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第8章 遭遇
第106話 気遣いと約束
しおりを挟む「あー!! この子が神木くんがいってた
優しそうで可愛くて巨乳だっていう女の子!!」
「「え!!?」」
最悪なことに、大河のその言葉は、あかりにもしっかり聞こえる音量で放たれた。
飛鳥が、青ざめた表情で、あかりを見れば、あかりは、まるで軽蔑するかのように、ひどく顔をひきつらせていた。
「あ、いや、違う。俺そんなこと一言もいってないから……!」
「え!? 神木君が教えてくれたんじゃないですか!!」
「お前は、ちょっと黙ってろ!」
これ以上話をややこしくされたらたまらない。
飛鳥は、大河に一切視線を合わせることなく、低く声を発すると、再度あかりの誤解をとこうと、笑顔で語りかける。
「あの……ほんとに違うから、勘違いしないで」
「あーえっと……だ、大丈夫です……巨乳好きなら、女性の胸に自然と目がいくのは致し方ないことだと思いますし……」
「いや、ちょっとまって! なんかとんでもない勘違いしてるんだけど!?」
「き、気にしないでください! 男性が胸の大きい子が好きなのは一般的な話ですし。ただ、私のどこをみてそう思ったのかは分かりませんが……私、その……巨乳と言うほどではなくて……あの、すみません」
「いや、謝ってどーすんの!? てか、なんで俺が巨乳が好きみたいな話になってんの!?」
「あれ、なんか、ケンカ始まっちゃった?」
なんとか誤解を解こうとする飛鳥。そして、それを広い心で受け止めようとするあかり。更に、そんな二人をみて、首を傾げた大河。
そして、その光景を見て、隆臣はひどい脱力感に苛まれた。
無理もない。せっかくの隆臣の気遣いが、今一気に、水の泡と化したのだから……
「大河……お前、 崖から突き落とされるレベルで、空気読めてない」
「え!? なにそれ、死ねってこと!!?」
隆臣は、深くため息をつく。せっかく、仲直りできそうだったのに、再び"犬猿の仲"どころか、更に状況が悪化しそうな雰囲気。
これには、もうさすがの隆臣も、大河に苛立ちをぶつける他なかった。
こいつは、空気を読めないどころか、空気をぶち壊す素質もあるのか!!
マジで勘弁してほしい!!
「飛鳥! 俺と大河は先にいくから、あとは 二人でゆっくり話でもすれば?」
「は?」
すると、今度は隆臣が飛鳥に向けて声をかけ、飛鳥とあかりが同時に隆臣に視線をむけた。
いきなり、何を言い出すのか?
だが、それを問う前に、隆臣は大河を引きずり「じゃぁな」と言ってそそくさと退散してしまった。そして、喫茶店の前で、二人残されてしまった飛鳥とあかりは……
「あの……これは一体、どういう状況でしょうか?」
「俺の方が、聞きたいよ」
なぜ、この最悪の状況下で、あかりと二人きりにされなくてはならないのか?
(ゆっくり話すればとか……俺にどうしろと?)
去っていった隆臣の背を睨み付けながら、飛鳥は思考を巡らせる。
どういうつもりかはしらないが、隆臣はどうやらあかりと仲直りさせるために、大河を引っ張っていってくれたのだろう。
だが、正直、余計なお世話だ。
どちらかと、いえば、退散したいのは自分の方なのに……。
だが、どうやらあかりも、自分を怒らせてしまったことを気にしていたようで、またケンカになると同じことの繰り返しだなと考えると、飛鳥は思うと、とりあえずあかりに、普段通り話しかけることにした。
「今、買い物中?」
「え?……ぁ、はい。本屋に寄ってきました。この前の本もう入荷したかなと思って……」
飛鳥が話しかけると、あかりは少し戸惑いながら返事を返してきた。
「あー、どうだった? あった?」
「いえ、重版待ちで時間がかかるみたいで、残念ながら来月末にならないと届かないみたいです」
そういうと、あかりは困ったように笑う。それを見て飛鳥は
「そう……じゃぁ、借りる? その本」
「え?」
すると、ふと前にその本の結末を暴露してしまったことを思い出したのか、飛鳥が再度提案を投げかける。
すると、あかりも前のように断るのは悪いと思ったのか
「あ、はい。お借りしても……よろしいでしょうか?」
「……わかった。じゃ、今度持ってくから」
「……はい。ありがとうございます」
「…………」
「…………」
──き、気まずい。
なんだろうか。この、お互いに相手の出方を伺うような気まずさは……!
飛鳥は一方的に怒ってしまった後ろめたさ。あかりは、また逆鱗に触れてしまうのではないかという躊躇い。
どうやら、そんな思考が二人の間にかけめぐっているようで、なんとも重い空気がそこにはあった。
「え、と……大学で渡せばいい?」
「……あ、え? あの……」
だが、あかりはその言葉に一瞬顔をひきつらせると
「お、怒らないでくださいね? できれば、大学では渡さないてほしいかなと……あなたと一緒にいるところを他の女の子に見られるのは……ちょっと命が危うい」
「人を死神みたいに言わないでくれる?」
やはり、勘に障る女であることに違いはない。飛鳥は改めて思う。
だが、実際に自分が、他より人気があるのも理解しているし、特定の女子に本など貸したりすれば、噂くらいすぐ広まるだろう。
「わかった。じゃ あさって、お前、何時に終わるの?」
「あ、 あさっては、午前中で講義は、全部終わります」
「そう。俺もその日は4限目までで終わるから、 4時半にこの前の公園で待ってて」
「4時半ですね。わかりましま。わざわざ、ありがとうございます」
なんとか話がまとまった。
でも、改めて考えれば、もう関わりたくない相手と、なぜか、また会う約束を取り付けてしまったことに、飛鳥は疑問を抱く。
(ほんと、あかりといると調子狂う……)
そして、あかりを見つめながら、飛鳥そんな自身に呆れつつ、小さくため息をつくのだった。
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