上 下
43 / 246

第13話『色とりどりの光は、空を染めて』(ダン視点)④

しおりを挟む
シーラ様はジャックに笑いかけると、傍にいたメイド服を着たやつから何かを受け取って、顔に付ける。

「それは?」

「これは魔力測定装置にして、人魔物判別装置になります」

「なん?」

「シーラ様。以前そちらの装置はスカウターという名前であると言っていませんでしたか?」

「シッ! シー! ですよ! その名前は危ないですから、使うのは禁止です! 権利者団体から怒れてしまうかもしれません!」

「はぁ」

「という訳で、魔力測定装置です。どうぞお見知りおきを」

「わ、分かったよ。それで? そのなんたら装置で何をしようってんだ?」

「今からこの町の周辺にいる魔物を全て掃討します。一応確認ですが、森に人は居ませんね?」

「あぁ、あんな場所にわざわざ行くやつは居ない」

「それは良かった。一応人の反応は除くつもりですが、万が一という事はありますからね。では行きます」

そしてシーラ様は背中から魔力の粒子を出しながら、ゆっくりと空中に浮かび上がっていった。

俺は家の中からじゃ見えないと外へ出て、シーラ様の姿を追った。

次の瞬間だ。

空が光ったかのような閃光と共に、シーラ様からいくつもの光る何かが森の方へと向かってゆき、それが森へと着弾してゆく。

何が起きているのかは分からないが、人間に理解できない何かという事だけは分かった。

「こ、これは……」

「シーラ様考案の広範囲魔物討伐魔法です。シーラ様は『やった! できた! ハイマットフルバーストだ!』と喜んでいらっしゃいましたから、おそらくはそれが魔法名だと思われます」

「……ハイマットフルバーストか。凄い魔法だ」

俺の呟きにメイドさんの一人が答えてくれた。

そしてそのメイドさんの言葉通り、シーラ様の魔法は町の付近にいた魔物をことごとく討伐しており、この魔法を恐れたのか魔物たちはよほどの事以外では町に来ることも無くなったのである。

この世の終わりとでもいうような世界から、一気にシーラ様が奇跡をもたらした町として有名になり、ムイゼンは瞬く間に発展していったのだ。

この日の奇跡を俺たちは忘れない。

シーラ様は世界で唯一、ムイゼンを見捨てず救ってくれた方なのだ。

そのお体に何かがあっては駄目だ。



という訳で、今日もシーラ様には傷一つ付かぬ様、皆で全ての危険を排除しつつ、心安らかに過ごしていただいているという訳だ。

お優しいシーラ様は、俺たちがいくら隠しても、危険な依頼を受けようとするが、どんな事態になろうともそれをさせる訳にはいかない。

シーラ様にいただいた平穏は、シーラ様にお返ししなくてはいけないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...