神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
145 / 507
【過去編】情愛と幸福のノスタルジア

第133話 情愛と幸福のノスタルジア④

しおりを挟む
 2月下旬──

 その後、退院したゆりは、ひょんなことから、俺と飛鳥が暮らすマンションで居候することになった。

 8階建てのマンションの三階。

 この家は、ミサと別居状態になってから、借りた部屋だった。正直、俺が一人で住むつもりで借りた部屋。

 だからか、2DKと狭いこの部屋は、三人で暮らすには不便だったが、あのまま家出状態で退院させるわけにもいかず、飛鳥きっての頼みもあり、ゆりをしばらくの間、住まわせることにした。

「ゆりさん、ここだよー」

 退院日、病院に迎えに行き、マンションにつくと、飛鳥がゆりの手を引きながら、家の中へと招き入れた。

 俺は、ゆりの荷物を手にし、玄関から部屋の中に入ると、ゆりが中を見回しながら、俺に声をかけてきた。

「へー、結構、綺麗な部屋ー」

「まぁ、一応築浅の物件だったし……ただ、部屋は二部屋しかないから、奥の部屋、ゆりちゃんが使って。あとこれ、合鍵」

「え?」

「必要だろ?鍵」

「え……まぁ……」

「二本あるから、一本渡しとく。ただし、悪用するなよ」

「しないし!?」

 俺が、ゆりの前に鍵を差し出すと、ゆりは一瞬目を丸くしたが、その後、少し顔を赤くしながら鍵を受け取ると、それを見て、飛鳥が嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ねぇ、明日から、ゆりさんがお迎え来てくれるの?」

「うん♪ 学校終わったら、保育園迎えに行くから、待っててね」

「うん!」

 ゆりが一緒に住むとなって、飛鳥は当然のごとく、喜んでいた。

 俺は、そんな飛鳥の顔を見て、少し安心していた。

 あの後も、飛鳥は変わらず笑ってくれる。だけど、その笑顔は、どこか無理をしているようにも見えたから……

「お兄ーさん」
「?」

 すると、ゆりがまた俺に話しかけてきた。ゆりは、俺と目が合うなりニッコリ笑うと

「それでは、今日から飛鳥のお迎えと、料理とか洗濯とかの家事全般と、あと、、精一杯ご奉仕させていただきま~す♡」

「ブッ!?」

 いきなりは放たれたその言葉に、俺はひどく慌てふためく。夜のほう!?

「君、何言ってんの!? 子供の前で変な冗談いうのやめて! てか、俺ロリコンじゃないからね!? あと、君を預かるのは、暫くの間だだけ。高校卒業して、仕事と住むところが見つかったら、すぐに出て行ってもらうから。わかった?」

「あはは、勿論わかってるよ♪ 本当に、ありがとうね、お兄さん!」

 俺が注意すると、ゆりは、柔らかな笑みを浮かべて、またお礼の言葉を述べる。

 その姿は、年相応に女の子だったと思う。



 ◇◇◇

「ちょっと、お兄さん、なにこれ~!」

 その後、部屋をある程度片付け、ゆりの部屋に荷物を運んだあと、ゆりがキッチンにある冷蔵庫の中を見ながら声を上げた。

「冷蔵庫、何も入ってないよ!?」

「いや、はいってるよ。冷凍庫みて、冷凍食品ならたくさん」

「えーうそでしょ? こんな小さな子供がいるのに、まさか冷凍食品とか、カップラーメンばかりたべさせてたとかじゃないよね?」

 まるで、最低とでもいうかのような視線を向けられ、俺はバツの悪そうに、だがそれでも笑顔を向けつつ反論する。

「あのね、俺もここ最近、育児に保育園の送迎に、仕事しつつ家庭裁判所いったり、離婚関係の話で弁護士にあったり、君の所にいったりって、色々忙しかったの。料理まで手が回るか!?」

「お父さんのカップラーメンおいしかったよ!」

「ほらみろ、さすが俺の息子! 父の気持ちをよく理解してる!」

「……」

 満々の笑みを浮かべて、放った飛鳥の言葉を耳にし、ゆりはジトリと俺を睨みつけると、その後、飛鳥の前にしゃがみこみ、にっこり笑う。

「あのねー飛鳥。今はカッコよくて、スマートなパパかもしれないけどね、こんな食生活ずーとつづけてたら、いつかメタボになって、生活習慣病になって、ハゲて悲惨なことになるよ? 飛鳥は、そんなパパみたい?」

「うーん、太ったお父さんは嫌かも」

「……」

 もはや、二の句が継げないとはこのことだ。そして、この時の飛鳥は、父の意見より、なによりも、ゆりだった。

 正直嫉妬してしまうくらい、なつきまくっていたと思う。

「そうだ! ねぇ、お兄さん、せっかくだし、これから三人で買い物行こうよ♪」

「え? 今から?」

「そ! 私がいる間は、腕によりをかけて、おいしいもの食べさせてあげるね~」

 ゆりは、胸の前に拳をふたつ作ると、自信ありげにそういった。

「え? 君、料理できるの?」

「できるよー。家で自炊してたし、結構得意なんだー」

「自炊?」

「うん。昔、義父に睡眠薬、盛られそうになったことがあって。それからは、親が作った料理は一切口に入れず、自分で作ってたの!」

「睡眠薬ッ!?」

 俺は絶句した。

 この子、ドンだけ、自宅でサバイバルな生活してたんだ!?

 てか、睡眠薬とか、ガチで最低だろ、その父親!?

「あれ? お兄さん、どうしたの?」

「いや、おじさん。なんか泣きそう」

「え? なんで?」

 今まで、どれだれ辛い思いをしてきたのだろう。ゆりのことを考えると、酷く目頭が熱くなった。

「それより、どうする? 買い物いく?」

 だが、そんな辛い過去があるにも関わらず、ゆりは、不思議とよく笑っていた。

 俺は、そう言って可愛く微笑むゆりをみて、一瞬だけ考えると……

「そうだな。じゃぁ、みんなで散歩がてら、買出しに行くか?」

「やったー! 飛鳥は、何食べたい? 今日は飛鳥が食べたいもの作ってあげるよ♪」

「ホント!」

 三月が近づくにつれて、少しずつ寒さも和らぎ始めたこの日。

 俺と飛鳥、そしてゆりの同居生活は、人しれず、始まりを迎えた。

 のちに、この三人が「本当の家族」になるなんて

 この時はまだ



 想像もしていなかったけど──
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

あやかし第三治療院はじめました。 

にのまえ
キャラ文芸
狼環(オオカミ タマキ)はあやかしの病魔を絵でみつける、病魔絵師を目指す高校生。 故郷を出て隣県で、相方の見習い、あやかし治療師で、同じ歳の大神シンヤと共に あやかし第三治療院はじめました!! 少しクセのある、あやかしを治療します。

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

処理中です...