272 / 289
最終章 箱と哀愁のベルスーズ
箱と哀愁のベルスーズ ㉚ ~ 復讐 ~
しおりを挟む真実を知ってから、私は、五十嵐の動向を細かく観察していた。
この子は、なにを企んでいるのか?
そして、結月のことを、どう思っているのか?
でも、阿須加家にきた目的については、すぐに検討がついた。
あの子は、父の死を事故だなんて思ってない。
だから、五十嵐がここにいるのは、きっと阿須加一族に復讐するため。
だけど、分からないのは、結月に対する態度だった。
五十嵐は、婚約者に逆らってまで、結月を助け出してくれた。
だけど、そんなことをすれば、クビになるのは目に見えてる。そして、クビになれば、五十嵐は、復讐という目的を果たせなくなる。
それなのに、五十嵐は、自分の立場よりも、結月を優先してくれた。
(もしかして、結月が妹だとしってるの?)
自分の妹だから、守ってくれたの?
だけど、あの男(玲二)が、わざわざ、自分の女性関係を、息子に話すとは思えなかった。
いくら妻が亡くなっていたとしても、腹違いの妹がいるかもしれないなんて、まだ小学生の子供に話すような内容じゃない。
なにより、結月の父親が、彼であるかどうかは、母親の私ですら分からないことだった。
なら、五十嵐は、きっと知りもしないだろう。
自分が仕えているお嬢様が、もしかしたら、妹かもしれないなんて──
(でも、もしあの二人が、本当に兄妹だったら……私は、どうすればいいの?)
闇夜に浮かぶ月を見つめながら、私はひたすら二人のことを考えた。
結月にふさわしいと思って、五十嵐を執事として選んだ。二人が恋に落ちて駆け落ちでもしてくれたら、私の望みが叶うと思ったから。
だけど、あの二人が兄妹なら、話は変わってくる。
血の繋がった兄妹の恋なんて、禁忌もいいところだ。
あの子たちは、なにも知らないだろうけど、知ってしまった以上、二人を恋人同士にするわけにはいかなかった。
でも、その件に関しては、まだ大丈夫だと思った。
だって、五十嵐は、結月のことを主人としか見ていなかったから。
あれだけ女として意識するよう仕向けても、五十嵐は、一切揺らがなかった。
だが、それも当然だったのしれない。
親を阿須加家に殺された五十嵐にとって、結月は、私たちと同じように、復讐の対象者でしかなかったのかもしれない。
でも、もしそうだとしたなら、五十嵐は、いずれ結月のことも裏切る気なのだろうか?
なら、五十嵐を、ここに置いておくわけにはいかない。
だけど、阿須加家の人間としては、そう判断できても、もう一人の自分が、それを否定する。
(復讐したいわよね。大切な人を殺されたなら)
そう思うのは、きっと私が、望月玲二に救われたから。
だから、五十嵐の気持ちは、痛いほどよくわかった。
彼は、阿須加家の犠牲になったのだろう。
悪しき風習の餌食にされて、命まで絶ってしまった。
どうして、あんなにも優しい人が、死ななければならなかったのだろう?
「ユヅキ……私は、どうすればいいのかしら?」
「にゃー」
ペルシャ猫のユヅキを撫でて、私は力なく呟いた。
これ以上、五十嵐を、ここに置いてはおけない。
どけど、それと同時に悪魔が囁く。
いっそ、こんな一族、なくなってしまえばいいのに──と。
人の気持ちを考えず、まるで道具のように扱う一族。
はっきりいって、復讐されて当然の一族だった。
なら、このまま五十嵐に、潰してもらえばいい。
だけど、そうなれば、今度は、結月まで地獄に落ちてしまう。
悪しき一族の娘として、あの子まで不幸にされてしまう。
「違う。違うの、あの子は……っ」
あの子は、違う。
私たちのことは、いくらでも地獄に落とせばいい。
だけど、あの子は、結月は違う。
だって、あの子は、なにも悪くない。
だから、復讐に、巻き込まれていい子じゃない。
だから、お願い。
どうか、結月だけは──
「にゃー」
瞬間、またユヅキが一鳴きして、私は、膝の上のユヅキを見つめた。
ユヅキの滑らかな毛並みは、少し濡れていて、いつの間にか泣いていたのに気付いた。すると私は、ユヅキを抱きしめながら
「ゴメンね……もう、わからないの……どうすれば、結月が幸せになれるのか……っ」
娘代わりの猫を抱きしめて、私は、ひたすら涙を流した。
必死に、希望を掴もうとしてるのに、箱の中からでてくるのは、絶望ばかりだった。
パンドラの箱には、本当に希望なんて残っていたのだろうか?
もしかしたら、絶望しか入っていない箱に、勝手に、希望が残っていると信じたかっただけなのかもしれない。
その証拠に、絶望は更に続いた。
それは、秋が終わりを告げようとする11月末。
結月が、冬弥くんと正式に付き合うことになった。
そして、高校を卒業したとあと、結月は、餅津木家で暮らすことが、正式に決まってしまった。
1
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】
佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。
ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。
それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが……
——って……アブダビって、どこ⁉︎
※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。
幽霊な姉と妖精な同級生〜ささやき幽霊の怪編
凪司工房
キャラ文芸
土筆屋大悟(つくしやだいご)は陰陽師の家系に生まれた、ごく一般的な男子高校生だ。残念ながら霊能力はほとんどなく、辛うじて十年に亡くなり幽霊となった姉の声が聞こえるという力だけがあった。
そんな大悟にはクラスに憧れの女子生徒がいた。森ノ宮静華。誰もが彼女を妖精や天使、女神と喩える、美しく、そして大悟からすれば近寄りがたい女性だった。
ある日、姉の力で森ノ宮静華にその取り巻きが「ささやき幽霊の怪を知っている?」という話をしていた。
これは能力を持たない陰陽師の末裔の、ごく普通の高校生男子が恋心を抱く憧れの女子生徒と、怪異が起こす事件に巻き込まれる、ラブコメディーな青春異能物語である。
【備考】
・本作は「ねえねえ姉〜幽霊な姉と天使のような同級生」をリメイクしたものである。
ヤンデレストーカーに突然告白された件
こばや
キャラ文芸
『 私あなたのストーカーなの!!!』
ヤンデレストーカーを筆頭に、匂いフェチシスコンのお姉さん、盗聴魔ブラコンな実姉など色々と狂っているヒロイン達に振り回される、平和な日常何それ美味しいの?なラブコメです
さぁ!性癖の沼にいらっしゃい!
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる