神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第11章 兄と女の影

第171話 紅茶と疑惑

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「あー、やられた~」

 19時15分──時計の音がチクタクと響くリビングで、夕食の準備を終えた華と蓮は、兄の帰りを待つ間、二人でテレビゲームをしていた。

 二人バディを組んでのロールプレイングゲーム。残念なことに、後一歩の所でボスに敗れ、二人してHP0となってしまい、華は悔しそうな顔をして、ソファーにしなだれかかった。

「もー蓮、回復魔法使うの遅すぎ!」

「仕方ねーだろ。俺も攻撃交わすので精一杯だったんだから。しかし、このボス強すぎ」

「アイテム、取り忘れてたかな? 一旦、街戻るー?」

「そうだなー」

 一旦セーブして、また街に戻り、ボスを倒すためのアイテム探しに勤しむ。

 そんな中、ゲームの画面から視線をそらすことなく、蓮がボソリと華に問いかけた。

「それより、飯どうする?」

「うーん……飛鳥兄ぃ、今日は何時だと思う?」

「ゴム持参で行って、傘返してサヨナラなわけないだろ。あと一時間は帰って来ないと思う」

「っ……」

 その蓮の返答に、華は今朝の兄弟の会話を思い出し、顔を真っ赤にする。

「もう、変なこと言わないでよっ! 大体、なんなの! 朝のあの話!?」

「なんなのって、大事なことだろ。大学で内緒にしなきゃいけない関係なら、絶対まともな関係じゃないし……多分、先生か、人妻か、セフレかだ」

「きゃぁぁぁ、やめて! ほんと、やめて!! 私はやっぱり、まだ信じられない!! あの飛鳥兄ぃに限ってそんなこと、絶対あるわけない!!」

 次々と飛び出す禁断の相手に、華はゲームそっちのけで声を上げた。

「全くお前、そのブラコン早く直せよ」

「だから、ブラコンではないって! それに、今まで私たちに人の道踏み外すなって、厳しく躾て来たあの飛鳥兄ぃが、自ら踏み外してるわけないでしょ!?」

「そりゃ、そうだけど……実際に……っ」

 ガチャ──

「ただいまー」

 すると、突然玄関から解錠する音が響いた。

 聞きなれた声を聞いて、華と蓮はコントローラーを手にしたまま硬直する。

 無理もない。
 あと一時間は帰って来ないと思っていた兄。
 その兄が、なんと、もう帰宅したのだ!!

「え!?早っ!?」
「今、何時!?」

 女の家にいったなら、今頃、お楽しみ中だろうと、疑いまくっていた華と蓮。

 二人は、驚きのあまり手にしたコントローラーをその場に頬り投げると、同時に立ちがある。

「ただいま。遅くなって、ごめ……」

 ──ゴッ!!

 すると、飛鳥がリビングの扉を開けた瞬間、何かがぶつかるような音が響いた。

 飛鳥がキョトンと目を丸くし、華と蓮を見ると、頭を押さえながら悶えている二人の姿が目に入った。

「いっ~~、痛っ、いたぃ、バカ蓮」

「っ、お前こそ、いきなり立ち上がるなよ」

「なにしてんの?」

 同時に立ち上がったせいで、お互い頭突きしあい頭部を強打した華と蓮。

 こういった時、絶妙にタイミングがあい、今までにも何度か、頭突きし合ったことがある。

 ちなみに、当たるとめちゃくちゃ痛い。

「あーあ、痛そう。大丈夫?」

 すると、ソファーの前で痛がる双子に近寄り、飛鳥が呆れたように笑い声をかける。

「あ、飛鳥兄ぃ、早かったね!」

「なんで、早かったの!?」

「え? 早かった? 本当は、もう少し早く帰るつもりだったんだけど」

 あかりを引き止め、大野に引き止められ、予定よりも遅くなったため、早いと言われて飛鳥は首を傾げる。

 すると華と蓮は、自分たちを不思議そうに見下す兄をじっくりと観察し、女の痕跡がないかを確認する。

 衣服の乱れ──なし。
 女物の香水の匂い──なし。
 キスマークらしき跡──なし。

(ねぇ、蓮。本当に傘返してきただけなんじゃないの?)

(確かに、大学終わるの6時前で、今7時すぎだしな)

 それが、どのくらいの時間を要するのかは未知の世界だが、女の家にいき、それなりの事をシて帰ってくるには、流石に早い帰宅だと思った。

 華と蓮は、複雑な心境ながらも、再び兄に話しかける。

「傘、かえせたの?」

「え? あぁ、返せたよ。はい、これ、本のお礼だって!」

 すると、飛鳥はあかりから貰った、紅茶の缶をサッと華に差し出した。

「わ、可愛い~♪」

「紅茶だって。飲み終わったら缶、使っていいよ!」

「いいの~やったー」

 可愛らしいアンティークの缶を見て、華が顔を綻ばせる。このように可愛らしい缶は、小物入れにも最適だ。

「夕飯は?」

「あ、飛鳥兄ぃ、遅くなると思ったから、二人で作っといたよ!」

 飛鳥はソファーにバッグを置くと「へー」と相槌をうちながら、キッチンに移動し、今夜の夕食を覗き見る。

 そして、その姿を見ながら、蓮がまた華に小声で話しかけてきた。

(その紅茶、例の後輩からだろ? なに喜んでんだよ)

(でも、本のお礼って言ってたし、なかなか律儀な人だし……もしかしたら普通にお友達って可能性はない?)

(女の子の? じゃぁ、なんで大学で話しちゃいけないんだよ)

(そ、それは、わからないけど……っ)

 華と蓮は考え込む。
 だが、もちろん答えには辿り着かなかった。

(でも、確かに、友達の可能性も無くはないよな)

(でしょ?)

(ま。それでも、女の子の家に上がり込むのはどうかと思うけど、疑わしきは罰せずっていうし、とりあえず、決定的な証拠を掴むまでは、俺たちの胸にしまっとくぞ)

(決定的な証拠ってなに!? 掴みたくないんだけど!?)

 その後、華と蓮は、またキッチンの中に視線をむけると、二人が作ったシチューを味見している飛鳥をみつめ、ほっとしたように息をついた。

 疑わしいことは、まだ沢山あるが、とりあえず早く帰ってきてくれたことに、思いのほか安心していた。

 華は、兄を見つめたあと、手にした紅茶の缶に再び目を向けると

(一体、どんな人なんだろう。その、後輩って……)

少しの不安と疑惑を抱えたまま、華は夕食の準備を始めたのだった。






***

皆様、いつも閲覧ありがとうございます。

しばらくずっと、忙しくしていて、なかなかこちらの掲載が出来ずにおりました。

今日から、また更新を再開していきたいと思います。よかったら、また引き続き、お付き合い頂けたら嬉しいです。

宜しくお願いします。
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