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第9話『とりあえず、状況は最悪だ』
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僕は意味が分からないと言うような顔で木村さんに問うた。
「ちょっと意味が分からないんだけど。もう一度説明して貰える?」
「ですから、既にこちらでほぼ決まっていたスポーツ飲料のCMですが、山瀬事務所が絡んできました」
「……理由は聞きたくないけど、なんで?」
「まぁ、山瀬佳織の件で我々を相当に恨んでましたからね」
「あの件はただの事故だって警察からも聞いたんでしょ?」
「だとしても、天王寺さんのせいだと、無傷で帰ってきたのがおかしいと彼は考えているのですよ」
「山瀬耕作か。娘の無能を僕らのせいにされても困るんだけどね。そもそも僕が無事だったのは光佑さんのお陰だしさ」
「父親というのは大抵娘が可愛いものなんですよ」
「ふぅーん。家でそれやってるだけなら良いんだけどね? まぁ良いや。勝てば良いだけの話だよ」
「勝算はありそうなんですか?」
「さぁ? 夢咲が集めるメンバーによるとは思うけど、別に勝てないなら、勝てないで良いよ。大して興味無いし」
「そうですか。まぁ、天王寺さんがそう言うのなら、私はまぁ、構いませんけどね」
「……妙に引っかかる言い方をするじゃないか。気になるな」
「いえ。本当に事務所としては大した話は無いのですよ。ただ、スポンサーが立花光佑さんの大ファンで、立花光佑さんをCMに起用しようとしているとの噂が」
「なに!? それは本当の話なのか!?」
「え、えぇ。噂ですが」
「少し電話する」
僕は懐から携帯を取り出すと急いで夢咲に電話をした。
「もしもし!?」
『何。天王寺。どうしたの? 急に』
「例の野球の件だが、大変な事になった!」
『大変ー? 何かあったの?』
「CMには立花光佑さんが採用され、共演出来るらしい!」
『は? ……ちょ、ちょっと待ってて。お兄ちゃん! お兄ちゃーん!? 聞きたい事があるんだけど、ねぇ! 陽菜が受けようとしてた野球のCM、お兄ちゃんが出るって聞いたんだけど、本当!? え!? 本当なの!? ま、不味いよ! 天王寺!』
「やっぱり真実なのか」
『こっちはなるべく強そうな人を集めるから、情報の方! お願いね!』
「分かった!」
僕はその電話を切ってから、木村さんと相談しつつ敵チームの情報を集める事にした。
そして五日後の試合当日。
僕は調べ尽くした資料を持って、夢咲陽菜に会っていた。
「とりあえず、状況は最悪だ」
「そんなに?」
「あぁ、向こうは全員が中学・高校時代の野球経験者で、甲子園に行った事がある人間が三人もいるらしい。その中で西村という奴は何と三年間で三回とも甲子園に出場し、それなりの結果を出して来たとの事だ。こっちが集めるメンバー次第だが、かなり厳しい戦いになるな」
「そうだね。でもやれるだけやってみようよ」
「あぁ、僕も出来る限りの準備はしてきたつもりだ。とりあえずぶつかってみるしかないな」
そして、僕はCMの為に作られたユニフォームを着て、会場へと向かった。
先に現地に着いた僕は用意されたベンチに座りながら、撮影の準備をしているのを横目で見つつ、ルールの確認をしていた。
「おっと。天王寺の坊やじゃないか」
「……西村さんですか」
「今日は悪いな。お嬢の事件があってからボスも安定してなくてな。ただ、まぁ……どれだけ汚くても、スポンサーの意向だからな。試合でキッチリと片を付けようや。じゃあな」
「……くっ、言いたい放題言ってくれる!」
こうなったら、なるべく戦えそうな人間を夢咲陽菜に連れてきてもらうしかないが……。
そんなこんなでやきもきしていた僕の所へ、夢咲陽菜が僕と同じ様にユニフォームを着て、やってきた。
