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14 金の亡者②

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義母とのやりとりで疲れ果て、動く気力もない。
ぼんやりとテレビを見ていると、オレオレ詐欺グループが摘発されたニュースが流れていた。

「お義母さんも詐欺師みたいなもんよね」

貯蓄ゼロの羊子にたかるなんて。
どうして、父はあんな女性が良かったのだろう。

美人だが、母とは似ても似つかぬ性格の義母に、いまは嫌悪感しかない。

(考えてもしょうがない。早く借金を返して、縁を切らなきゃ)

ようやく動く気持ちになって部屋を見下ろせば、コンパニオンの服やポーチが散乱しているのが見えた。
昨日帰ったらすぐバタンキューだったので、脱皮したまま放置したらしい。

(そうだ! 1万円札の臨時収入があったんだよね~)

ウキウキしながら、お店用のポーチを手に取り、お札を取り出す。
銀行通帳の隠してある冷蔵庫に一緒に入れておかなきゃ。
へそくりはもうすぐ10万になるはずだったので、銀行に預けに行かなければと考えながら、キッチンに向かう。

冷蔵庫の野菜室を開き、銀のお弁当箱を取り出した。
義母に借金を勝手にされてから、大事なものは隠す癖がついていた。
だから、なんの疑いもなく、隠し場所のお弁当箱を取り出した。

開いて、羊子は固まった。

(ウソでしょ! ない……)

そこにはあるはずの現金も通帳もなかった。
幸い、印鑑と身分証は会社のロッカーに入れてある。

兄に隠し場所は分けておけと言われていたのが、本当に役に立つなんて。

犯人は1人しかいない。

(お義母さん、やってくれたわね)

今月の返済分がまるまると入っていた通帳は、今頃引き出されてしまっているのだろう。
暗証番号を誕生日にしたまま放置していた自分を殴りたかった。

「銀行に電話しなきゃ。ローンまでされたら終わりだ!」

慌てて、銀行を調べて電話をかける。
音声案内に従い、紛失・盗難の係に繋がった。
相手はやわらかい声で銀行名と担当名を名乗り、電話の理由を聞いてくる。

「どうされました」
「あの、通帳がなくなっていて」
「紛失でしょうか?」

盗難と言いたかったが、父の顔がちらついた。

「……はい」
「ご利用状況をお調べします。最近いつ使われたかお分かりになりますか?」
「1週間前に預け入れしたのと、給料が数日前に振り込まれているはずです」
「わかりました。少々お時間をいただけますでしょうか」
「お願いします」

生きた心地がしない数分が過ぎて、電話口に相手が戻ってきた。

「今朝方、38万円7千円が引き出されてしまっていますね。キャッシュローンは使われていませんので、一度、口座は利用停止いたします。よろしいでしょうか」
「もちろんです」
「今の通帳とキャッシュカードが手元に戻ってきても、使えなくなりますのでご了承ください。通帳に関しては、もし再発行する場合は手数料がかかりますので、その点もご承知おきください。盗難でしたら、補償される場合もございますが、どういった経緯で紛失されたのでしょうか」
「身内に持ち出された場合でも、補償されるんですか?」

窓口担当者は、申し訳なさそうな声になる。

「2親等以内ですと補償対象外となっております。いかがですか?」
「……補償は結構です」

羊子の声で全てを悟った相手は、そうですか、とだけ言う。
型通り警察に連絡するよう言われた後、電話を切った。

通帳に入っていた金は、千円単位まで全て引き出されてしまった。
借金の返済日はまだ遠いのでなんとかなるが、家賃はもうすぐ引き落とし日になる。

「お金、どうしよう」

喉が乾いて干からびた声に、答えてくれる人はいなかった。
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