神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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【過去編】情愛と幸福のノスタルジア

第147話 情愛と幸福のノスタルジア⑱

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 暫くして、唇が離れると、優しく微笑む侑斗と目が合って、ゆりは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「っ……近いっ」

「え? 今更?」

「だって……なんだか急に、恥ずかしくなってきちゃって」

 まるで、全身が火を噴くよう。ゆりは、先ほど重なった唇に指先だけでふれると、耳まで赤くし、その顔を俯かせた。

 キスひとつで、ここまで顔を赤くするなんて、こういうところは、まだまだ子供だなと、侑斗は微笑ましく思う。

 まぁ、また子供扱いなんてしたら、怒られそうだけど……。

「はは、そんなに恥ずかしがらなくても」

「っ……だって私、キス……初めて……なんだもの」

「!?」

 だが、その後予想外の言葉が返ってきて、侑斗はめをみはった。

「は、初めてって、いやいや、嘘だろ!?」

「嘘じゃないし!」

「いや、だって……」

 あんな、迫り方していて?
 だが、キスもしたことがないということは……

「もしかして、そっちの経験も無いのか?」

「……っ」

 多少、セクハラまがいなことを問いかければ、ゆりは再び顔を真っ赤にすると、その後、小さくコクッと頷いた。

「はぁ、マジか!? お前、経験もないのに、あんな誘い方してたの!? 今どきの女子高生どうなってんの!?」 

「そんなに驚かなくても良いでしょ!! そこそこ経験豊富な友達は多くて、それなりに知識はあるんだけど、ただ、その……じ、実践となると……さすがに」

(っ、だからあの時、怖がって──)

 前に抱きしめてしまった時、ほんの少し震えていたのを思いだして、侑斗は納得してしまった。

 だが、ゆりは義父に酷いことされかけて、毎晩怯えて暮らしてきた。

 だからこそ──

「そうか……だから、今まで大事に守ってきたんだな」

 そういって、またゆりを抱きしめ、侑斗が優しく頭を撫でると、ゆりの瞳からは、大粒の涙が溢れだした。

 怖かった。辛かった。苦しかった。

 だけど、やっと解放された。

 そして、こうして自身の初めてを、愛する人に捧げられることが、なによりも嬉しくて──

「ぅん、よかった……ッ」

 小さく小さく声を震わせるゆりの瞳からは、涙がとめどなく流れていく。

 それは、まるで、張りつめていたものが、すべて洗い流されていくようにも感じた。

(しかし、まさか、初めてとはな……)

 だが、それから暫くゆりをなだめていると、侑斗はゆりを抱きしめながら、また別の思考に陥っていた。

 キス一つしたことがない12歳も年下の女の子。

 これは、全く男を知らない純な女の子を、30のバツイチ男が毒牙にかけたみたいな……そんな感じになるのだろうか?

 あれ、なんか犯罪ぽい? 今更だけど。

 だが、はっきりいって、ゆりはかなり可愛いし、彼氏がいたことくらいあるだろう思ってた。

 それなのに、まさかキスすら、したことがないなんて…

(……本当に、いいんだろうか?)

