神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
398 / 507
第8章 好きな人のお願い

第376話 相談と適任者

しおりを挟む

 それから暫くして、神木家の三兄妹弟は、新学期を迎えた。

 兄の飛鳥は大学生四年生、そして、双子の華と蓮は、高校二年生になり、また一つ成長した兄妹弟は、多少なりとも頼もしく見えた。

 だが、そんな新しい生活が始まりだした、ある日。神木家の長男・飛鳥だけは、喫茶店の中で気難しそうな顔をしていた。

「どうしたんだ、飛鳥?」

 珍しく、相談したいことがあると呼び出した飛鳥に、友人の橘 隆臣と武市たけち 大河たいがが、不安げに首を傾げた。

 深刻な顔をする飛鳥は、酷く悩んでいるようだった。

 この、が、こうして思い悩み、尚且つ、相談に乗ってほしいだなんて「明日は嵐か!?」と、言いたくなるくらい珍しいことだ。

 だが、真剣に悩んでいるなら、もちろん、聞いてやりたいと思うだろう、友達なのだから!

「神木くん、一体どうしたんですか!? なにか深刻な悩みが!?」

「ん? あ、いや、深刻って程じゃないんだけど……」

 前のめりになり飛鳥を心配する大河に、飛鳥が、注文したカドーショコラを食べながら答えた。

 口に広がるほろ苦い甘さを堪能しながら、飛鳥が思いだしたのは、例のだ。

 親からバイトの許可を貰えたら、就職祝いに、女装をしてほしいと言われた。

 まぁ、今までにも女装は何度かしてきたし、あかりには、ミサの誤解を解いてくれたという、借りもある。

 女装姿が見たいというなら、しっかり義務は果たそう! だが、問題は……

「あのさ、俺がまた女装するなら、どんな衣装が見たい?」

「「?」」

 少し戸惑いがちに言った飛鳥の言葉に、隆臣と大河は更に首を傾げた。

 深刻な悩みかと思えば、まさかの女装!?
 だが、その話に、大河が我先にと食いつく。

「ああああああああぁぁぁ!! もしかして、またしてくれるんですか!? あの完璧たる妖艶で美しすぎる女装を!! でも、まってください!! いきなり、そんなことを言われても、すぐには決められ」

「誰も、武市くんの前でするとは言ってないよ。てか、うるさいから、黙って」

 喫茶店の片隅で、人目をはばからず大声を出し、身悶えり大河! それを見て、飛鳥がバッサリ言葉を返した。

 ちなみに、言うまでもないだろうが、大河の飛鳥への信者ぶりは、大学四年生になっても健在だ。

「ねぇ、武市くん。いい加減、目を覚ました方がいいんじゃない?」

「目を覚ます? 何を言ってるんですか!? 今ここにいる神木くんが、夢なはずがないじゃないですか!! きっと、触れたら抱きしめられる!!」

「抱きしめるなよ。蹴り飛ばすぞ」

「ああああああああぁぁぁ、もう、その辛辣な返し、絶対夢じゃなーーい!! そして、俺は、そんな神木くんの返しが大好きです!!!!」

「うん……もう、なにいってもダメなのは分かった」

 ニッコリと笑顔を浮かべつつも、飛鳥は呆れかえる。
 相変わらずの信者っぷり。だが、そんな通常運転な大河の隣で、今度は、隆臣が問いかけてきた。

「それが、相談か?」

「ぅ……うん、呆れないでね。真面目に悩んでるから」 

「てことは、マジで女装するのか?」

「まぁ、近々」 

「なんのために??」

「なんの……っ」

 隆臣の質問に、飛鳥は口ごもり、そして、喫茶店の奥をチラリと流し見た。

 あかりは、あの後、正式に採用され、数日前から、この喫茶店で働いている。

 採用されたのは、フロアではなく、キッチン。だから、ここから、あかりが働いている姿は全く見えないが、隆臣の話では、長い髪を一纏めにして、コックコートを着ているあかりは、またちょっと違う印象を受けるらしい。

 花見の時は、ポニーテールにしていたが、髪をまとめたあかりも、また新鮮だろうなと思いつつも、客である飛鳥が、それを拝めるはずがなく……

「もしかして、あかりさんか?」
「……!」

 すると、飛鳥の視線に気づいて、隆臣が更に問いかけた。
 一瞬、言うか言わまいか迷った。だが、この真剣な悩みを解決するなら、女装しなくてはならないのかは、はっきりさせた方がいいだろう。

「うん。頼まれたのは、あかり。就職祝いに、俺に女装してほしいって」

「マジか」 

「マジ。ねぇ、俺の女装って、そんなに見たいもの?」

 まさか、あかりにまで言われるとはおもわなかった。
 だけど、あのあかりのあの言葉には、少しだけドキッとした。

『私の知らない神木さんを、もっと見てみたいです』

 あんな告白じみた言葉──

 だけど、あかりのあの言葉に、特別な意味はなく。

「そりゃ、お前の女装なら、女子も見たいだろ」

「は?」  

 だが、その後、あまりにも平然と隆臣が返してきて、飛鳥はあっけに取られた。

「え? 女子も?」

「ああ、むしろ女子の方が食いつきそうだよな。文化祭の時も、クラスの女子が楽しそうにしてたじゃねーか」

「そ……それは、そうだったけど」

「まぁ、他の男ならともかく、女装は、それなりに見る価値がある」

「……」

 だが、それには、一瞬、ん?と首を傾げ

「──どんな価値があるんだよ!!」

「いや、あるだろ」

「そうですよ! こんなに綺麗なんですよ!きっと神木くんの女装姿をまとめた写真集が出るなら、ベストセラー間違いなしです!」

「そんなに!?」

 流石に、それは言い過ぎだろうが、隆臣にまで『価値がある』と言われると、二の句がつげなくなる。

 なにより、さっきの女子の話には、妙に納得してしまった。つまりあかりも、文化祭の女子たちと同じような感覚なのだろうか?

(これは、完全に男として見られてないな)

 まさに、きせかえ人形だ。

 だが、あかりの気持ちも気にはなるが、今、早急に解決したいのは、それじゃない。

「それより、あかりの前で女装するなら、何がいいと思う?」

「つーか、それはあかりさんに、直接聞いた方がいいんじゃないか?」

「聞いたよ。でも『お任せします』って言われちゃって」

「あー、なるほど!つまり、当日の楽しみにってやつですね!! はい! じゃぁ、神木くん! 婦人警官とかどうでしょうか!?」

「婦人警官? うーん、他には?」

「じゃぁ、バニーガールとか、セーラー服とか! あ! シスターなんかもいいかも! 神木くん、なんでもにあいそうだから、迷いますね!!」

「武市くん、楽しそうだね」

「それは、もう! 神木くんの女装姿を想像するだけで、俺は」

「飛鳥」

 だが、そこにまた隆臣が口を挟んだ。

「それは、男の俺たちじゃなくて、に聞いた方がいいんじゃないか?」

「え? 女の子?」

「あぁ、お前の傍には、適任者がいるだろ。兄貴のためにノリノリで協力してくれそうな女の子が」

「え……?」

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

あやかし第三治療院はじめました。 

にのまえ
キャラ文芸
狼環(オオカミ タマキ)はあやかしの病魔を絵でみつける、病魔絵師を目指す高校生。 故郷を出て隣県で、相方の見習い、あやかし治療師で、同じ歳の大神シンヤと共に あやかし第三治療院はじめました!! 少しクセのある、あやかしを治療します。

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

処理中です...