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3章 夏:再会篇

6 恋より友情

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「せっかく心配してあげてたのに、何イチャコラしてるのよ?」

まりなが顔を真っ赤にして言う。

ゆきは恥ずかしくなって、あわてて正とつないでいた手を引き抜いた。

「何をずっとこそこそしてるわけ? こんな離れた場所で構ってオーラ出しまくって? 言いたいことがあるなら、男に相談したりしないで私に言えばいいでしょ?」

まくしたてられて、ゆきはフリーズした。
とりなすように正が口を開く。

「落ち着け、まりなちゃん。君を避けてたんじゃないって、ちゃんと聞いといたよ。気にしてたもんな、よかったな」
「はあ? 気にしてないし! ただ、じっと見るくせに、目が合ったらそらすから感じ悪いと思ってただけだもん!」

怒った口調のわりに、まりなは少し泣きそうな表情になった。

この口の悪い友だちを傷つけていたのだと知り、まりなは苦しくて息がつまった。
唇をかんでいるのを見ていると、罪悪感が胸にはいあがってくる。

(まりなちゃんを傷つけてるのわかってたのに。フォローも人任せにしてたし、自分の気持ちばっかりで、ひどいことしてた。……最低だ)

いまさらかもしれないが、謝らずにはいられなかった。

「ごめん! ごめんね、まりなちゃん」

しばし沈黙してから、まりなが口を開く。

「別に! なんか事情があったんでしょ! あんたが器用じゃないことくらいわかってるし!」

まりながぷいっと横を向きながら言う。
いつも意地悪な言い方ばかりするまりなだったが、ゆきを心配してくれていたのは本当だったらしい。

ゆきは余計に、申し訳なくなってしまった。

何かもう少し説明しなきゃいけないと思う。
ただ、こういうときにうまい言い訳はひとつもうかんでこない。
保育園児くらいのコミュニケーション能力しかないのが情けなかった。

固まった地蔵のように、まりなを見ることしかできない。
まりなはチラチラとゆきを見ているけれど、これ以上口を開く気はないようだった。

何かを言わなきゃ。

頭がぐるぐるしてしまう頃に、正の笑い声がなぜか下からした。

「仲直りできたみたいだな!」

声のした方は岩の下だった。
下をのぞいてみると、さっきゆきがいた浅瀬で、正が手を振っている。
いつのまに取りに行ってくれたのか、正の腕の中にはスイカが収まっていた。

「よし! 仲直りがてら、スイカ割しようぜ」

暗い空気をぶったぎる正の言葉に、まりながすぐさま噛みついた。

「はあ? なんで今スイカ割り? ありえないんだけど。だいたいスイカを棒で叩き割るゲームになんの生産性があるわけ? 押しつぶされた部分なんて誰も食べたくないんですけど~」 
「ははは。まりなちゃんは本当によくしゃべるなあ」

(あ、正さん、そんなこといったら……)

案の定、正の言葉にまりなが瞬間沸騰した。

「正さん、空気読めなすぎ。これだから残念イケメンはダメなのよ! 顔がいいだけでいつまでもモテると思わないでよね」
「いや、モテるとは思ってないけど、なんだかごめんな」
「ゆきちゃんも何ぼうっとしてるわけ? 動かないでも何かしてくれるお姫様気分なわけ? 早くしないとみんなに迷惑なんだからね!」

ぷりぷりしながら、まりなが先に歩いて行ってしまう。

けれど、その後ろ姿は怒っているのではなく照れているようだった。

ゆきと正は少し遅れてついていった。
みんなのところに戻ると、スイカ割は開催されず、おばあの包丁できれいに切られてしまった。

正が少し無念そうな顔をしてそれぞれの手に渡していく。

ゆきも欠片をうけとって、美咲とまりなの横に恐る恐る近づいた。
美咲は嬉しそうに手招きしてくれる。

いただきますと言って食べようとしたら、まりなが一旦立って、ゆきの隣に腰をおろした。

さっきの話の続きをしたいのだとゆきは察した。

「まりなちゃん、本当にごめんね。ちゃんと説明するね」
「……ちゃっちゃと白状しなさいよ」
「うん……。実はこの前図書館でまりなちゃんを見たの」
「それが何よ?」

ピンときてない顔で、まりなが首をかしげる。

「そのときまりなちゃんと一緒にいた人、もしかしたら私の知っている人かもしれなくて」
「……それで?」
「ちょっと、会いたくなかった人だったから、なんでまりなちゃんといるのかな?と思ったら、なんか頭がぐるぐるしちゃって」
「避けられてたのは優が原因ってこと? 何? 知り合いだったの?」

(あ、やっぱり優君だったんだ。そうだとは思っていたけど、はっきりするとするでへこむ……)

「うん。私もその時に知ったんだけど、東京の幼馴染だったみたい」
「だから何なの? あんたの幼馴染かもしれないけど、別に盗ったわけじゃないんだから、そんなことで恨まれる筋合いないんですけど?」
「盗ったなんて思ってないよ! それに、こっちに引っ越してきたこと幼馴染には黙ってたから、これからも会うつもりはないんだ」
「……どういうことよ?」

これ以上、なんと言ったら伝わるんだろう。

困っていると、難しい顔をしながらまりなが口を開いた。

「つまり、優とは幼馴染だけど会いたくないから、私に誘われるのが嫌で避けてたってこと?」

(……たしかに、そういうことなのかな)

自分の気持ちを言い表されると、自分勝手な気持ちすぎて落ち込んでしまう。
黙ってしまったゆきを横目に、まりなは猛然とスイカを食べ始めた。

一心不乱に食べているまりなには話しかける隙がない。

もぐもぐしていたまりなの口から、水しぶきのようにお皿に種がはきだされていく。

最後の一個が皿におさまると、まりなは立ちあがった。
ビシッと音が聞こえそうにまっすぐに、ゆきに指をつきつけてくる。

「みくびらないでよ! 優なんてキープのキープなの。まりなだったら男なんてはいてすてるほどいるんだからね」

ゆきは言葉の意味が咀嚼できなくて、頭をこてんと横にした。
気づいた美咲が、こっそり、耳打ちしてくる。

「訳すと、恋愛より友情のが大事だってことだね」
「ちょっと、美咲ちゃん、変な解説しないでよ」

怒りながら、まりながゆきを睨みつける。

「とにかく、優とは最近は会ってないし、会ったとしてももう遊びに誘わないから避けるのはやめなさいよね!」

ゆきは静かにうなずいた。

この少し変わったお友だちと、仲直りできたことがうれしかった。
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