 こんなバツイチ男が相手で───


「侑斗さん」

「?」

すると、ゆりがまた花のような可愛らしい笑顔を浮かべて、侑斗をみあげた。

「私ね……今とっても幸せ!」

 そういって、本当に幸せそうな笑みを浮かべゆりをみて、侑斗は──

「ふ……あははっ」

 その瞬間、ゆりの肩に顔をうずめながら、まるで、腹を抱える勢いで笑い出した。

「え? なに、どうしたの?」

「あはは、いや、俺もう飛鳥の言った通りクズでいいや! 年の差とか、世間体とか気にしない!」

「???」

 クスクスと笑いをこらえる侑斗をみて、ゆりが困惑する。

 だが、そんな可愛らしいゆりの姿を見て、侑斗はまた小さく微笑むと、そのまま、ゆりの首筋に口づけた。

「ん、ちょっと……っ」

 シャンプーの甘い香りが鼻孔をくすぐる。気を抜けば、このまま食らいつきそうになりそうだった。でも──

「なに、ビビってんの?」

「だ、だって」

「今日は何もしないよ」

 そう言って、侑斗はまた首筋に口付けた。

 ちゅっ……とリップ音を響かせて、まるで遊ぶように肌の上を移動する。

 すると、ゆりは、侑斗に身体を預けたまま、暫く考え込むと

「……本当に、なにもしないの?」

「え?」

「いいよ、私なら」

 その言葉に、さすがの侑斗も耳を疑った。

「ッ……お前、いきなりなに言って……だいたい俺が今、どれだけ我慢してると……!」

「だから、我慢しなくていいっていってるの!」

「いいわけないだろ!」

「いいの! さっきの言葉、侑斗さんと家族になってもいいってことだよね。なら、私──侑斗さんの子供がほしい!」

「……っ」

 しがみついて、ハッキリとそう言われて、心臓がドクンと波打った。

 ゆりの表情は真剣で、その言葉が冗談でないことが、強く伝わってくる。

「子供って……そんなに、欲しいのか?」

「うん。だって……妹弟がいたら、飛鳥も一人で寂しいなんて思ったりしないでしょ?」

「……え?」

 ──独りは、寂しい。

 それは、ずっと部屋の中に一人閉じ込められていた飛鳥が、逃げ出したあの日、ゆりに言った言葉らしい。

「私もね、兄弟欲しかったの。叶わなかったけど」

「そういえば、俺も、そう思ってたことがあったな」

 一人っ子が悪いわけではないけど

 親に恵まれなかったからか、妙に憧れたたことがあった。

 ただの「ないものねだり」だったのかもしれないけど──

「ねぇ、侑斗さん。私、この先ずっと、侑斗さんと飛鳥と、一緒にいてもいいんだよね?」

 するとゆりは、またいつものような、ふわりした優しい笑みを浮かべて、侑斗に問いかけた。

 侑斗は、その言葉を聞いて、再びゆりの頬に触れると

「あぁ……俺ももう、ゆりのいない生活は、考えられない。ゆり、俺と──」

 ──結婚しよう。

 そう囁いて、互いにみつめ合えば、またどちらともなく口付けあった。

 親には恵まれなかった。
 家族には恵まれなかった。

 でも、今度こそ

 愛し合って
 支えあって
 家族を増やして

 笑いの絶えない、幸せな家庭を築いていこう。



 君と、あなたと


 二人で───…






 パタタタタ……

「「!?」」

 だがその瞬間、部屋の外から小さな足音が駆け寄って来る音が聞こえた。

 パタパタと可愛いその音は、部屋の前で止まると、その瞬間、突然部屋のドアが開かれた。

「お父さん!! ゆりさん、知ら……」

 入ってきたのは、飛鳥。

 だが、その目には、父がゆりさんを抱きしめている姿が見えて、飛鳥は見慣れない光景に首を傾げる。

「二人とも、なにしてるの?」

「飛鳥!? い、いや! まだなにもしてな」

「──侑斗さん! いいから離れて!!」

 息子にとんでもない所を見られてしまい、ゆりが侑斗を慌てて引き剥がす!

 だが、ある意味セーフだ。
 よかった。ほんと、よかった!!

 その後、侑斗がゆりから離れると、今度は飛鳥が勢いよくゆりに抱きついてきた。

「ゆりさん、勝手に帰っちゃったのかと思った!!」

 瞳を潤ませ、見上げてくる飛鳥。きっと、ゆりがいないのに気づいて探しにきたのだろう。

「大丈夫。勝手にいなくなったりしないよ」

「本当? 絶対?」

 そう言って、またきゅっとしがみついてきた、飛鳥をみて、ゆりは、目を細めると

「ねぇ飛鳥……私、飛鳥のお母さんになってもいい?」

「え?」

「……飛鳥が許してくれるなら、私これから先、ずっと一緒にいられるよ」

 ずっと一緒──

 その言葉の意味を理解したのか、飛鳥はその後嬉しそうな笑みを浮かべると

「うん……ずっとずっと俺たちと一緒にいて……!」

 その言葉を聞いて、侑斗が飛鳥の頭を撫でると、ゆりもまた嬉しそうに笑った。


 そして、幸せそうな二人の笑顔をみて、侑斗は願う。

 どうかこの幸せが


 永遠に続きますようにと──




 ◇

 ◇

 ◇



「あ! そうだ! 私が飛鳥のお母さんになるってことは、飛鳥を私好みのイケメンに育て上げることが可能ってことだよね♪」

「なんだ、そのエセ光源氏計画。やめてくれ」

「?」

 だが、その後侑斗は、ゆりが飛鳥を育てたら、一体どう成長するのだろうか?と、ほんの少しだけ不安を感じたのだった。
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