それでいて悲痛な声を優がのどから絞り出す。
一歩近づいて来ようとするので、正の後ろに逃げた。
それを見て、優は真っ青な顔をして、立ち止まる。
「……なんでだよ。ゆきは俺のこと好きだったんでしょ?」
優はどういう意味で言っているのだろうか。
友だちとして? それとも?
「優君は、私が好きなの?」
依然聞いた問いが、つい口から出ていた。
前は怒鳴られたが、今度の優はうなだれて、何も言わない。
(え? 本当に? 優君が私を好き?)
混乱するゆきは、ただ、優がうつむいているのを眺めるしかなかった。
沈黙が続く。
まりなは満足そうにしているが、ほかの皆はなんとも言えない顔になっていた。
気まずい空気がいつまでも続きそうだったが、ぶったぎる声が背後からした。
聞き覚えのある声にふりむくと、紺色の浴衣を着こなした美女が立っていた。
「差し入れにきたんだけど、取り込み中かしら」
真紀が目だけ笑っていない顔で、首をかしげている。
肉食獣の捕食後のように、赤い唇がテラテラと光って、ゆきは食べられちゃいそうだと本能的に思った。
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