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第70話『永遠の今日』(ヤスミン視点)①

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(ヤスミン視点)



突然レナの前でナイフを抜いたエミリーさんに私もオリヴァーさんも思わず手を伸ばしたが、次の瞬間、エミリーさんはレナを傷つける為にナイフを……振るう事はなく、自分の手のひらを切って出て来た血をレナの顔に浴びせていた。

「え?」

「うぇ!? ぶぇ! な、なに!? 何も見えない!」

「次。行くわよ」

「あいたっ! 痛い! 何で頭叩くのっ!?」

「今貴女の頭に直接魔法を叩きこんでるから」

「叩きこむってこうやって直接やる事じゃないと思うんですけど! いだっ! 思うんですけどねぇ!?」

レナは怒りで顔を真っ赤に……あ、いや。あれはエミリーさんの血か。

まぁ、とにかく怒りで大声を上げながら騒いでいた。

「う、うぇ……なに? これ、なんか変な記憶が」

「それが永遠の魔法よ」

「これが……オエー」

私は咄嗟に近くにあったバケツを持って、レナの傍に走り、夕ご飯と感動の再会をしているレナの背中を撫でる。

「大丈夫?」

「む、むり……ウェー」

「人体に害はないのか?」

「無いわ」

「今! うっ、目の前で! うぅ、害が! 起こってるんですけどねぇ……うぷっ」

「レナ。今は無理しないで」

「はぁ……はぁ……ありがと。ヤスミン」

私は呼吸を荒くしながら、バケツと親友になっているレナを励ましつつ、オリヴァーさんとエミリーさんの話に耳を傾ける。

「しかし、永遠の魔法が使えるなら、お前が使えば良かっただろう。エミリー」

「私じゃ使えないのよ。使う前に体の中から魔力が全部なくなって死ぬわ。だから無理」

「そうか」

「まぁ、私でも使う方法はあったんだけどね。レナちゃんを見てたら、それも出来なくなっちゃった」

私はエミリーさんを見上げながら、その寂し気に揺れる瞳を見る。

「レナちゃんが聖女じゃ無かったら。いえ。レナちゃんを知る前に聖女だって知ってれば未来も変わったかもしれないけどね」

「……そうか」

「はぁ……はぁ。ヤスミン。ごめん。コップちょうだい」

「うん」

「それと、エミリーさん? もう血は拭っても良いんですか?」

「えぇ。その様子じゃあもう永遠の魔法は覚えたんでしょう?」

「お陰様で」
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