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第2話『とりあえず、家に来ない?』
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私の頭の中に何度も蘇る晄弘くんの言葉。
『俺は加奈子が大切なんだ』
何度も、何度も、晄弘くんの真剣な表情と共にそう私に囁くのだ。
その度に私は布団の上で悶えながら、転がり続けた。
それは、ここ数日で一番のとんでもない衝撃だった。
ずっと私の中に刺さっていた、光佑くんのことが好きな奴らの言葉が、何処かへ消えてゆく。
私はずっと、言葉は呪いで、人を傷つける為にだけ存在するんだと思っていた。
でも違った。
そうじゃなかった。
人が選ぶんだ。
人を傷つけるか、想うか。
そうだ。
人を傷つけようとして放たれる言葉は刃物だ。
人を痛めつけようとして放たれる言葉は鈍器だ。
人を苦しめようとして放たれる言葉は、心を傷つける為の武器だろう。
今まで私に投げかけられていた言葉は、ただただ人を、私を憎くて言葉を重ねている暴力だった。
でもそれと同じ様に、その人を想って伝えられる言葉もあるんだ。
私は、それを知った。晄弘くんに教えて貰った。
なんだか晄弘くんの事を想うだけで、フワフワと気持ちが良くなって、空の向こうに飛んでいけそうだ。
この気持ちが何なのか分からないけど。でも、大切にしたいと思った。
そして、これまで以上に晄弘くんや光佑くんに会うのが楽しみになって、明日が早く来ないかな、なんて思うのだった。
しかし、そんな楽しい気持ちも、何の知らせもなく部屋に乱入してきた存在によって薄くなっていく。
「お姉ちゃん! 何してるの!?」
「別に、何もしてないよ。ただ寝てただけ」
「えー!? でも楽しそうな声してたのになぁー」
「気のせいでしょ」
妹から面倒な絡み方をされて、私はうんざりとした思いをしながら体を起こした。
部屋の入り口からこちらを見て、何かもじもじとしている妹を見て、何だかため息を吐きたくなった。
そして実際に止められなかった溜息を吐きつつ、半ば睨みつける様にして妹を見据えた。
その視線には感情はあまり乗っていないと思っていたが、妹は何か恐怖を感じたらしく視線をさ迷わせ、動揺しながら何も言わず部屋から出ていった。
扉くらい閉めろと思いつつも、これが親に知られればまた面倒な事になるかなと気分はまた落ちた。
最近は両親だけじゃなく、何故か私にも話しかけに来る様になったのだが、それが面倒くさいのだ。
無視すれば両親が狂ったように騒ぎ始めるし、妹も泣きだして面倒くさい。
でも構えば構うで両親がぎゃあぎゃあと騒ぎ、やかましい。
どちらに転んでも無駄な時間を過ごすなら追い払う方が気も楽である。
私はちょっと落ちた気分に丁度いいと思いながら、机に向かって勉強をする事にした。
最近は嫌な事があった時は勉強をする様にしている。
勉強自体は今後の生活で約に立つだろうし、光佑くんや晄弘くんは勉強が苦手みたいだから、私にも二人に何か出来る事が欲しかったのだ。
ふと鉛筆を走らせていた私は、一つの名案を思い付いた。
そうだ。
二人にお菓子を作っていくのはどうだろうか。
運動をして、疲れるだろうし。甘い物を食べたら美味しいし、その、少しは恩返しみたいな事も出来るんじゃないだろうか。
「そうだよ。二人には助けてもらったんだから。何か恩返しをする必要があるよね。そう。これは別におかしな事じゃない」
私は深く息を吐きながら、そう言葉に出しつつ椅子から立ち上がった。
そして、台所へと向かうと、料理をしている母親に借りても良いかと確認をするのだった。
まぁ、うじうじと文句は言われたが、借りる許可さえ手に入ればこっちのものだ。
明日からはクッキーにでも挑戦しようかな。
なんて、思っていたというのに。
本当にうんざりする。
私は、うきうき気分で帰り道に借りてきたお菓子の本を、妹と共に見ながら進みの遅いお菓子作りにイライラとしていた。
本当はササっと作って、今日持って行きたかったのに、妹の進みに合わせる必要があるから作業に時間が掛かり過ぎている。
このペースでは作り終わる頃にはもう二人は帰ってしまうだろう。
「ね、ね、ここは、これで良いの?」
「そうね。良い感じだけど。ここはもっとこう」
「う、うん。頑張る」
鼻の頭を白く汚しながらお菓子作りをしている妹に母親はご満悦らしい。
が、私はさっさと自分の分だけ終わらせて向かいたいものだ。
しかし、ここで早くしろなんて言おうものなら母親が激怒するだろう。
それはそれで面倒だし。ここは適当に妹の相手をするのが得策なのだ。
そう。分かってはいるのに。苛立つ気持ちは次から次へと湧いてくる。
あぁ、早く終わらないかなと、私は時計を盗み見ながら考えるのだった。
そして、すっかり日も傾いた時間になってようやく完成したお菓子だったが、いつものアレが発生した為に、私は今日お菓子を持って行く事が出来なくなってしまった。
「お姉ちゃんの作ったお菓子。綺麗で良いな」だ。
まったく楽な人生を送っているなとつくづく思ってしまう。
そんな言葉を吐けば、どうなるかなんて馬鹿でも分かる。
大切で、大切で、大切な妹のお願いだ。母親は一瞬で妹の味方になった。
「お姉ちゃん。紗理奈にあげれば良いじゃない」
何が良いじゃないだ。何も良くない。
「これは友達にあげようと思って、作ったの! 紗理奈の為に作ったんじゃない! それに紗理奈のは自分で作ったでしょ!!」
「う、うん。紗理奈はお姉ちゃんのが、欲しいって言ったんじゃないよ」
「あぁ、なんて優しいの紗理奈は。でも紗理奈が遠慮する事なんて無いのよ!? ほら。お姉ちゃん! 紗理奈はこう言ってるのよ! なんで妹に優しく出来ないの」
「優しくとか、そういう話じゃないでしょ。私は、友達の為に」
「お姉ちゃんでしょ! 我儘言わないの! 友達なんてどうでも良いでしょ!!」
母親の言葉を聞いた瞬間、私は怒りで頭が真っ白になった。
なんだ、こいつは。
何なんだアンタらは。
なんでそうやって私の邪魔ばっかりするんだ。
もう良い。
もう良いよ!!
「分かったよ! 欲しいんだったら勝手に食え!!」
私は怒りのままに綺麗に包装したクッキーを床に叩きつけて、そのまま台所を後にした。
後ろから母親の狂ったような叫び声や妹の泣き叫ぶ声が聞こえたが、知ったことじゃない。
もう嫌だ。こんな家!!
私は衝動のままに部屋に帰って学校やいくつかの荷物を掴んで鞄と一緒に家を飛び出した。
こんな家に居るくらいなら、学校やその辺で暮らした方がずっとマシだ。
もう二度と戻らない覚悟で私は、もうすっかり日が沈み始めた街中を走っていたのだが、不意に誰かに呼び止められて足を止めた。
「加奈子ちゃん! やっぱり加奈子ちゃんだ。って、何かあったみたいだね」
「……光佑くん」
「何かあったの。って聞きたいところだけど。聞くのは今じゃないかな。とりあえず、家に来ない?」
「光佑くんの、おうち?」
「そう。友達の家。どうかな」
「迷惑じゃ、ない?」
「迷惑な訳ないよ。ただ仲の良い友達の家に行って、もしかしたら泊まったりする。ただそれだけ、でしょ?」
「……ありがとう。お願い、出来る?」
「勿論。あ、荷物持っても良いかな」
私は、光佑くんに誘われるまま、彼に付いていくことにした。
悪いとか、友達でも甘えちゃ駄目だみたいな気持ちはあったけど、それ以上に私は吐きそうな気持ちを抱えたままで居る事が出来なかったのだ。
光佑くんが友達と遊ぶ様な物だと言ってくれたおかげで、ズルい私はそれに乗る事にしたのだ。
