神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
199 / 507
第13章 双子と遊園地

第183話 苛立ちと順番待ち

しおりを挟む

「結構、並んでるね~」

 その後、お化け屋敷についた四人は、さっきのドタバタなど、まるで嘘のように、いつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。

「ねー、私と葉月が先に入るから、蓮と榊君はあとから来てね!」

 すると、丸っと気を取り直した華が、蓮と航太にはなしかければ、さすがに哀れに思ったのか、葉月が助け船をだしてきた。

「ねぇ、華。四人で一緒に入るってのはダメなの?」

「え? 四人で?」

「だってさ。何も二組に分かれなくても、四人で一緒に入るという選択肢も」

「それは、嫌!!」

「え!?」

 だが、華は、その提案を真っ向から拒絶して

「嫌って、なんで!?」

「だってー、蓮が悲鳴あげたら、私まで怖くなっちゃうもん。だから、蓮とは入りたくない!」

「お前、悲鳴なんてあげるかよ!? てか、意気込んでたくせに、めちゃくちゃ人任せだな!!」

 はっきり拒否る華に、叫ぶ蓮。

 そして、その人任せの人選に選ばれてしまった航太くんは、ただ傍観していた。とはいえ、元から蓮と、二人で入るつもりで来ているので、なんてこともないのだが……だが、人任せなどと言われ、華は少し申し訳なく思ったらしい

「あの、榊くん、ごめんね。もしかして、嫌だった?」

「いや、大丈夫。別に嫌じゃねーよ。なんなら、蓮がおびえてる所、動画に撮っとこうか?」

「なにそれ、おもしろそう!!」

「おもしろくねーよ!」

「次の方、どうぞ~」

 すると、どうやら順番が回ってきたらしい。

 店員に案内され、華と葉月が手を振りながら、お化け屋敷の中に入っていくと、外で二人っきりになった蓮と航太は、一瞬静まりかえったあと

「で? お前は、なに怒ってんだよ」

「別に、怒ってないよ」

「いや、怒ってんだろ! めちゃくちゃ機嫌悪りーじゃん!」

 さっき、華が航太に抱きついてから、心なしか機嫌が悪くなった蓮。それを見て、航太がバツが悪そうな顔で問いかけた。

 いくら間違えられたとは言え、蓮は航太の気持ちを知っていた。しかも、あまり良くは思われてないのなら、仕方ないことかもしれない。

「ゴメン、悪かったって」

「別に、あれは華が悪いんだから、榊のせいじゃないよ」

 だが、実際に腹が立っているのは確かだった。

 あの時、華が航太の腕を組んだ瞬間。心の奥底で、微かにだが、黒い感情を抱いてしまった。

 まだ、どこかで『今』にしがみついてる。

 変わりたくないと、変わらないでいてほしいと、そんなことを、願ってる自分がいる。

(最低だな……俺)

 ほんの一瞬の事なのに、いつか華も、俺や兄ではなく、ほかの男と腕を組んで、歩き出す日が来るのかと思うと、無性に寂しくなった。

 いつかそんな日がくるって、わかってたはずなのに、望んでいたことのはずなのに

 それが、リアルに近づくと、とたんに怖くなる。

 もし、俺たち、兄妹弟の中の「誰か」が「家族以上に大切に思う人」を作ってしまったら、俺たちの関係は、どうなってしまうのだろう。

 誰かを好きになって、その人と結婚して、新しい家族を作る。

 そんな当たり前のことを、当たり前の「家族の未来の幸せ」を「嫌だ」と思ってしまった自分に──腹がたつ。

 いつか変わってしまう関係性。
 変わらなくてはならない、家族の形。

 はっきりと変わるための「最初の一歩」を踏み出すのは、一体、誰なんだろう。

 華か、俺か、それとも

 兄貴か───?





「はーい。次の方どうぞ~」

 瞬間、お化け屋敷の店員が放ったその言葉に、蓮はハッとする。

 そうだった!
 今は、そんなこと考えてる場合ではなかった!!

「ほら、行くぞ蓮」

 すると、順番が回ってきたため、航太が蓮に声をかけた。しかし、蓮は──

「ちょっと待って! まだ準備ができてない(心の)!! とりあえず、もう一回最後尾に並び直そう!」

「いや、もう諦めろよ」

 案外、往生際の悪い蓮。果たして、蓮はホラー恐怖症を克服することが出来るのか!?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

あやかし民宿『うらおもて』 ~怪奇現象おもてなし~

木川のん気
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞応募中です。 ブックマーク・投票をよろしくお願いします! 【あらすじ】 大学生・みちるの周りでは頻繁に物がなくなる。 心配した彼氏・凛介によって紹介されたのは、凛介のバイト先である『うらおもて』という小さな民宿だった。気は進まないながらも相談に向かうと、店の女主人はみちるにこう言った。 「それは〝あやかし〟の仕業だよ」  怪奇現象を鎮めるためにおもてなしをしてもらったみちるは、その対価として店でアルバイトをすることになる。けれど店に訪れる客はごく稀に……というにはいささか多すぎる頻度で怪奇現象を引き起こすのだった――?

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

それいけ!クダンちゃん

月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。 ……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変? 自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、 そこかしこに不思議が転がっている。 幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。 ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。 そこはユートピアか、はたまたディストピアか。 どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。

処理中です...