横にいるのは北島早苗さんと、確か夢咲陽菜と一緒に活動している、飯塚美月とかいう名前のアイドルだったはずだ。
しかもボールを手に持ちながら、どうすれば良いか夢咲陽菜に聞いている時点で、期待は出来ないだろう。
これで、僕と夢咲陽菜、そして北島早苗さんと飯塚美月さんは少なくとも素人という事が確定した。
これはもう、絶望的かもしれない。
僕は頭を抱えながら、次いで夢咲陽菜が連れてきたという五人の男性にも挨拶をする。
一応遅れてきた五人は、体つきもよく、運動はよくしていそうなタイプに見えたため、とりあえず祈る事にする。
しかし。
僕は、投球練習だと言いながら、これ見よがしにこちらをチラチラと見ながら、ボールを投げ始めた西村を見て、思わず舌打ちしそうになる。
「くっ」
「へぇー。中々速いね」
「あなたは、確か……鈴木さん、でしたっけ?」
「あぁ、そうだよ。鈴木って言うんだ。陽菜ちゃんのお姉ちゃんの友達だね」
「そう、ですか……野球のルールとか、分かります?」
「あぁ、少しは分かるよ」
「そうですか……」
申し訳ないとは思いつつも、期待してしまい申し訳なくなってしまう。
負けられない戦いなのは、僕と夢咲陽菜だけだ。
だからこそ、運動が出来そうな人たちを夢咲陽菜も呼んできてくれたんだろうし、感謝以上の事は求めてはいけない。
「どうやら君には負けられない理由があるようだね。うん。分かった。じゃあ少し本気でやろうか」
「……え?」
「佐々木。古谷、あー、佐々木のお父さん、大野先輩。ちょっと作戦会議しましょう。この試合、少しガチでやりましょうか」
そう言うと、夢咲陽菜が連れてきた五人の男性たちは何やら集まって話し合いをしていた。
それを疑問に思いつつ、僕は夢咲陽菜に聞く。
「なぁ。夢咲。あの人たち、どういう知り合いなんだ?」
「えっと、お姉ちゃんたちのお友達」
「そうか」
もしかしたら、友人の妹やその友達が困っている様に見えたから、結構無理して手伝ってくれるのかもしれないな。
良い人達だ。
しかも、大人で明日の仕事に差し支えるかもしれないのに、本気でやろうと言ってくれている。
ただただ良い人達だ。
でも、それなら僕も頑張ろう。諦めずに、最後の瞬間まで頑張る。
ただそれだけだ。
なんて思っていたというのに。
『一番 バッター鈴木さん』
「よっしゃー!」
一番の鈴木さんはアッサリと、西村の球を打ち、一塁まで進んでしまった。
『二番 バッター佐々木和樹さん』
「紗理奈! 僕の活躍! 見ててくれ!!」
二番の佐々木さんも鈴木さん程では無いが、鋭い打球を打ち返し、同じ様に一塁まで進んでいる。
しかし、僕が佐々木さんの動きに注目している間に、鈴木さんは凄い速さで気が付いたら三塁を蹴り飛ばしており、ホームベースに向かって走っていた。
相手チームもそれに気づいたが、投げるのが遥かに遅く、鈴木さんは余裕を持ちながらホームベースに戻ってきた。
そして、悠々とベンチに戻ってくると、僕の肩を叩きながらとりあえず一点な。と言ってくる。
「す、すごい。しかも一塁に佐々木さんもいるし。まだ追加点が取れるかも?」
「一塁? 何言ってるんだ、よく見て見な」
「え?」
確かによく見てみると、佐々木さんが二塁に立っていた。
そして両手を上げながら、叫んでいる。
「紗理奈!! 見てるか!! 僕は必ずホームに帰るぞー!!」
そして、それから続くバッターの古谷さんが、まさかのホームランを打ち、さらに続く佐々木春樹さんもホームランを打っていた。
この時点で、西村はマウンドで両手を付きながら項垂れていた。
しかし、続くバッターは夢咲陽菜、飯塚美月さん、北島早苗さんと続く。
まさに地獄の打線だ。
何故か夢咲陽菜はフォアボールで出塁したが、続く飯塚美月さんと北島早苗さんはアウトとなってしまった。
しかし、僕も何故かフォアボールとなり、まだ2アウトでチャンスが続いている!
