神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第14章 家族の思い出

第192話 浴衣と祭囃子

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 夏祭り当日──

 夕方4時を過ぎ、神木家の三兄妹弟は、橘家の自宅に訪れていた。

 飛鳥たちが暮らすマンションから10分ほどの距離にある、ごく普通の一軒家。隆臣は、桜聖市に引っ越してきた小学五年生のときから、ずっとこの家で暮らしていた。

「見てみて~」

 飛鳥と蓮がダイニングで待っていると、浴衣な着た華が、無邪気な姿で顔を出した。

 白地に赤い牡丹があしらわれた爽やかな浴衣を着た華は、何とも愛らしく、テーブルについていた飛鳥と蓮は、たちどころに目を凝らし、その後、素直に褒める。

「へー、よく似合うってるね」
「うん。馬子にも衣装って感じ」
「えへへ、ちょっと照れる」

 神木兄妹弟が、隆臣の家に訪れたのは、華の浴衣を、隆臣の母である美里に着付けてもらうためだった。

 先日、またまた華が喫茶店によった際、美里に夏祭りの話をしたら、当日、着付けてあげると美里が申し出てくれたからだ。

 ちなみに隆臣は、現在、美里の変わりに喫茶店でバイト中。

「美里さん、今日はありがとう!」

「いいのよ、華ちゃん。うちは息子しかいないし、なんだか娘が出来たみたいで楽しかったわ」

 華が、お礼をいうと、美里は嬉しそうに頬をゆるめた。

 橘家には、息子一人しかいない。だからか、こうして女の子の浴衣を着付けたり、髪を結ってあげるのが、なんとも新鮮だった。

「あ! なんなら、本当に私の娘になってもいいのよ! どう、華ちゃん。うちの隆臣とか?」

「え?」

「美里さん、そう言う冗談、やめて」

 美里が満面の笑みで、隆臣との縁談をすすめれば、それを聞いていたお兄ちゃんは、これまたニッコリ笑って反論する。

 飛鳥からしたら、なんとも笑えない冗談だ。

「それはそうと、飛鳥くんと蓮くんは、浴衣着ないの?」

 すると、私服姿で来た二人を見て、美里が更に問いかけた。

「せっかくの夏祭りよ。浴衣でいった方が風情があるのに」

「いいよ、俺たちは」

「そんな事言わないで。浴衣きて夏祭り楽しめるのも今だけなのよ。結婚して子供でも生まれたら、なかなか着れなくなちゃうんだから! それに浴衣なら、うちに隆臣のが二着あるから、せっかくだし、着付けちゃいましょうー!」

「そうだよ! 三人で浴衣着ていくのなんて、小学生ぶりだし! せっかくならお願いしようよ~」

 すると、それを聞いて華が満面の笑みで賛同する。

「いや、でも……っ」

「飛鳥くんは、着付けはできるのよね? なら、帯の締め方が分からなかったら、帯だけは私が締めてあげるからね。 はい、隣の部屋で着替えてらっしゃい!」

「え!?」

 すると、あれよあれよと隣の客間に押し込まれ、扉をバタンと閉められた。

 飛鳥と蓮が顔を見合わせれば、その客間には、もう既に男性物の浴衣が二着、帯と合わせて置いてある。それをみて、二人は

「華のやつ、謀ったな」

「俺達が、美里さんには逆らえないと見越してだろうね」

 どうやら、華は美里と結託して、飛鳥と蓮に浴衣を着せるよう企てていたらしい。

 なんと、したたかな妹(姉)だろうか。結局その後、飛鳥と蓮は、仕方なく浴衣に着替えたのだった。





 ***


「早く行こー」

 買い物帰り、あかりがいつもの道を歩いていると、浴衣姿の女の子たちとすれ違った。

 夕方5時を前にし、あかりの自宅前にある公園では法被を着て、神輿を担ぐ子供たちの姿があった。

 今から近所を回りながら、神社まで向かうのだろう。陽気な祭囃子に誘われて、浴衣姿のカップルや、家族連れなどが、ぞろぞろと子供たちが先導する神輿の後に続いていく。その賑やかな姿は、なかなか趣のある光景だった。

(お祭り、今日だったのね。すっかり忘れてた)

 だが、当然の如く、あかりは、祭りに行くつもりはなく。

 なぜなら、あかりは一人暮らし。だからこそ、あまり一人で、夜に出歩くわけにはいかない。
 なにより、一緒に行く相手すらいないあかりは、今日も普段通りの一日を過ごす予定である。

(そうだ。ベランダからなら、花火は見れるかな?)

 そんなことを考えながら、あかりはアパートの階段を登ると、その先で、お隣さんの大野と出くわした。

「あ、あかりちゃん、こんばんは!」
「大野さん。こんばんは」

 すれ違いざまにお辞儀をして、あかりは部屋に向かう。だがその時、大野が、また話しかけてきた。

「あかりちゃんは、夏祭り行くの?」
「え?」

 その問いに、あかりは一旦足を止めると

「いいえ。行きたいのは山々なんですが、行く相手もいないので、今夜は家でのんびり過ごそうかと……大野さんは、いかれるんですか?」

「あ、うん。俺は男友達と」

「そうなんですね。楽しんできてくださいね」

「ぅ、うん」

「それじゃぁ、私はこれで」

 その後、あかりはニッコリ笑って改めてお辞儀をすると、すぐさま自分の家の中に入っていった。

 だが、今のあかり発言をきいて、大野は

「行く相手がいないって……神木くんは?」

 そう、大野は今、飛鳥とあかりが付き合っていると思い込んでいた。
 だからか、彼氏がいるあかりが夏祭りに自宅で一人で過ごすと聞いて、眉を顰める。

(あいつ、夏祭りに彼女ほっぽって、なにやってんだよ!)

 夏祭りに行きたいらしいあかりを、一人残している飛鳥に、大野は一人憤怒する。

 さてはて、この夏祭り、果たしてどうなるのやら?
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