神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第5章 救世主と事件

第31話 一目惚れとファン

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「なんでも、お前を『女』 と勘違いして『一目惚れ』したらしい」

「……」

 その言葉に、飛鳥は無表情のまま、隆臣を凝視する。

 爆弾発言にもほどがあるだろ。
 
 だが、思わず突っ込みそうになったその言葉を、一旦飲み込むと、飛鳥は頭の中で、再度整理する。

 つまり、この「武市くん」は、その時の文化祭で、女装をしていた自分をみて一目惚れをし、廊下に焼きそばをぶちまけたあと、隆臣と再会した……と、そういうことなのだろうか?

「あはは、すみません。いきなりこんなこと言われたら、びっくりしますよねー」

「うん、そうだね。もう、どこからツッコんでいいのかわからない」

 てへっと頭をかきながら言葉を投げかける大河に、飛鳥は笑顔で返事を返す。

 だが、その顔はどう見ても、心が笑っていない。

「大体、一目惚れってなに? もしかして、君はまだ、俺が『女の子』だとでもおもってるの?」

「違いますよ!! 確かに、初めは一目惚れから始まりましたけど、その後、橘と再会して、だと聞いてからは『むしろ、男なのに、こんなにキレイッて、すごくないか』ってなって、一気にファンになりました! もうそれからは、男とか女とか関係なく一つの奇跡として、神木くんを神のように崇め奉ればいいんじゃないかとおもって……!!」

「いや…あの、ホントなに言ってるか、全然わかんない!?」

「嘘だろ。お前、もうそんなに重症なの?」

 度を超す大河の発言に、飛鳥が口元を引き攣らせ、隆臣が顔を歪める。これは、もう「信者」といってもいいレベルだ。

「はぁ……だいたい、飛鳥。お前も、なに大河と鉢合わせてんだよ。今までの俺の苦労、全部水の泡じぇねーか!」

 すると、今度は隆臣がため息混じりに苛立つような声をハッした。
 
 だが、飛鳥とて、それを自分のせいにされるのは、なんだか納得がいかない。

「あのさ、なんで、俺のせいになるの!? いつの間にか背後にいたんだよ! 助けてくれた心優しい人かと思ったら、中身キツネどころか、どんでもない化け物だったんだけど! しかも隆ちゃんの友人とか、なにこれ、どういうこと!?」

「俺だって、まさか大河がここまで、飛鳥に、とは思わなかったよ」

「その言い方、やめて……」

「でも、これでも根は真面目だし、悪いヤツではないんだ。飛鳥のことに関しては、してて、手に負えないけど」

「最後の部分が、一番厄介なんだけど!?」

「大丈夫ですよ、神木くん! 俺のことは空気と思ってください! 俺は、ただ見てるだけでも十分ですから!!」

「なにが『大丈夫』なの!? 俺は全く大丈夫じゃないんだけど?!」

 立ち上がり身を乗り出してきた大河を見て、飛鳥は更に声を荒らげた。

 なんか、疲れる。
 彼と話していると、極端に疲れる!!
 
 これは確実に、自分とは合わないタイプの人間だ。

「あのさ──」

 すると、飛鳥はにっこりと笑顔を浮かべると、それとは対照的な辛辣な言葉を放つ。

「俺、君のことだから、あまり近寄らないでね?」

「マジすか!!?」

 そして、その言葉には、さすがの大河も驚いたようで

「そんな! なぜですか、神木くん!?俺のなにがダメなんですか!?」

「9割型、そのテンションが」

「テンション!?」

「おい。お前らうるさい。少し声を抑えろ」

 笑顔の飛鳥と蒼白する大河。そして隆臣はコーヒー片手にため息をつくと、騒がしい二人に静止の言葉をかける。

 隆臣からしたら、うちの喫茶店内で喧嘩をするのは、やめて頂きたい。

「ちょっと橘! コーヒー飲んでないで、少しはフォローしろよ!?」

すると、横で優雅にコーヒーをのむ隆臣を見て、大河が眉を下げ、縋り付くように助けを求めてきた。

「いや、フォローって……もうダメだろ。修正効かないくらいドン引きだろ?」

「ドン引き!? 希望はないの!?」

「まー。実際に、飛鳥を助けたのは事実みたいだし、大河がこれ以上バカなことしなけりゃ、そのうち仲良くなれるじゃないか?」

「……ちょっと隆ちゃん、テキトーなこと言わないでくれる?」

 隆臣のいい加減な言葉に、飛鳥が異を唱える。

 だが隆臣は、その後コーヒーのカップを受け皿に戻すと

「だって、そうだろ?」

真面目な、顔をして飛鳥を見つめる。


「なにせ、俺だって……」




「昔は、飛鳥としな──」





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