なんて喜んでいた僕だったが、大野さんはまさかのバットを持たないでバッターボックスに立ち、当然の様に3アウトになってしまった。
なんて勿体ない事を! とも思ったが、彼らは快く受けてくれただけだ。色々と考えがあるのだろう。
僕は何も言わず、ベンチに戻る事にした。
そしてすぐに守備の道具を持って、言われた場所へと移動する。
場所はライトという場所に向かう事になった。
鈴木さんに教えて貰いながら、その場所で立つ。
ボールが来たら頑張って取ろうと、考えていたのだが……結局一球も打たれる事は無かった。
さっきバットを持たずにバッターボックスに立っていた大野さんがピッチャーになったのだが、この位置からでも凄い球を投げている事が分かる。
西村とは音も雰囲気も全然違った。
結局その試合は圧倒的に、こちらのチームが勝ち、僕たちは勝利を手に入れた。
あんまり実感は無かったけど。
後、西村が半泣きになりながら僕に感謝を告げ、走り去っていった。
【とんでもねー。二時間だった】
【プロが素人をボコるのはアリなんか?】
【国内プロは0人なのでセーフ】
【ならば、ヨシッ】
【ホンマかー?】
【何を見て、ヨシッって言ったんですかっ!】
【メジャー1人、元プロのレジェンド一人、指名貰えたのに、大学行ったのが三人】
【国内プロじゃ無いな! ヨシッ!】
【ガバガバ判定止めろ】
【言うて向こうも全員野球経験者やし。こっちはハンデも背負ってるしな】
【まぁ、確かに陽菜ちゃん、美月ちゃん、早苗ちゃんの三アイドルと天王寺はまぁ、完全に足手まといだった】
【足手まといって感じねぇんだわ。そもそも大野と佐々木が投げてる時点で、誰も打てねぇ】
【解説立花「あー。でもかなり手を抜いてますね。160しか出てませんし」】
【は?】
【は???】
【解説立花「和樹も、カーブしか投げてないですよ。かなり手加減してますね」】
【こいつらの基準おかしいよ】
【カーブとストレートだけだからなんだと言うのか。素人に毛が生えた程度の奴が、プロ級の球を打てるか!】
【立花?「まぁ俺なら全部ホームランですから」】
【本人は絶対に言わないけど、絶妙に言いそうな事止めろ】
【実際立花なら打てそう】
【しかし、立花も参加していた場合、鈴木→佐々木(和)→古谷→立花→佐々木(春)か? 鬼の打線だな】
【いや、流石に立花と佐々木(春)が逆だろ。レジェンドは超えてねぇ】
【年齢と将来性をだな】
【お。なんだ。今回の番組見てないのか? まだまだ若者には負けてないって所を見せつけてたんだよなぁ】
【どうせ、ホームランなのにここで争う理由とは? うごご】
【いつか来る国際戦のドリームチームをだな】
【話している二人、共に出られないんですけど】
【どうして……どうして……】
【神は居ないのか】
【神は死んだ】
【でもまぁ、三打席だけだけど、立花の打席も見られたし。まぁ、満足したわ】
【陽菜ちゃん「ダイダ―! オニイチャン!」】
【可愛い】
【陽菜ちゃん絶対に代打の意味分かってないだろ】
【良いんだよ! 可愛いんだから!】
【いや、あの回はまさに神回だった。代打と叫ぶと立花が出てくると知った飯塚と早苗ちゃんの顔】
【飯塚「代打! 立花さん!(ドヤッ」】
【北島「代打! 立花さん!!」】
【大野「ピッチャー交代! 俺!」】
【誰かルール教えてやれ】
【笑い過ぎて腹が痛い】
【大野はマジで何なんだ】
【審判「大野さん?」】
【大野「俺」】
【俺。じゃねぇ】
【天然すぎる】
【どんだけ立花と戦いたいんだお前は】
【その後ルールを説明されたアイドルちゃん達もヤバかったな】
【審判「いやあの、代打は同じ選手には出来なくてですね」】
【飯塚「駄目なんですか?(可愛いポーズ)」】
【審判「ヨシッ!」】
【北島「お願いします(可愛いポーズ)」】
【審判「ヨシッ!」】
【買収よりも酷い物を見た】
【大野「ガタッ」】
【お前じゃ無理だ】
【座ってろ。大野】
