107 / 507
第7章 お姉ちゃんと美少女
第98話 自己嫌悪と変化
しおりを挟むアレから一夜明け、日曜の朝。起床した飛鳥は、顔を洗い再び部屋に戻ると、昨日のことを思いだし深くため息をついた。
そう、飛鳥は昨日、あかりに少し大人げない行動をとってしまった。
(はぁ……女の子に痛いところつかれたからって、キレて逃げ帰るとか、俺何してんの?)
一晩たち、改めて考えると、子供みたいな行動をとってしまったことに、飛鳥はひどく自己嫌悪する。
無理もない。相手は2つしか違わないとはいえ、年下だ。しかも、女の子相手に勝手に感情的になり、更には冷たく突き放すようなことまでいってしまった。
「はぁ……」
起床から二度目のため息は、先程よりもさらに深かった。とはいえ、今さら悔やんでも、仕方ない。
(……とりあえず、着替えるか)
そろそろ朝食の時間だろうと、飛鳥は気持ちを切り替えると、部屋の中を移動し、クローゼットの中から取り出した着替えを、ベッドの上に放り投げた。
着ている黒のTシャツに手をかけ、それを脱ぐと、細身だが均整の取れた上半身が露になる。
(……でも、なんでかな……不思議とスッキリしてるかも)
着替えながら、どこか穏やかな自分の変化に気づく。気分は確かにブルーなのだが、一晩たち目が覚めると、意外と頭の中はスッキリしていた。
自分の気持ちに、少し整理がついたからか?
気付かないようにしていた気持ちを、あかりに言われて、向き合うことになったからか?
(……意外と認めてしまうと、スッキリするもんだな)
小さく笑みを漏らすと、それまで強ばっていた飛鳥の表情も、どこか緩やかな落ち着いたものへと変わっていく。
悔しいが、あかりに言われた言葉は、不覚にも良い薬になったのかもしれない。
(でも、怖いとか嫌だとか、子供か、俺は……)
だが、その自分の未熟さには、やはり自己嫌悪するしかなく、飛鳥は乾いた笑みを浮かべつつ、脱いだTシャツをベッドの上に放りなげると、再び、あかりのことを思い浮かべた。
(あかりと話すのは……ダメだな)
あかりの、あの雰囲気が苦手だ。
穏やかで、泣きたくなるような
────あの不思議な感覚。
きっと会えば、また昨日と同じように、弱音を吐いてしまうような気がした。
できるなら、それは避けたい。
────バタン!!
「飛鳥兄ぃ!! いつまで寝てんの!?」
「……!」
すると、その瞬間、突然部屋のドアが激しい音をたてて開かれた。
見れば、叩き起こしに来ました!と言わんばかりに、エプロン姿の華が飛鳥の部屋へと入ってきた。
「ご飯、冷め──て、なんで裸!? 早く、服着てよ!?」
「……いや、なんで俺が怒られるの?」
タイミング悪く着替え中だったため、上半身裸の兄をみて華が迷惑そうな顔を見せる。だが、飛鳥からしたら、なんでこちらが悪いのか釈然としない。
「ご飯、できたの?」
「あ、うん。早く食べないと冷めちゃうよ?」
「わかった。着替えたら、すぐ行く」
「……」
昨日、兄は夕食にはしっかりと顔を出してくれた。
だが、いってはなんだが"機嫌の悪い兄"はその頃まだ健在で、 珍しく一切会話のない、それはそれは重苦しい空気の中での夕食となった。
そして兄は、その後早々に寝てしまったのか、一切部屋から出てくることはなく、華はそんな兄を心配しつつも、いつも通り明るく声をかけに来たのだが……
(あれ? あんなに怒ってたのに、なんかすっきりした顔してる)
今朝の兄を見ると、昨日とは一変、穏やかな表情を浮かべていた。
それも、張り付けたような作り笑いではなく、心なしか憑き物が落ちたかのような清々しい表情。
「飛鳥兄ぃ……やっぱり昨日、なにかあった?」
華がキョトンとした顔をして、兄に問いかける。すると飛鳥は
「あー、別に……ちょっと女の子と喧嘩しただけだよ(一方的に)」
「えぇ!? 女の子とケンカぁ!?」
想像だにしていなかった返答に、華が目を皿のようにして驚く。
この兄が、女の子とケンカしたなんて、今まで一度も聞いたことがない!
基本、女の子には優しく、それていて当たり障りない対応を心がけている兄だ。
そんな兄が、まさか女の子とケンカ!!?
「もしかして……今、彼女いるの?」
「は?」
華がポカンとして問いかけると、飛鳥は、その言葉に、とたんに顔を顰める。
「何でそうなるの?」
「え、でも……喧嘩するほど、親密な仲ってことじゃないの?」
「親密って……アイツはそんなんじゃないよ。どっちかっていうと、天敵」
「天敵!?」
冗談じゃない──とでも言いたそうに、迷惑そうな顔を見せた飛鳥は、その後、華の背に手を添え、そっと部屋から押し出すような体勢をとった。
「……それより華、お前、男の部屋にいきなり入ってくるなよ」
「え? なんで?」
「何でって……そりゃ、色々あるだろ」
「色々……?」
「……」
兄の言う色々の意味が分からないのか、不思議そうに見上げてきた華をみて、飛鳥はまたニコリと笑う。
「いや、華に言った俺がバカだった。とりあえず、ノックぐらいしろよ」
そういうと、飛鳥は呆れつつ華を追い出すと、続けて部屋の扉をバタンと閉めた。
そして、部屋を追い出された華は、先程の兄の話を思いだし、首を傾げる。
(珍しいなー……飛鳥兄ぃが、女の人の話するなんて……)
普段なら、兄から女の子の話題は一切上がらない。
(天敵って、どんな人なんだろう?)
興味半分。複雑な心境半分。
華は、兄の部屋の前で一人立ち尽くしながら、なんとも言えない表情を浮かべたのだった。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
あやかし民宿『うらおもて』 ~怪奇現象おもてなし~
木川のん気
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞応募中です。
ブックマーク・投票をよろしくお願いします!
【あらすじ】
大学生・みちるの周りでは頻繁に物がなくなる。
心配した彼氏・凛介によって紹介されたのは、凛介のバイト先である『うらおもて』という小さな民宿だった。気は進まないながらも相談に向かうと、店の女主人はみちるにこう言った。
「それは〝あやかし〟の仕業だよ」
怪奇現象を鎮めるためにおもてなしをしてもらったみちるは、その対価として店でアルバイトをすることになる。けれど店に訪れる客はごく稀に……というにはいささか多すぎる頻度で怪奇現象を引き起こすのだった――?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる