神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第17章 華の憂鬱

第230話 雨とシャワー

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 ザ───…

 その頃、突然降り出した雨に晒されながら、あかりは、急ぎ足でアパートへ向かっていた。

 大学の講義が終わり、その帰宅途中。

 本降りになった雨は、あかりの服を容赦なく濡らし、家につく頃には、髪も体もずぶ濡れになっていた。

「はぁ……傘もって行けばよかった」

 アパートにつくと、あかりは深くため息をついた。

 梅雨の時期は、いつも折りたたみ傘を持ち歩いているが、9月になり気を抜いていたからか、今日は傘を持っていなかった。

(びしょ濡れ……)

 濡れた身体のまま、とぼとぼとアパートの階段を上がると、あかりは鍵を取りだし、玄関の鍵を開けた。

 部屋の中に入れば、家の中は、いつもと変わらず、シンと静まり返っていた。

「ただいまー」

 あかりは、誰に言うでもなく、帰宅の挨拶をし、その後、ワンルームの中に入る。すると、荷物を置き、そのまま脱衣所に向かった。

 バスタオルを手に取り、濡れた髪を拭きとると、シャワーを浴びようと、一度リビングに戻る。

 すると、外には激しい雨がザーザーと降り続いていて、その音を聞き、あかりは、ふと飛鳥が初めて、この家に来た時のことを思い出した。

(そういえば……あの時も、こんな感じの雨が降ってきたっけ)

 数ヶ月前──

 初めてエレナの母であるミサを見かけた日、今にも倒れそうな彼を抱えて、家まで連れてきたことがった。

 急に呼吸が乱れて、どうしていいか分からず、ただ背中をさすることしか出来なかった、あの時、今日のような雨が、突然降り出してきて、あかりは、慌ててアパートの中に入った。

 パラパラと降り出した雨は、家に入るなり本降りになり、打ち付けるような激しい音を聞きながら、ベッドに横たわる彼を必死に介抱した。

 あの時は、まさかここまで、深く関わることになるなんて思わず、きっと、介抱して目が覚めたら、また他人に戻るのだろう、そう思っていた。

 でも……


……だったんだ」

 あの三人が親子だということを、改めて認識し、あかりは眉をひそめた。

 先日の話を聞いて、全て"筋"が通った気がした。

 彼が、ミサさんにあれだけ怯えていたのも

 エレナちゃんのことを、誰よりも理解出来たのも……


「でも、さすがにあの言葉は……堪えたかな」

 飛鳥の対応には、納得することばかりだ。
 だが、先日言われたあの言葉は、さすがにこたえた。

『この件には、もう二度と関わるな』

 自分を巻き込まないために言ってくれた言葉。
 それは、よく分かっていた。

 だけど、できるなら、エレナのことは、自分がなんとかしてあげたかった。

「くしゅ……」

 瞬間、小さくくしゃみをして、あかりは、そっと自分の身体を抱きしめた。

 濡れた身体のまま考え事をしていたせいか、どうやら冷えてしまったらしい。

(シャワー、浴びなきゃ……っ)

 肩を震わせつつ、気持ちを切り替えると、あかりは、ウォークインクローゼットから着替えを取り出し、再び脱衣所に向かった。

 一人暮らしのあかりだ。

 風邪をひくと、なにかと面倒だと、髪を拭いていたバスタオルを籠にかけ、服のボタンにそっと手をかけた。

 濡れた身体に張り付いた服を全て脱ぎすて、それを洗濯機の中に放り込む。

 その後、風呂場へと入りシャワーを手に取ると、温かいお湯は身体を伝い流れ、それは、同時に冷たい床も温めていった。

 だが──

「っ……」

 瞬間、あかりはシャワーをとめると、顔を青くし、その場にへたり込んだ。

 唐突に、蘇ってきたのは──

『あのさ、あかり。少し、話したいことがあるんだけど……今から、うちに来ない?』

 そう言った、の言葉。

 そしてそれは、何度と忘れようとして忘れられなかった『後悔』の記憶だった──

「ッ…………ゃだ…っ、」

 手を震わせ、まるで凍えるような吐息を漏らすと、あかりは、ぎゅっと自身の身体を抱きしめた。

「……なん、で……もう……っ」


 もう、慣れたはずだった。


 ──外に降る強い雨の音も

 ──生ぬるいシャワーの音も


 全部、克服したはずだった。


 それなのに……っ


「ッ………、」


   ザ───

 外には、強い音をたてながら、雨が容赦なく降り続いていた。

 あかりは、ぎゅっと目を閉じると、まるで、その音から逃げるように、ただひたすら耳を塞いでいた。


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