194 / 507
第12章 二人の母親
第178話 遊園地と夏祭り
しおりを挟む「というわけで! 夏休み、遊園地に行こう~」
次の日──昼休みに入り、お弁当を食べていた華は、向かいに座る葉月に話かけていた。
内容は、もちろん、蓮のホラー克服大作戦!についてだ。
「へー弟君。怖いの苦手だったんだ。そんな風には見えなかったなー」
「昔からホラー系のものだけは、極端に弱くてね~。まー、私が飛鳥兄ぃを独占して、無理やり付き合わせてたのも、よくないんだけど」
兄が作った甘い卵焼きをパクリを口に含みながら、華は苦笑いを浮かべた。
夏前から、急に増え始める恐怖系番組。
本当にあったかもしれない怖い話や、心霊体験をもとにした映画やバラエティー番組など、怖いながら興味本位で見ていた。だが、そのたびに、華はよく兄を独占していた。
父は仕事をしていたり、家事をしていたりしていたため、双子の世話をするのはめっきり兄の役目。
だからか、華が兄を独占すると、蓮は嫌でも一緒に見ることになってしまい……
(半分は、私のせいかもなー。なんとか、克服させてあげないと)
兄の背に隠れ、おびえていた弟のことを思い出し、華は申し訳なく思う。
日頃、頼りになる弟の情けない部分。
珍しく姉らしいことを考えながら、華はお弁当を食べ終わると、最後に『ごちそうさま』と手を合わせた。
「私はいいよ。夏休み、華と、どっか行きたいと思ってたし! 三人で行くの?」
「うんん。榊君も誘って、四人でいこうかと思って!」
「……え、榊も?」
だが、その名前を聞いて、葉月が驚いた顔をする。
「なんで、榊?」
「なんでって、蓮と仲が良いし! 葉月が良ければだけど、この後、誘いに行こうかなって……蓮はノリ気じゃないから、絶対誘わないだろうし!」
「うん……まぁ、私は別にいいよ」
「そっか、ありがとう~! じゃぁ私、さっそく榊君、誘ってくるね!」
「……はいはい。いってらしゃい」
葉月がOKを出すと、華をにっこりと笑うと、その後、お弁当を片付け、教室からでていった。
葉月は、そんな華の後ろ姿を見送りると……
「榊も……ねぇ」
と、小ると小さく呟いたのだった。
第178話 遊園地と夏祭り
◇◇◇
桜聖第二小学校──
全ての授業が終わった4時過ぎ、教室内は、子供たちの声で満ち溢れていた。
明るく「バイバーィ」と手を振りながら、一人、また一人とクラスをあとにする児童達。
エレナは、そんな中、一人ランドセルを背負うと、教室から出て、靴箱へと向かった。
数人の生徒達とすれ違う中、廊下を進み、生徒玄関まで来ると、運動靴を取り出し、シューズをしまう。すると、その時──
「えー! 結城くん、紺野さんに告白したの!?」
「……!」
靴箱を挟んだ反対側の通路から、ヒソヒソと女の子の声が聞こえた。
「うん、男子が話してたよ。手紙渡して告白したけど、振られたんだって」
「うそ~! 結城くん、凄く人気あるのに! その結城くんをふっちゃうなんて、サイテー!」
「…………」
その話を聞いて、エレナは身を強ばらせた。
「結城くん」とは、隣のクラスの男の子で、エレナは昨日、その子に告白された。
昨夜、母に破かれた手紙。あれこそが、その結城くんからもらった手紙だったのだが……
「なんか感じ悪いよね。紺野さんて」
「モデルしてるからって、私たちのこと下に見てるんじゃない? 遊びに誘っても、いつも断るみたいだし!」
「あ、そう言えば、可愛い子って性格悪い子が多いって、お姉ちゃんが言ってた!」
「じゃあ、きっと性格悪いから、友達が出来ないんだね! 男子も馬鹿だよねー、可愛いってだけで簡単に騙されて、ぜんぜん性格見てないんだもん!」
「………」
聞こえてくる女子達の声に、エレナはただ立ち尽くし、悲しげに瞳を揺らす。
嫌われても仕方ないと、自分でも思っていた。
遊びに誘われても断ってばかり。事実、友達はいないし、日本人離れした容姿のせいもあり、自分が周りから浮いているのも、よくわかっていた。
だけど、直接聞くのは、やはり……辛い。
「エレナちゃん!」
「……!」
だが、その瞬間、突然声をかけられ、エレナは、びくりと肩を弾ませた。
咄嗟に身構え、恐る恐る目を向ける。すると、そこには同じクラスの芦田が、にっこりと笑ってたっていた。
「あ、芦田さん……っ」
エレナがこわごわと返事を返す。すると、どうやらその声に気づいたのか、先程の女の子達も「え? 紺野さんいたの?」とヒソヒソと話しを始め、その後、逃げるように立ち去っていった。
芦田は、エレナの悪口を言っていた女の子たちを、見つめながら……
