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第19話『……いつかの再現だね。魔王』
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魔王を前にして、それぞれに武器を構えるルークたち。
いつ激突してもおかしくない程に空気は張り詰めていた。
しかし、そんな空気の中でなお、ルークはまるで軽口を叩く様に魔王へと語り掛ける。
「……いつかの再現だね。魔王」
「ふむ。そうだな。世界とは分からぬ物だな。ルークよ」
「本当に、まさか君とまたこうして戦う日が来るだなんて思ってもみなかったよ」
「そうだろう、そうだろう。我はこれでも演技力には自信があってな」
「あぁ、本当に、すっかり騙された」
「ふはははは! 仕方がない。我の姿に、言葉に、貴様ら人類は騙され続けてきたのだからな!!」
余裕を見せて笑う魔王に、ルークは強く剣を握り締めた。
互いに言葉での応酬は終わりと判断し、戦闘を始める準備をする。
「では、始めようか」
そして、魔王の言葉を合図として、ルークたちは一斉にそれぞれの武器を手に魔王へ向かって駆けだした。
「世界の命運をかけた戦いを!!」
「魔王!!!」
「早速来たか。レーニ・トゥーゼ。光の聖女に魂を奪われた哀れなエルフよ」
「アメリアの護る世界から、お前を消してやる!」
「フン。ならば我がお前を救ってやろう! もはや囚われる事が無いようにな!!」
魔王の魔力とレーニの魔力がぶつかり合い、大爆発が起こる。
レーニは爆発の中心点から転移で空中に逃げ、煙の立ち込める場所から魔王を探そうとするが、魔王は既にレーニの背後に転移しており、それに気づいたレーニが風の魔術で壁を作るが、それごと黒い剣で切り裂いた。
そして地面に叩き落とされたレーニのすぐ近くに降りた魔王が、そのまま剣を振りかぶって動けないレーニにトドメを刺そうとする。
「魔王! 覚悟!」
「む」
しかし、そんな魔王の凶行を止めるべく、レオンとルークは息をピッタリに合わせながら息もつかせぬ連携を繰り出して、魔王を追い詰めてゆく。
「やるな」
「ソフィア!!」
「今……放て!!」
「おぉ!」
そして、レオンとルークが魔王の体勢を崩した瞬間に、ソフィアが強大な一撃を魔王に直撃させた。
それを遠くから見ながら、オリヴィアはレーニを癒すが、怪我が治っても気絶したレーニの意識は戻らない。
「ふ、ふはははは。中々愉快じゃないか。遂にここまでの強者が現れたか。人間!!」
さらに、最悪な事に魔王はソフィアの放った魔術による爆炎の中から無傷で現れたのだ。
余裕の笑みを浮かべて、燃え盛る中庭を歩く魔王は、まさに地上で最も危険な存在である。
「だが、まだ足りん」
魔王は地面を蹴り、一瞬でソフィアに近づくと、その腹部を蹴りつけた。
「ソフィア!!」
「魔術師を一人で放置するとはなってないな」
「貴様ァ!!」
「怒り、視界が狭まるのも、減点だ」
腹部を両手で押さえながら地面に倒れ、涙を滲ませながら苦しそうに息を吐いているソフィアを救おうと、ルークとレオンが魔王に迫るが、魔王は近くに転がっていたソフィアを捕まえ二人の前に投げ出すと、それを抱き留めようとしたルークをソフィアと同じ様に横から蹴りつけて、驚愕するレオンを剣で叩き伏せた。
戦闘開始からわずか数刻の間に、オリヴィアを除く全員がほぼ戦闘出来ない状態に陥った事で、ルークは自らの考えが甘かったと唇を噛み締める。
しかし、そんなルークの事など見る事もなく、魔王はゆっくりとオリヴィアの元へ向かうのだった。
「さて。残るはお前だけだな。聖女オリヴィア」
「っ! 光よ!」
オリヴィアはかつて子供の姿であった魔王にやっていた様に、光の魔力を魔王に向けて放った。
しかし、それは魔王の鎧に弾かれて、空気の中に消えてしまう。
「無駄だ。その程度で我がどうにかなる筈がない」
「なら!」
「……ほぅ」
聖女オリヴィアは自身の中にある闇の魔力を無理矢理引き出して、それを手に纏わせたまま魔王の腕を掴んだ。
