上 下
205 / 246

第67話『世界を変えた一言』(ヤスミン視点)①

しおりを挟む
(ヤスミン視点)



とんでもない事が始まった。

私は体育館で叫ぶ人々を見ながらふとそんな事を思った。

多分、この体育館に居る人の中で普通の人間は私一人だろう。

私以外の人は暴走し、熱狂し、叫んでいる。

正直、ちょっと帰りたい。

私の家は、どちらかと言うとのんびりしたタイプの人ばかりで、お父様もお母様もお兄様もマイペースでのんびり屋だ。

そんな家だからか、使用人の人ものんびりとした人が多くて、下級貴族という事もあり、和やかな空気が流れている様な家である。

だから、か。

強くて凛々しくて、格好良くて。自分で道を決めたらどんどん進んでゆくレナに憧れて友達になったのだけれど。

まさか、こんな風になってしまうとは。

群衆の前で拳を突き上げて、叫ぶレナを見ていると、なんか思ってたのと違うな。という感想が胸を過る。

そう。そうなのだ。

ほんのちょっと前まで、格好いいレナが女の子として目覚めそうになっていて、とても可愛らしい顔をしながら、恋ってなんだと思う? なんて乙女の質問をしてきていたのに。

今は倒せ、滅ぼせ、前に進めと、過激な騎士みたいな事を口にしている。

いったい何があったんだろうか。

私たちの部屋に飛び込んできたシーラ様はレナが聖女だって言ってたけど、聖女ってこういう人じゃなかった気がする。

暴れる魔物を大人しくさせたっていう伝説もあるけど、それは聖女の心の清らかさに魔物の中に心が芽生えて……。とかそういう伝説のハズだ。

今のレナはどちらかと言うと、力で魔物を制圧して、言う事を聞かせている様な感じだろう。

イメージと違う。

こんなの、私が子供の頃に憧れた聖女様じゃない。

そう。そうだよ。

どちらかと言うと、レナは戦乙女って感じじゃない。

前に出て、卑劣な敵と戦ってさ。強くて美しくて、凛々しい。

そんな姿はまさにレナという感じだ。

うんうん。そんなレナが恋に悩むのも、かなりアリだ。

でも、そう考えると、聖女様の位置を誰にするかが悩ましいよね。

王道なら、同じ部屋の私だけど、私は聖女なんで柄じゃない。

どちらかと言うと、聖女様の伝説を広める語り手だ。

趣味で書き物もしてるしね。

そうなると……。

「聖女様は、シーラ様?」

うーん。しっくりくる。

エルフだから神秘性も高いし、可愛いし。

レナとは昔からの知り合いだし。

最適かな……。と、妄想の海に沈んでいた私は気が付いたら、周りの人が私を見ながら黙り込んでいる事に気づいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...