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第1話『転生したのはエルフの里でした』②

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しかし、こんな状況だというのに、私の喉は声を発する事が出来ず、意味のない音を僅かに漏らすばかりであった。

「先輩。痛いですか? でも、私はもっと、もぉーっと痛かったんですよ?」

ナイフがまた抜かれ、私は息を落ち着かせながら、何とか後輩を説得しようとした。

痛みを必死に堪えて口を開く。

「よ、宵闇、さん」

「嫌ですねぇ。咲姫って呼んで下さいよ。いつもみたいに」

正直名前で呼んだ覚えは無いけど、この状況でそんなことを言える勇気が私にある訳もなく。

私は、笑顔を作りながら、サキちゃんと呼んだ。

それだけで、サキちゃんは嬉しそうである。

このまま何とか助かる流れに持って行きたいものだ。

「愛してるよ。咲姫って言って下さい」

「あ、アイシテルヨ? サキ?」

「うふふ。私も愛してますよ。先輩」

満面の笑みでそう答える宵闇さんに、私がぎこちないながらも、笑顔を作り、何とか立ち上がろうとした。

このまま逃れる事が出来そうだ。

そう思っていたのだが、ここで不幸が訪れる。

何と付けっぱなしにしていたゲームから、放置音声が流れ始めたのだ。

この放置音声とは、ゲームを放置している時にだけ聞くことが出来るボイスで、わざわざこのボイスを聞く為だけにゲームを付けっぱなしにして、待つ人も居るくらいだ。

そして、素晴らしいダンディな声がリビングの方から響き渡った。

『いつまで待たせるんだ? 僕はもう我慢の限界だよ』

痺れる様な声と、素晴らしい演技でアンニュイなキャラクターボイスが聞こえてくる。

このキャラクターは私のお気に入りの声優さんがボイスを担当しているので、何度も聞きたくなる様な声なのだが……。

残念ながら、このボイスが私の人生を終わらせる事となった。

最期に見たのは、怒りに染まった宵闇さんの顔で、私はこれから少しして、意識を完全に暗闇へ叩き込まれるのだった。
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