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第7章 未来への一歩
第369話 誤解と悄然
しおりを挟む「神木さんて、橘さんと付き合ってるんですか?」
「は?」
あかりから放たれた衝撃の一言。
それを聞いて、飛鳥は目を見開いた。
付き合ってるのか?
そう聞かれたのは、わかった。
だが、その相手は……
「あかり」
「は、はい」
すると飛鳥は、ニッコリと微笑むと
「お前、俺の性別、わかってる?」
「わ、わかってます。男性、ですよね?」
「うん、男性だよね。じゃぁ、なんで、その男性の俺が、隆ちゃんと付き合ってるなんていうの?」
「う……っ」
口調は、とても穏やかだった。
相変わらず、鈴のなるような清廉とした声だ。
だが、その声とニッコリ笑った笑顔とは対照的に、言葉はチクチクと痛い。
もしや、これは、逆鱗に触れてしまったのでは!?
「あ、あの、最近は、同性愛的な話も大分オープンになって来ましたし! 神木さんと橘さんなら、ありえない話ではないかなーなんて!」
「あはは! ありえないな~、絶対ありえない!」
「で、でも、聞いたんです!」
「聞いた?」
「と、とある方から、お二人がお付き合いされていると聞きまして……でも、さっき面接の時には、美里さんから、付き合ってないとも聞いて」
「お前、どんな面接、受けてきたの?」
なぜ、自分と隆臣の交際の有無を、面接時に話さなくてはならないのか!?
その状況は、皆目見当もつかなかったが、とりあえず、自分と隆臣に関する、よくない噂が広まりつつあるのは、よくわかった。
「その、とある方って、誰?」
「え?」
「俺と隆ちゃんが付き合っるって、誰が言ったの?」
「え……と」
瞬間、ピリッと引き締まった空気に、あかりは冷や汗をかいた。
もしこれで、ミサさんから聞いたと言ったら、どうなってしまうだろう。
もしかしたら、また関係が悪くなってしまうかもしれない。今日やっと、歩み寄り始めたばかりだというのに……!
「そ……それは、ちょっと、言えません」
「言えない? なんで? 大学の人?」
「だ、大学の人では」
「じゃぁ、なんで話せないの? 別に、相手を責めたりしないよ。ただ、元凶は突き止めておかないと、変な噂が広まって、あとでややこしことになっても困るし」
「そ、そうですけど……っ」
だが、それでもあかりは話そうとはせず、しばらく黙り込んだあと、飛鳥は、無音のため息をついた。
どうして、好きな女の子に、男と付き合ってると思われなくてはならないのか?
あかりに、そんな話を吹き込んだ相手を、軽く恨みたくなった。
だが、ずっと誤解されたままでいるよりは、いいだろう。今、あかりが聞いてくれたのは、不幸中の幸いだ。
「ちゃんと話して……俺はともかく、隆ちゃんに悪いから」
「そ、そうですよね、橘さんに……あ」
だが、その瞬間、あかりは、あることを思い出した。あのお花見の日、ミサは、言っていたのだ!
『私も、隆臣君に聞いて、驚いてしまって……』
──と!
「あ、そうでした! その方、橘さんから聞いたって言ってました!」
「は?」
「ですから、橘さんから聞いたみたいなんです! もしかしたら、橘さんは、神木さんと付き合ってるつもりなのかもしれません!」
「…………」
──何いってんだ、こいつは。
流石にありえない話に、飛鳥もツッコミたくなった。
「あのな。隆ちゃんが、そんなこと言うわけないだろ!」
「でも、確かに、橘さんに聞いたって言ってたんです! それに、神木さんに、その気がなくても、橘さんは神木さんのことが好きなのかもしれないじゃないですか!」
「え?」
「だって、お二人、いつも一緒にいますし、親友通り越して、恋人って言われても違和感ないくらいですし。なにより、神木さんは、橘さんの気持ちを、しっかり確認したことあるんですか!?」
「か、確認って……っ」
隆ちゃんの気持ちを?
俺を、好きかどうか?
しかも、恋愛対象として?
「そんなの、確認しようと思ったこと、一度もないよ!」
「だったら、真実は分からないじゃないですか! 本当は好きで、でも友達でいるために、隠しているのかもしれないし……!」
「隠してるって……でも、俺たちは男同士で」
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そんな、温かくて優しい人で──
だから……っ
「だから、橘さんの気持ちを、確認すらせず、ありえないなんて決めつけないであげてください!!」
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