オリヴィアは腕を通して闇の魔力による魔王の破壊を試みたのだ。
しかし、魔王が傷ついていく以上に、オリヴィアの腕や体から血が溢れ、このままではオリヴィアの体が持たないというのは誰の目から見ても明らかであった。
「止めろ! オリヴィア! それ以上は!」
「良いんです!! 所詮私は聖女になり切れなかった女、このまま魔王と共に果てるのであれば!」
「無駄だ」
魔王はオリヴィアの腕を逆に掴むとそのまま振り上げて、地面に叩きつけた。
そして指の力が緩んだすきに、その腕を振りほどき、ルークの転がっている場所の近くに放り捨てる。
「オリヴィア!!」
「ごめ……んなさい、こんな事も、出来なくて」
「くそっ! 魔王……!」
魔王はルークたち全員が倒れているという状況に小さく息を吐くと、持っていた剣を地面に突き刺した。
「所詮、憎しみや怒りでは我に勝てぬ。今、それを教えてやろう」
そう言って魔王はまだ意識のあるルーク、ソフィア、レオン、オリヴィアに闇の力を見せつけるのだった。
少年には夢があった。
幼馴染と共に騎士になって、幼馴染や家族、友達を護るという夢が。
だが……その夢も、心根の腐った貴族によって汚された。
『……ごめんね。レオン。私、汚れちゃった』
少女には希望があった。
いつか、王子様が現れて、自分をどん底の生活から救い出してくれるという希望が。
しかし、その希望はいつも他でもない彼女自身の家族によって踏みつぶされてきた。
「気持ち悪い子だね! また一人でブツブツ喋ってんのかい!」
少年には未来があった。
限りなくどこまでも広がっていく世界を駆けまわり、かつてこの世界にいた多くの偉人達の様に、人の助けになりたいという未来が。
それでも、少年の力など世界に対してあまりにも無力であり、少年は身近な仲間の苦しみすら癒す事が出来なかった。
「僕は、どうしてこんなにも、弱い人間なんだ。僕を信じる仲間を助ける事も出来ない!」
少女には願いがあった。
日々体を蝕む病と、世界を憎み呪いの様な言葉をまき散らす日々の中で、それでも自分が生きている事を喜んでくれた人の願いが、あった。
そう! 少女には願いが生まれたのだ。
「この世界を、お願い。オリヴィア」
諦めではなく、夢を。
絶望ではなく、希望を。
現実を乗り越えた未来を!!
共に歩む仲間から、心の闇を受け入れて、それでも前に進む力を教えて貰ったのだ。
だから今こそ、示そう。
手を差し伸べてくれた人の優しさを。
共に歩んでくれた人の温もりを。
聖女になれぬと苦しむ自分を、それでも仲間だと、同じなのだと言ってくれた人たちへ。
呪いは、願いに変わる事が出来るのだと!!
「む?」
「……今こそ、祈り、ましょう。アメリア様へ」
魔王は闇に染まった中庭で、僅かに光る何かへ視線を向けた。
そしてその光は、彼女の近くに居る人間たちにも伝わってゆく。
「この声は、オリヴィア?」
「……オリヴィア」
「そう、だね。僕達は、まだ、生きている。なら立ち上がれるはずだ」
魔王は闇の中で一層輝く四つの光を見て、目を細めた。
そして、笑う。
「ふ、ははは!! まだ立ち上がるか。名もなき英雄たちよ! いくら立ち上がった所で闇は消えぬというのに!」
「あぁ……そうだね!!」
「む?」
ルークは剣を支えにしながら立ち上がり、闇の中から魔王を真っすぐに見据えた。
そして、かつて勇者と呼ばれた者らしく、人々に勇気を与える様な頼もしい声を世界に発するのだった。
「僕は何の力も持たない……弱い人間だ! ちっぽけで、情けなくて、怖がりだ。今だって本当は逃げ出したい気持ちで溢れている。でも、それでも!! こんな僕を頼ってくれた人たちを、こんな僕に未来を見てくれた人を裏切りたくない!!」
ルークに続き、ソフィアもまた痛みを抱えながら立ち上がり、笑う。
「世界なんてどうでもいい。ただ一人、たった一人、私に希望を見せてくれた人が幸せであれば良い! こんな、絶望なんて、全部飲み込んでやる! 私はルークの希望になる為に、どんな世界でも笑ってやる!!」
光は大きくなり、やがてレオンの中でも膨れ上がる。