「あんなの気にしなくていいよ。あの子達、結城くんのことが好きだから、エレナちゃんに嫉妬してるだけだよ。それに、可愛い子は、性格悪い~とか言ってるけど、あれじゃ自分たちが可愛くないって、いってるようなのだよね?」
「………」
明るく慰めてくれる芦田を見て、エレナは申し訳なさそうに目を細めた。
どんなに誘いを断っても、芦田だけは、変わらずに話しかけてきてくれる。
でも……
「私に……何か用?」
「あ、あのね、昨日の手紙のことなんだけど」
その言葉を聞いて、エレナは再び眉をひそめた。
結城くんの手紙と一緒に母に破かれた、もう一つの手紙。それは、芦田さんのものだったから……
「昼休みに返事はもらったけど、やっぱり、エレナちゃんと一緒に夏祭り行きたいなーって思って」
「………」
そう言って、恥ずかしそうに芦田は笑いかけた。
なんでも八月末、小学校の近くの神社で夏祭りがあるらしい。その手紙は、夏祭りに一緒にいかないかという誘いの手紙だった。
「あのね! 榊神社の夏祭りって、燈籠とか飾ってすごく綺麗なんだよ! 他にも、子供たちが神輿を担いで近所を回ったりとかもして! 少ないけど花火も上がるし、地元の夏祭りだから、あまり混雑しないし、モデルの仕事は忙しいと思うけど、一日くらい何とかならないかな? お母さんと一緒でもいいよ。神社についたら、待ち合わせして一緒に──」
「行かない」
身を乗り出し笑顔で話し始めた芦田を見つめ、エレナは、矢のように鋭い言葉を返した。
「何度誘われても返事は同じ。だから、もう誘わないで」
冷たく言葉を放つ。
もう、芦田たちと一緒に遊ぶつもりは無い。
なぜなら、そう、母と約束したから。
「ごめんね、芦田さん。私、もう行くね……っ」
「ぁ、エレナちゃん!」
エレナは、それだけ告げると、呼び止める芦田を背に、その場から走り去った。校舎の外に出ると、そのまま小走りで校門へと向かう。
家では、母がエレナの帰宅を待っていた。
もし、遅くなったりしたら──…
「エレナちゃん……!」
「っ……!?」
だが、校門をでてすぐ、聞き覚えのある声が響いて、エレナは足を止めた。
見れば、エレナの数メートル先。
そこには、いつものような笑顔ではなく、どこか悲しい目をして佇む
「お姉ちゃん……っ」
──あかりの姿が見えた。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
兄貴がイケメンすぎる件
みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。
しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。
しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。
「僕と付き合って!」
そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。
「俺とアイツ、どっちが好きなの?」
兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。
それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。
世奈が恋人として選ぶのは……どっち?
あやかし第三治療院はじめました。
にのまえ
キャラ文芸
狼環(オオカミ タマキ)はあやかしの病魔を絵でみつける、病魔絵師を目指す高校生。
故郷を出て隣県で、相方の見習い、あやかし治療師で、同じ歳の大神シンヤと共に
あやかし第三治療院はじめました!!
少しクセのある、あやかしを治療します。
砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】
佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。
ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。
それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが……
——って……アブダビって、どこ⁉︎
※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。
笛智荘の仲間たち
ジャン・幸田
キャラ文芸
田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる