神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
210 / 507
第14章 家族の思い出

第194話 信者と一目惚れ

しおりを挟む

「は? お前、またナンパされたの?」

 瞬間、低くなった兄の声を聞いて、華の顔は真っ青になった。

(し、しまった……!?)

 怒られると思い、兄には内緒にしていたのが、それが逆に仇となってしまったらしい。

「華、前にも言ったよな、気をつけろって……大体、華は、昔からボケっとしすぎなんだよ。俺と蓮がいない時は、背筋伸ばして隙を見せない!」

「は、はい!」

 ニッコリと黒い笑顔をうかべ、説教をはじめた兄をみて、華はビシッと背筋を伸ばしながら返事をする。

 ヤバイ!
 これは、かなりお怒りだ!

「それと、蓮は何してたの?」

「へ?」

「華が、ナンパされてる時、蓮はなにしてたの?」

「……っ」

 そして、いきなり、ばっちりを食らう蓮もまた、顔面を蒼白させ

「お……お化け屋敷に……入ってました」

「…………」

 そして、その言葉を聞いて、飛鳥は全てを察した。

 つまり、蓮が榊くんとお化け屋敷に入っている間に華はナンパをされ、そこを武市くんが、助けてくれたということだろう。

「はぁ……」

 すると飛鳥は、その後深く深くため息をつくと

「ごめんね、武市くん。うちの子達が迷惑かけて」

「え!? まさかこの子たち、神木くんのご兄妹なんですか!」

「うん、俺の妹と弟」

「あぁぁぁぁあああ!! てことは、俺は知らず知らずのうちに、神木くんのお役に立てていたと!? 神木くんが、なにより大事にしているご家族のピンチに駆けつけ、あまつさえ救出し、今、神木くん直々に感謝されていると!! あー、すげー嬉しい!! 神木くん、俺、泣いていいですか!?」

「いや、たこ焼き焼いてるんでしょ? 泣くのはやめた方がいいよ」

 飲食物を扱っている最中に、泣くのはどうだろうか。万が一、涙がたこ焼きに入ったら売り物にならない。

「ていうか、神木くん! 今日のその姿は何ですか!?」

「え?」

 すると、心配する飛鳥をよそに、大河は更に詰め寄ってきた。その姿とは、つまり浴衣のことだ。

「ホント神木くんは、何を着ても似合いますね! 浴衣なんて反則ですよ!! ああぁぁぁ俺今日、たこ焼き焼いててよかったぁぁぁ~~。綺麗すぎて目眩が! 尊い! マジ尊死!! てか、神木くん絶対モデルむいてますよ!! むしろなってくれたら、俺、雑誌買いますから! 保存用と布教用も含めて最低3冊、いや10冊は買いますから!? てか、写真撮ってもいいですか!?」

「とりあえず、黙って」

 双子の前で、地雷を踏むだけではなく、とんでもないことまで口走る大河に、飛鳥が突っ込めば、傍らにいる双子は、あまりの信者っぷりに絶句する。

((あれ?なんか、思ってた人と違う?))

「この人、マジで兄貴の友達なの?」

「ちょっと意外というか?」

「俺のじゃないよ。隆ちゃんの友達だから」

 そして、こんな友人がいるなんて思われたくなかったのか、飛鳥は、全責任を隆臣になすりつけた。

 だが、双子たちは覚えていた!

 先日、兄が、最近知り合った友達が、遊園地でバイトしてると、いっていたことを!

 つまり、兄の毒牙にハマり、遊園地のチケットを貢がされた友人とは、確実に、このお兄さんだ!!

「あなただったですね!? うちの兄に、遊園地のチケット貢がされたのは! あの、うちの兄が、ご迷惑お掛けして申し訳ありません!!」

「うちの兄貴、自分の笑顔の殺傷力を全くわかってなくて、いつもこうして手玉にとっては貢がせるんです! もう、人たらしこむのが詐欺師並みに上手いんです! だから、騙されないでください。兄は、見た目は天使でも、中身悪魔ですから!」

(なんか、とんでもないこといわれてる……)

 猛烈に頭を下げながら、双子が、兄の厄介さについて力説すると、その話を聞いて、飛鳥はなんとも言えない表情をうかべた。

 だが、肝心の大河は

「そんな、俺は騙されてませんよ!! むしろ、神木くんに一目惚れしたあの日から、俺の心は、神木くん一色になってしまって! だから、たとえ貢がされようが、暴言吐かれようが、足蹴にされようが、むしろ本望!!」

「えぇ!!? なんか、もう洗脳されてる!?」

「ていうか、一目惚れ!? もしや、あっちの方ですか!?」

「いや、違うから! 武市くんは、高校の時の女装姿を見て、一目惚れしただけだから!」

 これ以上、変な誤解を抱かれたらマズイ!と、飛鳥がすぐさま突っ込む。だが、女装と聞いて、双子も納得したらしい。

「あ! 女装って、もしや高校の時の!」

「ミニスカの女子高生姿で舞台にたって、みんなに写真撮られまくってたアレか」

「そうそう、それだよ! 女子高生姿の神木くんは、マジ神だった!!」

「……ねぇ、その話もうやめない?」

 女装姿で盛り上がる三人を見つめながら、飛鳥は口元をひきつらせた。

 飛鳥に言わせれば、もはや黒歴史だった。抹消したい過去なのに、残念ながら写真取られまくってたのも事実!

「ふふ、でも、あれは一目惚れしても仕方ないですよね~飛鳥兄ぃ、どこからどう見ても女の子だったし!」

「確かに。むしろ、男と言われても、嘘つくなよって言われるレベルだったよな」

「だよね~、俺も男だって知った時は、すごく驚いたんだけど、神木くんに出会えたことは、俺にとって最高の出会いで」

 だが、その後も、飛鳥の話で、3人は盛り上がる。そして、その話は、再びチケットの話へ。

「ていうか、飛鳥兄ぃ! こんないい人にチケット貢がせるなんて、最低!」

「俺は、別に貢がせたわけじゃないよ。それに、ちゃんと後でお礼はするつもりだし」

「ホントに~? 貰いっぱなしにする気なんじゃないの?」

「そんな不義理なことしないよ」

「じゃぁ、兄にしてほしいことがあったら教えてください。俺たちが、絶対言うこと聞かせますから」

 すると、蓮が大河にそう提案したかと思えば、大河がその後、フルフルと震え出した。

「そ、そんな……神木くんにして欲しいこと……そんなの…ありすぎて、今すぐ、どれかなんて……決められ」

「待って、怖い。なんか、すっごく怖い!?」

 何を想像しているのか?
 今にも、とんでもない無理難題が飛び出しそうで、飛鳥は悲鳴をあげる。

「あのさ、お礼ってほら、食事奢るとかそんな感じの……」

「兄貴、往生際が悪いよ」

「そうだよ! ここはしっかり聞いてあげるべきだと思う!」

「お前ら、後で覚えてろよ」

「あ!」

 すると、大河がポンと手を叩いた。
 何を閃いたのか、大河は再び飛鳥を見つめると

「神木くん、俺のために、また女装してください!!」

「は?」

 思わず、間の抜けた声が出た。
 こいつ、今なんていった?

「だから、女装してください! あの時一目惚れした時の感動を、また味わいたいというか……あ、別に女子高生じゃなくてもいいですよ! あの頃は、ただ可愛い~って感じでしたけど、今度は、数年たって、大人の色気を兼ね備えた女装姿を是非!!」

「…………」

 その言葉に、飛鳥は絶句する。

 ダメだ。
 やっぱりコイツは、頭のネジ1本外れてる!

「あ、あのさ……あれは高校生だったから、似合ってただけで、あれから背も伸びたし、骨格だって男っぽくなったし、今の俺が女装なんてしてもキモいだけだよ」

「兄貴……」

 すると、華と蓮が、飛鳥の両肩をポンと叩いた。だが、その顔は、女装を提案されるとは思っていなかったのだろう。今にも吹き出しそうなくらい、笑いを堪えていた。

「くっ……大丈夫だよ、兄貴なら、まだ……いけるって、多分」

「そうそう、いけるいける……きっと、みんな可愛いって言ってくれるよ」

「お前ら……っ」

 とんでもない無理難題に、肩を震わせながら笑う双子を見て、飛鳥はなんとも言えない気持ちになったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

あやかし第三治療院はじめました。 

にのまえ
キャラ文芸
狼環(オオカミ タマキ)はあやかしの病魔を絵でみつける、病魔絵師を目指す高校生。 故郷を出て隣県で、相方の見習い、あやかし治療師で、同じ歳の大神シンヤと共に あやかし第三治療院はじめました!! 少しクセのある、あやかしを治療します。

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

処理中です...