「そう、だな!! その通りだ! 世界中の闇を消そうってんじゃない。俺たちだ。俺たちが自分の中の闇を受け入れるだけで良い。怖がりなのは俺も同じさ。それでも、立ち上がるって決めたのは、アディが二度と泣かない場所を作るためだ!!」
「なるほど。実に面白いな」
エースブはルークたちの言葉に笑い、そして最後に立ち上がったオリヴィアへ視線を向ける。
お前も、あるのだろう? とでも言いたげに、視線に期待を込めて。
「皆さん強い方ばかりですね。私は皆さんほど強くはありません。未だに世界を呪いたくなる気持ちはあります。この心を願いにする事は出来ません」
「ならばどうする? 聖女オリヴィア!」
「ふふ。決まっているじゃないですか。私はいつだって変わらない。どんな時も! 私はただ、アメリア様を信じる!!」
瞬間、オリヴィアを中心にして世界が光に包まれた。
エースブは咄嗟に手で目を覆い隠すが、それでも放たれる光を弱める事は出来ず、鎧を、腕を通り抜けて全身に光を突き刺した。
そして、次の瞬間には中庭に広がっていた闇は全て消え去り、暗雲が覆っていた空も晴れ渡る青空へと変わり、エースブにとって、世界にとって、最も心に刻まれた女が、ルークたちの願いを形にして現れたのである。
「……アメリアか」
『皆さんの願い。聞き届けました。世界の希望。託します』
光の聖女アメリアが手を翳し、ルークが剣でその光を受け止める。
それはまさに世界中の希望を集めた黄金に輝く光の力であった。
「ふふ、ふはははは!! ならば決めよう!! 我が集める闇の力と、貴様らが束ねる光の力!! どちらが上かをな!! 光を手にするか、闇に飲まれるか!! 試してやろうでは無いか!」
「……魔王!!人は恐怖を受け入れて勇気と共に希望を手にする事が出来る! お前も、 光を受け入れろ!!」
魔王は漆黒よりもなお黒に染まった剣でルークへと斬りかかり、二度三度と斬り合ったが、やがて闇の剣は砕かれ……その勢いのままエースブは光の剣に鎧ごと斬られてしまうのだった。
「ぐっ!」
「これで、終わりだ!!」
そして……ルークは更なる一撃をエースブへぶつけ、エースブは全身をボロボロにしながら吹き飛び、いつかの時、子供たちへ本を読んでいた木にぶつかりながら横たわるのだった。
いつ激突してもおかしくない程に空気は張り詰めていた。
しかし、そんな空気の中でなお、ルークはまるで軽口を叩く様に魔王へと語り掛ける。
「……いつかの再現だね。魔王」
「ふむ。そうだな。世界とは分からぬ物だな。ルークよ」
「本当に、まさか君とまたこうして戦う日が来るだなんて思ってもみなかったよ」
「そうだろう、そうだろう。我はこれでも演技力には自信があってな」
「あぁ、本当に、すっかり騙された」
「ふはははは! 仕方がない。我の姿に、言葉に、貴様ら人類は騙され続けてきたのだからな!!」
余裕を見せて笑う魔王に、ルークは強く剣を握り締めた。
互いに言葉での応酬は終わりと判断し、戦闘を始める準備をする。
「では、始めようか」
そして、魔王の言葉を合図として、ルークたちは一斉にそれぞれの武器を手に魔王へ向かって駆けだした。
「世界の命運をかけた戦いを!!」
「魔王!!!」
「早速来たか。レーニ・トゥーゼ。光の聖女に魂を奪われた哀れなエルフよ」
「アメリアの護る世界から、お前を消してやる!」
「フン。ならば我がお前を救ってやろう! もはや囚われる事が無いようにな!!」
魔王の魔力とレーニの魔力がぶつかり合い、大爆発が起こる。
レーニは爆発の中心点から転移で空中に逃げ、煙の立ち込める場所から魔王を探そうとするが、魔王は既にレーニの背後に転移しており、それに気づいたレーニが風の魔術で壁を作るが、それごと黒い剣で切り裂いた。
そして地面に叩き落とされたレーニのすぐ近くに降りた魔王が、そのまま剣を振りかぶって動けないレーニにトドメを刺そうとする。
「魔王! 覚悟!」
「む」
しかし、そんな魔王の凶行を止めるべく、レオンとルークは息をピッタリに合わせながら息もつかせぬ連携を繰り出して、魔王を追い詰めてゆく。
「やるな」
「ソフィア!!」
「今……放て!!」
「おぉ!」
そして、レオンとルークが魔王の体勢を崩した瞬間に、ソフィアが強大な一撃を魔王に直撃させた。
それを遠くから見ながら、オリヴィアはレーニを癒すが、怪我が治っても気絶したレーニの意識は戻らない。
「ふ、ふはははは。中々愉快じゃないか。遂にここまでの強者が現れたか。人間!!」
さらに、最悪な事に魔王はソフィアの放った魔術による爆炎の中から無傷で現れたのだ。
余裕の笑みを浮かべて、燃え盛る中庭を歩く魔王は、まさに地上で最も危険な存在である。
「だが、まだ足りん」
魔王は地面を蹴り、一瞬でソフィアに近づくと、その腹部を蹴りつけた。
「ソフィア!!」
「魔術師を一人で放置するとはなってないな」
「貴様ァ!!」
「怒り、視界が狭まるのも、減点だ」
腹部を両手で押さえながら地面に倒れ、涙を滲ませながら苦しそうに息を吐いているソフィアを救おうと、ルークとレオンが魔王に迫るが、魔王は近くに転がっていたソフィアを捕まえ二人の前に投げ出すと、それを抱き留めようとしたルークをソフィアと同じ様に横から蹴りつけて、驚愕するレオンを剣で叩き伏せた。
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しかし、そんなルークの事など見る事もなく、魔王はゆっくりとオリヴィアの元へ向かうのだった。
「さて。残るはお前だけだな。聖女オリヴィア」
「っ! 光よ!」
オリヴィアはかつて子供の姿であった魔王にやっていた様に、光の魔力を魔王に向けて放った。
しかし、それは魔王の鎧に弾かれて、空気の中に消えてしまう。
「無駄だ。その程度で我がどうにかなる筈がない」
「なら!」
「……ほぅ」
聖女オリヴィアは自身の中にある闇の魔力を無理矢理引き出して、それを手に纏わせたまま魔王の腕を掴んだ。
オリヴィアは腕を通して闇の魔力による魔王の破壊を試みたのだ。
しかし、魔王が傷ついていく以上に、オリヴィアの腕や体から血が溢れ、このままではオリヴィアの体が持たないというのは誰の目から見ても明らかであった。
「止めろ! オリヴィア! それ以上は!」
「良いんです!! 所詮私は聖女になり切れなかった女、このまま魔王と共に果てるのであれば!」
「無駄だ」
魔王はオリヴィアの腕を逆に掴むとそのまま振り上げて、地面に叩きつけた。
そして指の力が緩んだすきに、その腕を振りほどき、ルークの転がっている場所の近くに放り捨てる。
「オリヴィア!!」
「ごめ……んなさい、こんな事も、出来なくて」
「くそっ! 魔王……!」
魔王はルークたち全員が倒れているという状況に小さく息を吐くと、持っていた剣を地面に突き刺した。
「所詮、憎しみや怒りでは我に勝てぬ。今、それを教えてやろう」
そう言って魔王はまだ意識のあるルーク、ソフィア、レオン、オリヴィアに闇の力を見せつけるのだった。
少年には夢があった。
幼馴染と共に騎士になって、幼馴染や家族、友達を護るという夢が。
だが……その夢も、心根の腐った貴族によって汚された。
『……ごめんね。レオン。私、汚れちゃった』
少女には希望があった。
いつか、王子様が現れて、自分をどん底の生活から救い出してくれるという希望が。
しかし、その希望はいつも他でもない彼女自身の家族によって踏みつぶされてきた。
「気持ち悪い子だね! また一人でブツブツ喋ってんのかい!」
少年には未来があった。
限りなくどこまでも広がっていく世界を駆けまわり、かつてこの世界にいた多くの偉人達の様に、人の助けになりたいという未来が。
それでも、少年の力など世界に対してあまりにも無力であり、少年は身近な仲間の苦しみすら癒す事が出来なかった。
「僕は、どうしてこんなにも、弱い人間なんだ。僕を信じる仲間を助ける事も出来ない!」
少女には願いがあった。
日々体を蝕む病と、世界を憎み呪いの様な言葉をまき散らす日々の中で、それでも自分が生きている事を喜んでくれた人の願いが、あった。
そう! 少女には願いが生まれたのだ。
「この世界を、お願い。オリヴィア」
諦めではなく、夢を。
絶望ではなく、希望を。
現実を乗り越えた未来を!!
共に歩む仲間から、心の闇を受け入れて、それでも前に進む力を教えて貰ったのだ。
だから今こそ、示そう。
手を差し伸べてくれた人の優しさを。
共に歩んでくれた人の温もりを。
聖女になれぬと苦しむ自分を、それでも仲間だと、同じなのだと言ってくれた人たちへ。
呪いは、願いに変わる事が出来るのだと!!
「む?」
「……今こそ、祈り、ましょう。アメリア様へ」
魔王は闇に染まった中庭で、僅かに光る何かへ視線を向けた。
そしてその光は、彼女の近くに居る人間たちにも伝わってゆく。
「この声は、オリヴィア?」
「……オリヴィア」
「そう、だね。僕達は、まだ、生きている。なら立ち上がれるはずだ」
魔王は闇の中で一層輝く四つの光を見て、目を細めた。
そして、笑う。
「ふ、ははは!! まだ立ち上がるか。名もなき英雄たちよ! いくら立ち上がった所で闇は消えぬというのに!」
「あぁ……そうだね!!」
「む?」
ルークは剣を支えにしながら立ち上がり、闇の中から魔王を真っすぐに見据えた。
そして、かつて勇者と呼ばれた者らしく、人々に勇気を与える様な頼もしい声を世界に発するのだった。
「僕は何の力も持たない……弱い人間だ! ちっぽけで、情けなくて、怖がりだ。今だって本当は逃げ出したい気持ちで溢れている。でも、それでも!! こんな僕を頼ってくれた人たちを、こんな僕に未来を見てくれた人を裏切りたくない!!」
ルークに続き、ソフィアもまた痛みを抱えながら立ち上がり、笑う。
「世界なんてどうでもいい。ただ一人、たった一人、私に希望を見せてくれた人が幸せであれば良い! こんな、絶望なんて、全部飲み込んでやる! 私はルークの希望になる為に、どんな世界でも笑ってやる!!」
光は大きくなり、やがてレオンの中でも膨れ上がる。
「そう、だな!! その通りだ! 世界中の闇を消そうってんじゃない。俺たちだ。俺たちが自分の中の闇を受け入れるだけで良い。怖がりなのは俺も同じさ。それでも、立ち上がるって決めたのは、アディが二度と泣かない場所を作るためだ!!」
「なるほど。実に面白いな」
エースブはルークたちの言葉に笑い、そして最後に立ち上がったオリヴィアへ視線を向ける。
お前も、あるのだろう? とでも言いたげに、視線に期待を込めて。
「皆さん強い方ばかりですね。私は皆さんほど強くはありません。未だに世界を呪いたくなる気持ちはあります。この心を願いにする事は出来ません」
「ならばどうする? 聖女オリヴィア!」
「ふふ。決まっているじゃないですか。私はいつだって変わらない。どんな時も! 私はただ、アメリア様を信じる!!」
瞬間、オリヴィアを中心にして世界が光に包まれた。
エースブは咄嗟に手で目を覆い隠すが、それでも放たれる光を弱める事は出来ず、鎧を、腕を通り抜けて全身に光を突き刺した。
そして、次の瞬間には中庭に広がっていた闇は全て消え去り、暗雲が覆っていた空も晴れ渡る青空へと変わり、エースブにとって、世界にとって、最も心に刻まれた女が、ルークたちの願いを形にして現れたのである。
「……アメリアか」
『皆さんの願い。聞き届けました。世界の希望。託します』
光の聖女アメリアが手を翳し、ルークが剣でその光を受け止める。
それはまさに世界中の希望を集めた黄金に輝く光の力であった。
「ふふ、ふはははは!! ならば決めよう!! 我が集める闇の力と、貴様らが束ねる光の力!! どちらが上かをな!! 光を手にするか、闇に飲まれるか!! 試してやろうでは無いか!」
「……魔王!!人は恐怖を受け入れて勇気と共に希望を手にする事が出来る! お前も、 光を受け入れろ!!」
魔王は漆黒よりもなお黒に染まった剣でルークへと斬りかかり、二度三度と斬り合ったが、やがて闇の剣は砕かれ……その勢いのままエースブは光の剣に鎧ごと斬られてしまうのだった。
「ぐっ!」
「これで、終わりだ!!」
そして……ルークは更なる一撃をエースブへぶつけ、エースブは全身をボロボロにしながら吹き飛び、いつかの時、子供たちへ本を読んでいた木にぶつかりながら横たわるのだった。
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