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最終章 箱と哀愁のベルスーズ
箱と哀愁のベルスーズ ⑤ ~ 阿須加の血 ~
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前回の話から、何となく察してるとは思いますが、辛い感じの性描写があります。
✣✣✣✣✣✣✣
「洋介に頼まれたんだ。君に、跡継ぎを産ませてやってくれと」
「──え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。義兄の言葉がうまく呑み込めず、頭の中が真っ白になる。
洋介に頼まれた?
跡継ぎを?
「妻から聞いたよ」
「え?」
「君の体には、なんの問題もないそうじゃないか。なら、不妊の原因は、洋介にあるってことだろう。だが、もう大丈夫だ。出来の悪い弟の代わりに、俺が阿須加の血を注いでやろう」
「ッ──!」
そのあとは、あっという間だった。
支えにしていた手は、あっさりドアから引き離されて、強引に部屋の中に引きづり込まれた。
扉がバタンと閉まれば、長次郎は、盛った獣のように襲いかかってきて、広いスイートルームの床に、容赦なく押し倒される。
「お義兄様、やめてください……!」
「嫌がるな、洋介の頼みだと言ってだろう!」
「嘘よ! 洋介が、そんなこと頼むわけない!」
必死に声を上げ、威嚇する。
この男が、嘘をついついるのはすぐに分かった。
洋介が、そんなことを頼むわけがない。
だって、この人には、阿須加の血が流れてないから──
すると義兄は、少し驚いた顔をして
「ほぅ、洋介を信じるのか」
「当たり前でしょ! 大体、なんでこんなことッ」
「腹いせだよ」
「は?」
その言葉には、思わず、耳を疑った。
腹いせ?
そんなことのために、私は今、押し倒してるの?
「君だって思うだろう。俺の方が、当主に相応しいと。それなのに、洋介に全て奪われた。洋介は昔から親父に可愛がられていたんだ。長男としての重圧もなく自由に生き、嫁ですら、好きな女を選べた。文具メーカーの小娘なんて、阿須加家には、ふさわしくないというのに」
「……っ」
自分の出自を蔑まれるのは、今に始まったことじゃなかった。
私の実家は、庶民と変わらない小さな企業。だが、それも次男の嫁だから許されていた。しかし、その小娘が当主の妻となるなら、また話が変わってくる。
「俺なんて、さして美人でもない女と政略結婚だ。だが、それも阿須加家のためだと割り切った。いずれ当主になるなら、必要なことだと。だから、好きでもない女を抱いて、男児を二人も産ませ、長男としての役目も立派に果たしてきた。それなのに、ここに来て、洋介を当主にすると言われた。親父に反論しても『もう決めたことだ』と、まともに取り合ってもくれない。だから、俺も奪うことにしたんだよ、洋介から」
「ひッ」
その瞬間、下腹部を撫でられ、肌がぞわりと泡立った。
「ここに宿った子は、いずれ阿須加家の当主になる。なら、俺の子を身ごもれば、俺の子が、時期当主だ」
「やめ──ッ」
その言葉に、全身が震え出した。
長次郎は、自分が当主になれない代わりに、私を妊娠させて、その子を当主にするつもりでいる。
そうすれば、また洋介から、全て奪いとる事ができるから。
でも、そんなの納得できるはずがなかった。
「やめて、お願い……っ!」
恐怖が限界を超えた私は、必死になって抵抗する。しかも、今日は、妊娠の可能性が最も高い日だった。
義兄が、それまで見越してたのかは分からないけど、その確率の高さが、私の恐怖心を何倍にも跳ね上がらせる。
「やっ……いや、離して……っ」
泣き叫ぶ声が、部屋中に響く。だけど、力で適う相手ではなく、声を出せぬよう無理やり口をふさがれれば、呼吸すら、まともに出来なくなった。
「っ、ん……ッ!」
「大人しくしろ! 君にとっても悪い話じゃないだろう、やっと跡取りを産めるんだ」
跡取り──そう言われ、瞳からは、また涙があふれた。
ずっと、子供を望んできた。
だけど、こんな形で欲しかったわけじゃない。
私、この後、どうなるの?
十も年上の男に犯されて、義兄の子を妊娠して、その子を、洋介の子として育てていくの?
(ぃ、や……っ)
いっそ、死んでしまいたいと思った。
だけど、死ぬことも逃げることも出来ず、むしろ、嫌がれば嫌がるほど、義兄は、更に私をねじ伏せ、早急にことを進めようとしてくる。
スカートの中に厳つい手が入り込めば、太ももを撫でられ、下着までうばわれた。ろくに慣らしもせず交わろうとしてるのが分かって、身体中が絶望という恐怖に蝕まれる。
(うッ……誰か──)
必死に助けを求めた。
泣きながら、誰かが来るのを願った。
だけど、こんな場所に誰が来るのだろう。
閉ざされた空間の出来事に、気づく者なんていない。
すると、まるで現実から目をそらすように、私は、ギュッと目を閉じた。
もう、なにも見たくない。なにも聞きたくない。
だけど、諦めかけた、その時
──バタン!!
と、突然、扉が開く音がした。
「何をしてるんですか!!」
そして、知らない男の声がして、うっすらと瞳を開ければ、若い男が駆け込んできたのが見えた。
背の高い黒髪の男。
そして、その男は、私に覆い被さる長次郎を、無理やり引き離すと、その後、私を守るように、義兄の前にたちはだかった。
「な、なんだ、貴様は! 俺に、逆らっといいと思ってるのか!?」
「申し訳ありませんが、あなたのような方を、お客様とは呼びません。これは、れっきとした犯罪ですよ」
澄んだ男の声が、スイートルームに響く。
長次郎よりも遥かに若いその男は、ホテルマンらしい身なりをしていて、うちの従業員だと、すぐにわかった。
そして、私を守ろうとするその力強い声に、瞳からは、自然と安堵の涙が零れ落ちた。
あの時のことは、今でも感謝してる。
私を助けてくれた人。
そして、その男の名は──望月 玲二。
あの時は、お互いの名前すら知らない関係だったけど、彼は、私がのちに執事として雇うことになる
──五十嵐レオの『父親』だった。
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