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アンジェラ編

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「その命、わたくしが拾って差し上げますわ。」
「ふぇ?天使?ねぇ、あなたは天使なの?」




崖っぷちだった私は、天使に出会いました。






私、アンジェラ・ウィリアムズは父親にできた性悪な愛人のせいでほんの数刻前に、住んでいた屋敷を追い出され路頭に迷っていた。着の身着のままで放り出されて、行くあてもなく屋敷から少し離れた通りをただ歩いていく。



「お父様ったら、信じられない…あんな女にだまされて!」



元は由緒ある家系の伯爵令嬢だった私は、生まれた時から不自由なく暮らしていた。両親と厳しくも優しい祖父に囲まれて幸せだった。だけど、数年前に祖父と母を続けて失くしてから、少しづつ狂っていった。
父が母を失くした寂しさから、愛人を作りのめり込んでしまったのだ。気づけば、全てを彼女に奪われた私は、身一つで生まれ育った家を追い出されたのだ。
父は、申し訳なさそうな顔をしながらも自分の保身を選び私を見捨てたのだった。



「はぁ…お母様、お爺様…どうしましょう…。」


手元には、ほんの少しのお金しかなく今夜の宿も無い。あぁ、あのクソ親父…一生恨むわよ!
仕事をするにも、このご時勢、紹介状がなくてはどこも雇ってくれないし。
私にあるのは、この清くて若い身体のみだった。


「…こうなったら、処女を売るしかないのかしら…。」


本当は嫌だけど、お腹も空いたし寒いし。もう、結婚なんてできるわけないのだから大事にしても仕方ないわ。


「でも、体を売るってどうするのかしら?」


あまり、知識の無い私は歩きながらウンウン唸っていて、周りからは不気味に見えたらしく自然と人波が分かれていたことに気づかなかった。
テクテクと歩き、気づけば大橋の真ん中だった。
私は、何気に橋の下を流れる川のじっと見つめていて後ろに誰が通ったのかも知らずに1人呟く。


「ふふ、この下に飛び込めばお母様に会えるかしら?」


なんかもう、自棄になり物騒な事を口にした私は知らぬ間に涙を流していた。
お母様、お爺様…私はどうしたらいいの?誰か助けて…。
心細くて、無意識に橋に手をかけて前のめりになった瞬間、天使の囁きが聞こえた。



「危なくてよ?あなた、死にたいのかしら。」
「え?」



振り向くと、そこには天使が立っていた。


艶々の金髪に、エメラルドの様な瞳、陶器の様に白い肌。ほんのりと赤い脣はさくらんぼの様にぽってりと色づいていて、お人形さんの様な少女がそこにいた。
到底、人間とは思えなくて私は自分の目を擦った。




「え、私生きてるよね?なんで、天使様がここに。」
「…何を言ってるのかよくわからないわ。」
「わー、話し声まで可愛いぃ。天使様は声も素敵ですねぇ。」



目の前の、非現実的な現象を前に思わず微笑んでしまった。


「…っ、そ、それよりもあなた…死ぬつもりだったんじゃないの?」


少し頬に朱が差した少女がこれまた更に美しくて、可愛いくて、悶絶しそうになった。


「はっ、いやあの…死ぬつもりというか…ある意味そうなんですけど…。」
「訳ありみたいね。話してごらんなさい。」

目の前に立つ、天使…いや女神の様な容貌の少女に私は自分に起こった事を全て話した。
路頭に迷ってること、最悪体を売ろうとしてることまで。


「そう…では、あなたの命私が拾って差し上げますわ。」
「え?!それって、どういう…。」
「あなたを私が雇ってあげるって言ってるの。」
「ほ、本当ですか!?」


彼女の突然の提案に、言葉を失ってしまう。
たった数分前に出会った素性も知らない女を雇うだなんて、本来はありえない事だ。

「私はね、毎日がすごく退屈なの…あなたがいたら少しは退屈が紛れそうだわ。」

ふふっと、悪戯に微笑んだ彼女に私は…落ちた。
こんな人がいるなんて、私はなんて幸運な人間なの!
私は、この時名前も知らない天使に精一杯仕える事を誓った。



「あぁ、自己紹介がまだだったわね。私は、シャーロット。シャーロット・ブラウンよ。」
白魚の様な白い手が私へと向けられる。



シャーロット・ブラウン様…名前まで美しいわ。
ん?待って…ブラウン家?何か聞き覚えが。



「あ、私はアンジェラ・ウィリアムズと言います!これから、末永くよろしくお願いします!」





私は、頭の中に一瞬浮かんだ疑問を消しさり、天使の手を取っていた。
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