【向こうの失敗は多分、男ばかりでチームを固めたことだな?】
【そこじゃないだろ】
【でも審判は良いって言ってるしな。スポンサーも大満足だしな】
【スポンサー様には逆らえねぇ!】
【色仕掛けに負けた審判が何か言っとる】
【俺も審判になりてぇなぁ!】
【今からタイムマシン作って就職すれば間に合うで】
【よし! 行ってくるわ!】
【彼がこの後、この出来事がキッカケでタイムマシンを作った事はよく知られた事実である】
【こんな理由で作って欲しくなかった】
「ちょっと意味が分からないんだけど。もう一度説明して貰える?」
「ですから、既にこちらでほぼ決まっていたスポーツ飲料のCMですが、山瀬事務所が絡んできました」
「……理由は聞きたくないけど、なんで?」
「まぁ、山瀬佳織の件で我々を相当に恨んでましたからね」
「あの件はただの事故だって警察からも聞いたんでしょ?」
「だとしても、天王寺さんのせいだと、無傷で帰ってきたのがおかしいと彼は考えているのですよ」
「山瀬耕作か。娘の無能を僕らのせいにされても困るんだけどね。そもそも僕が無事だったのは光佑さんのお陰だしさ」
「父親というのは大抵娘が可愛いものなんですよ」
「ふぅーん。家でそれやってるだけなら良いんだけどね? まぁ良いや。勝てば良いだけの話だよ」
「勝算はありそうなんですか?」
「さぁ? 夢咲が集めるメンバーによるとは思うけど、別に勝てないなら、勝てないで良いよ。大して興味無いし」
「そうですか。まぁ、天王寺さんがそう言うのなら、私はまぁ、構いませんけどね」
「……妙に引っかかる言い方をするじゃないか。気になるな」
「いえ。本当に事務所としては大した話は無いのですよ。ただ、スポンサーが立花光佑さんの大ファンで、立花光佑さんをCMに起用しようとしているとの噂が」
「なに!? それは本当の話なのか!?」
「え、えぇ。噂ですが」
「少し電話する」
僕は懐から携帯を取り出すと急いで夢咲に電話をした。
「もしもし!?」
『何。天王寺。どうしたの? 急に』
「例の野球の件だが、大変な事になった!」
『大変ー? 何かあったの?』
「CMには立花光佑さんが採用され、共演出来るらしい!」
『は? ……ちょ、ちょっと待ってて。お兄ちゃん! お兄ちゃーん!? 聞きたい事があるんだけど、ねぇ! 陽菜が受けようとしてた野球のCM、お兄ちゃんが出るって聞いたんだけど、本当!? え!? 本当なの!? ま、不味いよ! 天王寺!』
「やっぱり真実なのか」
『こっちはなるべく強そうな人を集めるから、情報の方! お願いね!』
「分かった!」
僕はその電話を切ってから、木村さんと相談しつつ敵チームの情報を集める事にした。
そして五日後の試合当日。
僕は調べ尽くした資料を持って、夢咲陽菜に会っていた。
「とりあえず、状況は最悪だ」
「そんなに?」
「あぁ、向こうは全員が中学・高校時代の野球経験者で、甲子園に行った事がある人間が三人もいるらしい。その中で西村という奴は何と三年間で三回とも甲子園に出場し、それなりの結果を出して来たとの事だ。こっちが集めるメンバー次第だが、かなり厳しい戦いになるな」
「そうだね。でもやれるだけやってみようよ」
「あぁ、僕も出来る限りの準備はしてきたつもりだ。とりあえずぶつかってみるしかないな」
そして、僕はCMの為に作られたユニフォームを着て、会場へと向かった。
先に現地に着いた僕は用意されたベンチに座りながら、撮影の準備をしているのを横目で見つつ、ルールの確認をしていた。
「おっと。天王寺の坊やじゃないか」
「……西村さんですか」
「今日は悪いな。お嬢の事件があってからボスも安定してなくてな。ただ、まぁ……どれだけ汚くても、スポンサーの意向だからな。試合でキッチリと片を付けようや。じゃあな」
「……くっ、言いたい放題言ってくれる!」
こうなったら、なるべく戦えそうな人間を夢咲陽菜に連れてきてもらうしかないが……。
そんなこんなでやきもきしていた僕の所へ、夢咲陽菜が僕と同じ様にユニフォームを着て、やってきた。
横にいるのは北島早苗さんと、確か夢咲陽菜と一緒に活動している、飯塚美月とかいう名前のアイドルだったはずだ。
しかもボールを手に持ちながら、どうすれば良いか夢咲陽菜に聞いている時点で、期待は出来ないだろう。
これで、僕と夢咲陽菜、そして北島早苗さんと飯塚美月さんは少なくとも素人という事が確定した。
これはもう、絶望的かもしれない。
僕は頭を抱えながら、次いで夢咲陽菜が連れてきたという五人の男性にも挨拶をする。
一応遅れてきた五人は、体つきもよく、運動はよくしていそうなタイプに見えたため、とりあえず祈る事にする。
しかし。
僕は、投球練習だと言いながら、これ見よがしにこちらをチラチラと見ながら、ボールを投げ始めた西村を見て、思わず舌打ちしそうになる。
「くっ」
「へぇー。中々速いね」
「あなたは、確か……鈴木さん、でしたっけ?」
「あぁ、そうだよ。鈴木って言うんだ。陽菜ちゃんのお姉ちゃんの友達だね」
「そう、ですか……野球のルールとか、分かります?」
「あぁ、少しは分かるよ」
「そうですか……」
申し訳ないとは思いつつも、期待してしまい申し訳なくなってしまう。
負けられない戦いなのは、僕と夢咲陽菜だけだ。
だからこそ、運動が出来そうな人たちを夢咲陽菜も呼んできてくれたんだろうし、感謝以上の事は求めてはいけない。
「どうやら君には負けられない理由があるようだね。うん。分かった。じゃあ少し本気でやろうか」
「……え?」
「佐々木。古谷、あー、佐々木のお父さん、大野先輩。ちょっと作戦会議しましょう。この試合、少しガチでやりましょうか」
そう言うと、夢咲陽菜が連れてきた五人の男性たちは何やら集まって話し合いをしていた。
それを疑問に思いつつ、僕は夢咲陽菜に聞く。
「なぁ。夢咲。あの人たち、どういう知り合いなんだ?」
「えっと、お姉ちゃんたちのお友達」
「そうか」
もしかしたら、友人の妹やその友達が困っている様に見えたから、結構無理して手伝ってくれるのかもしれないな。
良い人達だ。
しかも、大人で明日の仕事に差し支えるかもしれないのに、本気でやろうと言ってくれている。
ただただ良い人達だ。
でも、それなら僕も頑張ろう。諦めずに、最後の瞬間まで頑張る。
ただそれだけだ。
なんて思っていたというのに。
『一番 バッター鈴木さん』
「よっしゃー!」
一番の鈴木さんはアッサリと、西村の球を打ち、一塁まで進んでしまった。
『二番 バッター佐々木和樹さん』
「紗理奈! 僕の活躍! 見ててくれ!!」
二番の佐々木さんも鈴木さん程では無いが、鋭い打球を打ち返し、同じ様に一塁まで進んでいる。
しかし、僕が佐々木さんの動きに注目している間に、鈴木さんは凄い速さで気が付いたら三塁を蹴り飛ばしており、ホームベースに向かって走っていた。
相手チームもそれに気づいたが、投げるのが遥かに遅く、鈴木さんは余裕を持ちながらホームベースに戻ってきた。
そして、悠々とベンチに戻ってくると、僕の肩を叩きながらとりあえず一点な。と言ってくる。
「す、すごい。しかも一塁に佐々木さんもいるし。まだ追加点が取れるかも?」
「一塁? 何言ってるんだ、よく見て見な」
「え?」
確かによく見てみると、佐々木さんが二塁に立っていた。
そして両手を上げながら、叫んでいる。
「紗理奈!! 見てるか!! 僕は必ずホームに帰るぞー!!」
そして、それから続くバッターの古谷さんが、まさかのホームランを打ち、さらに続く佐々木春樹さんもホームランを打っていた。
この時点で、西村はマウンドで両手を付きながら項垂れていた。
しかし、続くバッターは夢咲陽菜、飯塚美月さん、北島早苗さんと続く。
まさに地獄の打線だ。
何故か夢咲陽菜はフォアボールで出塁したが、続く飯塚美月さんと北島早苗さんはアウトとなってしまった。
しかし、僕も何故かフォアボールとなり、まだ2アウトでチャンスが続いている!
なんて喜んでいた僕だったが、大野さんはまさかのバットを持たないでバッターボックスに立ち、当然の様に3アウトになってしまった。
なんて勿体ない事を! とも思ったが、彼らは快く受けてくれただけだ。色々と考えがあるのだろう。
僕は何も言わず、ベンチに戻る事にした。
そしてすぐに守備の道具を持って、言われた場所へと移動する。
場所はライトという場所に向かう事になった。
鈴木さんに教えて貰いながら、その場所で立つ。
ボールが来たら頑張って取ろうと、考えていたのだが……結局一球も打たれる事は無かった。
さっきバットを持たずにバッターボックスに立っていた大野さんがピッチャーになったのだが、この位置からでも凄い球を投げている事が分かる。
西村とは音も雰囲気も全然違った。
結局その試合は圧倒的に、こちらのチームが勝ち、僕たちは勝利を手に入れた。
あんまり実感は無かったけど。
後、西村が半泣きになりながら僕に感謝を告げ、走り去っていった。
【とんでもねー。二時間だった】
【プロが素人をボコるのはアリなんか?】
【国内プロは0人なのでセーフ】
【ならば、ヨシッ】
【ホンマかー?】
【何を見て、ヨシッって言ったんですかっ!】
【メジャー1人、元プロのレジェンド一人、指名貰えたのに、大学行ったのが三人】
【国内プロじゃ無いな! ヨシッ!】
【ガバガバ判定止めろ】
【言うて向こうも全員野球経験者やし。こっちはハンデも背負ってるしな】
【まぁ、確かに陽菜ちゃん、美月ちゃん、早苗ちゃんの三アイドルと天王寺はまぁ、完全に足手まといだった】
【足手まといって感じねぇんだわ。そもそも大野と佐々木が投げてる時点で、誰も打てねぇ】
【解説立花「あー。でもかなり手を抜いてますね。160しか出てませんし」】
【は?】
【は???】
【解説立花「和樹も、カーブしか投げてないですよ。かなり手加減してますね」】
【こいつらの基準おかしいよ】
【カーブとストレートだけだからなんだと言うのか。素人に毛が生えた程度の奴が、プロ級の球を打てるか!】
【立花?「まぁ俺なら全部ホームランですから」】
【本人は絶対に言わないけど、絶妙に言いそうな事止めろ】
【実際立花なら打てそう】
【しかし、立花も参加していた場合、鈴木→佐々木(和)→古谷→立花→佐々木(春)か? 鬼の打線だな】
【いや、流石に立花と佐々木(春)が逆だろ。レジェンドは超えてねぇ】
【年齢と将来性をだな】
【お。なんだ。今回の番組見てないのか? まだまだ若者には負けてないって所を見せつけてたんだよなぁ】
【どうせ、ホームランなのにここで争う理由とは? うごご】
【いつか来る国際戦のドリームチームをだな】
【話している二人、共に出られないんですけど】
【どうして……どうして……】
【神は居ないのか】
【神は死んだ】
【でもまぁ、三打席だけだけど、立花の打席も見られたし。まぁ、満足したわ】
【陽菜ちゃん「ダイダ―! オニイチャン!」】
【可愛い】
【陽菜ちゃん絶対に代打の意味分かってないだろ】
【良いんだよ! 可愛いんだから!】
【いや、あの回はまさに神回だった。代打と叫ぶと立花が出てくると知った飯塚と早苗ちゃんの顔】
【飯塚「代打! 立花さん!(ドヤッ」】
【北島「代打! 立花さん!!」】
【大野「ピッチャー交代! 俺!」】
【誰かルール教えてやれ】
【笑い過ぎて腹が痛い】
【大野はマジで何なんだ】
【審判「大野さん?」】
【大野「俺」】
【俺。じゃねぇ】
【天然すぎる】
【どんだけ立花と戦いたいんだお前は】
【その後ルールを説明されたアイドルちゃん達もヤバかったな】
【審判「いやあの、代打は同じ選手には出来なくてですね」】
【飯塚「駄目なんですか?(可愛いポーズ)」】
【審判「ヨシッ!」】
【北島「お願いします(可愛いポーズ)」】
【審判「ヨシッ!」】
【買収よりも酷い物を見た】
【大野「ガタッ」】
【お前じゃ無理だ】
【座ってろ。大野】
【向こうの失敗は多分、男ばかりでチームを固めたことだな?】
【そこじゃないだろ】
【でも審判は良いって言ってるしな。スポンサーも大満足だしな】
【スポンサー様には逆らえねぇ!】
【色仕掛けに負けた審判が何か言っとる】
【俺も審判になりてぇなぁ!】
【今からタイムマシン作って就職すれば間に合うで】
【よし! 行ってくるわ!】
【彼がこの後、この出来事がキッカケでタイムマシンを作った事はよく知られた事実である】
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