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第6章 死と絶望の果て
第83話 死と絶望の果て 3
しおりを挟む「はい……では、明日……伺います」
子供たちが寝たあと、施設に連絡した。ガチャリとなった受話器をおろす音が、やけに耳に響いた。
呆然とする足取りで、子供たちが寝ている部屋に入ると、二つ並んだ布団の手前に、華と蓮が一緒に眠っていて、その奥の布団に、飛鳥が二人を見守るようにして眠っていた。
部屋を見渡せば、クレヨンや画用紙など、子供たちのオモチャが、いたるところに散乱していた。
テーブルの上を見れば、華と蓮が描いたのか、〇だか△だかわからないものが、いくつか描かれた紙が置いてあった。
ごちゃついた部屋は、今の俺の心を、そのまま映し出すかのようで、心の中が混沌とする。
片付けは一つ、ままならない。
いや、片付けだけじゃない。
「…………」
ただ無言のまま、子供たちの側に座り込むと、その寝顔をみて、ふと考えた。
久しぶりに、寝顔を見た気がした。
いつから、見ていなかっただろう。
声も、まともに聞いていないような気がする。
ご飯はどうしてた?
お風呂は?
ここ最近の記憶がない。
そういえば、何度も飛鳥が、やり方や作り方を聞きに来た気がする。
きっと、飛鳥が代わりにやってくれていた。
俺の代わりに───全部。
「ご……めん……っ」
子供たちの寝顔をみながら、自分の不甲斐なさを噛み締めた。
どうして、こうなったんだろう。
本来なら、ここにはアイツもいたはずだった。家族5人、笑顔ですごしているはずだった。
それなのに、なんで──
「なんで……死んだんだよ……っ」
部屋には、今でも妻の面影があった。
この部屋でよく、子供たちと一緒に洗濯物を取り込んでいた。
せっかく畳んだ洗濯物を、華と蓮にぐちゃぐちゃにされて、怒りながらも困ったように笑ってた。
妻が畳んだ洗濯物も、まだそこにある。
妻が描いた絵も、妻が着ていた服も、妻が使っていたマグカップも、だけど、妻だけがいない。
面影はあっても、もう帰ってこない。
なのに、その上、華と蓮も手放すなんて──
「ぃ、やだ……っ」
嫌だ。手放したくない──
でも、こんな俺に、飛鳥に全部任せて動けずにいる俺なんかに、この子たちと一緒にいる資格なんてあるのだろうか。
みんなの言う通り、他の誰かと「家族」になったほうが、幸せになれるんじゃないだろうか。
「ッ……はな……れん……っ」
涙が溢れた。
小さな手を握りしめて、絞り出すように言葉を紡いだ。
明日の夜には、もうこの子達は、ここにはいない。なにも知らず眠る姿に、罪悪感が襲う。
心の中が、ぐちゃくちゃになる。
連れていきたくない。
──けど、連れてくと決めた。
一緒にいたい。
でも、この子たちとの未来なんて、誰も望んでくれない。
「…ごめん……っ、華、蓮……飛鳥……ッ、ご……めん、ごめん……ごめん、本当に……っ」
こんな、ダメな父親で
ごめんな───
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