優しさに甘えて、頼って、寄りかかる事を選んでしまったのだ。
多分そういう私の気持ちを知っていて、それでも甘えさせてくれる光佑くんに私は小さく感謝を告げるのだった。
『俺は加奈子が大切なんだ』
何度も、何度も、晄弘くんの真剣な表情と共にそう私に囁くのだ。
その度に私は布団の上で悶えながら、転がり続けた。
それは、ここ数日で一番のとんでもない衝撃だった。
ずっと私の中に刺さっていた、光佑くんのことが好きな奴らの言葉が、何処かへ消えてゆく。
私はずっと、言葉は呪いで、人を傷つける為にだけ存在するんだと思っていた。
でも違った。
そうじゃなかった。
人が選ぶんだ。
人を傷つけるか、想うか。
そうだ。
人を傷つけようとして放たれる言葉は刃物だ。
人を痛めつけようとして放たれる言葉は鈍器だ。
人を苦しめようとして放たれる言葉は、心を傷つける為の武器だろう。
今まで私に投げかけられていた言葉は、ただただ人を、私を憎くて言葉を重ねている暴力だった。
でもそれと同じ様に、その人を想って伝えられる言葉もあるんだ。
私は、それを知った。晄弘くんに教えて貰った。
なんだか晄弘くんの事を想うだけで、フワフワと気持ちが良くなって、空の向こうに飛んでいけそうだ。
この気持ちが何なのか分からないけど。でも、大切にしたいと思った。
そして、これまで以上に晄弘くんや光佑くんに会うのが楽しみになって、明日が早く来ないかな、なんて思うのだった。
しかし、そんな楽しい気持ちも、何の知らせもなく部屋に乱入してきた存在によって薄くなっていく。
「お姉ちゃん! 何してるの!?」
「別に、何もしてないよ。ただ寝てただけ」
「えー!? でも楽しそうな声してたのになぁー」
「気のせいでしょ」
妹から面倒な絡み方をされて、私はうんざりとした思いをしながら体を起こした。
部屋の入り口からこちらを見て、何かもじもじとしている妹を見て、何だかため息を吐きたくなった。
そして実際に止められなかった溜息を吐きつつ、半ば睨みつける様にして妹を見据えた。
その視線には感情はあまり乗っていないと思っていたが、妹は何か恐怖を感じたらしく視線をさ迷わせ、動揺しながら何も言わず部屋から出ていった。
扉くらい閉めろと思いつつも、これが親に知られればまた面倒な事になるかなと気分はまた落ちた。
最近は両親だけじゃなく、何故か私にも話しかけに来る様になったのだが、それが面倒くさいのだ。
無視すれば両親が狂ったように騒ぎ始めるし、妹も泣きだして面倒くさい。
でも構えば構うで両親がぎゃあぎゃあと騒ぎ、やかましい。
どちらに転んでも無駄な時間を過ごすなら追い払う方が気も楽である。
私はちょっと落ちた気分に丁度いいと思いながら、机に向かって勉強をする事にした。
最近は嫌な事があった時は勉強をする様にしている。
勉強自体は今後の生活で約に立つだろうし、光佑くんや晄弘くんは勉強が苦手みたいだから、私にも二人に何か出来る事が欲しかったのだ。
ふと鉛筆を走らせていた私は、一つの名案を思い付いた。
そうだ。
二人にお菓子を作っていくのはどうだろうか。
運動をして、疲れるだろうし。甘い物を食べたら美味しいし、その、少しは恩返しみたいな事も出来るんじゃないだろうか。
「そうだよ。二人には助けてもらったんだから。何か恩返しをする必要があるよね。そう。これは別におかしな事じゃない」
私は深く息を吐きながら、そう言葉に出しつつ椅子から立ち上がった。
そして、台所へと向かうと、料理をしている母親に借りても良いかと確認をするのだった。
まぁ、うじうじと文句は言われたが、借りる許可さえ手に入ればこっちのものだ。
明日からはクッキーにでも挑戦しようかな。
なんて、思っていたというのに。
本当にうんざりする。
私は、うきうき気分で帰り道に借りてきたお菓子の本を、妹と共に見ながら進みの遅いお菓子作りにイライラとしていた。
本当はササっと作って、今日持って行きたかったのに、妹の進みに合わせる必要があるから作業に時間が掛かり過ぎている。
このペースでは作り終わる頃にはもう二人は帰ってしまうだろう。
「ね、ね、ここは、これで良いの?」
「そうね。良い感じだけど。ここはもっとこう」
「う、うん。頑張る」
鼻の頭を白く汚しながらお菓子作りをしている妹に母親はご満悦らしい。
が、私はさっさと自分の分だけ終わらせて向かいたいものだ。
しかし、ここで早くしろなんて言おうものなら母親が激怒するだろう。
それはそれで面倒だし。ここは適当に妹の相手をするのが得策なのだ。
そう。分かってはいるのに。苛立つ気持ちは次から次へと湧いてくる。
あぁ、早く終わらないかなと、私は時計を盗み見ながら考えるのだった。
そして、すっかり日も傾いた時間になってようやく完成したお菓子だったが、いつものアレが発生した為に、私は今日お菓子を持って行く事が出来なくなってしまった。
「お姉ちゃんの作ったお菓子。綺麗で良いな」だ。
まったく楽な人生を送っているなとつくづく思ってしまう。
そんな言葉を吐けば、どうなるかなんて馬鹿でも分かる。
大切で、大切で、大切な妹のお願いだ。母親は一瞬で妹の味方になった。
「お姉ちゃん。紗理奈にあげれば良いじゃない」
何が良いじゃないだ。何も良くない。
「これは友達にあげようと思って、作ったの! 紗理奈の為に作ったんじゃない! それに紗理奈のは自分で作ったでしょ!!」
「う、うん。紗理奈はお姉ちゃんのが、欲しいって言ったんじゃないよ」
「あぁ、なんて優しいの紗理奈は。でも紗理奈が遠慮する事なんて無いのよ!? ほら。お姉ちゃん! 紗理奈はこう言ってるのよ! なんで妹に優しく出来ないの」
「優しくとか、そういう話じゃないでしょ。私は、友達の為に」
「お姉ちゃんでしょ! 我儘言わないの! 友達なんてどうでも良いでしょ!!」
母親の言葉を聞いた瞬間、私は怒りで頭が真っ白になった。
なんだ、こいつは。
何なんだアンタらは。
なんでそうやって私の邪魔ばっかりするんだ。
もう良い。
もう良いよ!!
「分かったよ! 欲しいんだったら勝手に食え!!」
私は怒りのままに綺麗に包装したクッキーを床に叩きつけて、そのまま台所を後にした。
後ろから母親の狂ったような叫び声や妹の泣き叫ぶ声が聞こえたが、知ったことじゃない。
もう嫌だ。こんな家!!
私は衝動のままに部屋に帰って学校やいくつかの荷物を掴んで鞄と一緒に家を飛び出した。
こんな家に居るくらいなら、学校やその辺で暮らした方がずっとマシだ。
もう二度と戻らない覚悟で私は、もうすっかり日が沈み始めた街中を走っていたのだが、不意に誰かに呼び止められて足を止めた。
「加奈子ちゃん! やっぱり加奈子ちゃんだ。って、何かあったみたいだね」
「……光佑くん」
「何かあったの。って聞きたいところだけど。聞くのは今じゃないかな。とりあえず、家に来ない?」
「光佑くんの、おうち?」
「そう。友達の家。どうかな」
「迷惑じゃ、ない?」
「迷惑な訳ないよ。ただ仲の良い友達の家に行って、もしかしたら泊まったりする。ただそれだけ、でしょ?」
「……ありがとう。お願い、出来る?」
「勿論。あ、荷物持っても良いかな」
私は、光佑くんに誘われるまま、彼に付いていくことにした。
悪いとか、友達でも甘えちゃ駄目だみたいな気持ちはあったけど、それ以上に私は吐きそうな気持ちを抱えたままで居る事が出来なかったのだ。
光佑くんが友達と遊ぶ様な物だと言ってくれたおかげで、ズルい私はそれに乗る事にしたのだ。
優しさに甘えて、頼って、寄りかかる事を選んでしまったのだ。
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