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第21章 神隠し

お嬢様の護衛

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「こっちだよ」

 結月と恵美が、町を歩いていると、奥ゆかしい日本家屋の中から、ルイの声が聞こえてきた。

 輝かしい異国の髪色ではなく、日本人らしく黒髪姿になったルイは、一見、ルイとは分からない。

 だが、その女性に見間違うほどの美しさは、黒髪のカツラを被ったくらいでは衰えず、恵美と結月は、それがルイだとわかった瞬間、ホッと息をつく。

「ルイさーん! よかった。無事にたどり着いて~」

「お疲れ様。二人とも上手く紛れこめたみたいだね。男装もサマになってるし」

 冠木門かぶきもんを抜け、ルイ宅の敷地内に入ると、ずっと口を閉ざしていた恵美と結月が、口々に話し始める。

「恵美さん、本当にありがとう。真夜中に町を歩くのは、初めてのことだったし、私一人だったら、きっと不安で仕方なかったわ」

「そんな、お嬢様は、門限が厳しかったんですから、仕方ありませんよ。でも、こうして、ルイさんの家について、私もほっとしました。五十嵐さんから、お嬢様の護衛を任された時は、正直どうなるかと」

 この計画を練る際、レオから一任された恵美の役目は、"お嬢様の護衛"だった。

 深夜0時、明かりが消えたと同時に、屋敷から抜けだすお嬢様を、ルイの家まで、無事に送り届けること。

 だが、いくらショッピングモールで、一緒に庶民に成りすましたとはいえ、今回は男装をしていたため、あの時とは勝手が違う。
 だからか、恵美には荷が重く、気が気ではなかった。

「はぁ~、緊張したー。護衛なんて、私には、責任が重すぎます……っ」

「ホント、お疲れ様。わかるよ、レオは怒らせたくないタイプだしね」

「そうなんですよー! わかってくれますか、ルイさん! 五十嵐さん、お嬢様の事が好きすぎて、万が一、何かあったらと思うと!」

 恵美とルイが『執事は恐ろしい』と口々に話す。すると結月は、いまいちピンとこない様子で

「レオって、そんなに怖いかしら?」

「あぁ、お嬢様は大丈夫ですよ」

「うん。結月ちゃんは、何しても怒られないと思うよ」

「え! なにをしても!?」

 確かに、レオに愛されてる自覚はある。
 だが、さすがに、なにをしてもは。

「そうだ。屋敷の方は、どうだった? 上手くいきそう?」

 すると、ルイが更に問いかけてきて、恵美が答える。

「はい、屋敷の方は問題なく。愛理さん達が、しっかりウワサ話を流してくれてました!」

「そっか、じゃぁ、明日には更に広がるかもね」

 恵美の言葉に、ルイがニコリと微笑む。
 どうやら、計画は順調のようだ。
 すると、ウワサをすればなんとやら、そのタイミングで、愛理と谷崎もやってきた。

「お嬢様~。よかった。無事にルイさんの家についたんですね!」

「えぇ、恵美さんのおかげよ。愛理さんたちも、寒い中、ありがとう」

「いいえ。みんな屋敷の明かりが消えて、驚いていましたよ。五十嵐くんが言った通り、すぐに広まりそうです」

 謎多き話に、人は興味をひかれるもので、あの執事は、そんな人間心理を利用して、町中にウワサを広めるつもりらしい。

 この町一の名家・阿須加家。そのお屋敷の主人と従者たちが、一夜にして姿を消したと──

「愛理さん、そちらの方が、愛理さんとご結婚なさる方?」

 すると、愛理の隣にいる谷崎を見て、結月が問いかける。すると愛理は、珍しく恥じらいながら

「そ、そうです。彼氏の雅文です」

「は、初めまして、阿須加さん! その節は、御屋敷の前で騒いでしまい、すみませんでした!」

「いいえ、気になさらないでください。お二人の誤解が解けて、本当によかったです。この度は、ご結婚おめでとうございます」

 別れたあとのイザコザで、谷崎が屋敷に押しかけた件。結月は、それを責めることなく、おおらかに受け止め、二人を祝福した。

 その姿は、男装をしていても、お嬢様で、その気品と優雅さは、隠すに隠せないほど。

 すると愛理は、谷崎と顔を見合せたあと

「ありがとうございます。でも次は、お嬢様の番ですよ」

「え?」

 愛理の言葉に、結月が目を見開く。

 次は──確かに、レオが戻ってきたら、二人は、この町から旅立つ。

 お嬢様でも、執事でもなくなり、やっと本当の『家族』になれる。

「うん、そうね……っ」

 結月の目に、微かに涙が滲んだ。

 こんなに、喜ばしいことはない。
 だって、やっと結ばれるのだ。

 好きな人と、やっと結ばれる。
 そしてそれは、屋敷を出たからこそ、より実感する。

「結月ちゃん、風邪をひくといけないし、話は中でしようか」

 すると、ルイが自宅の玄関を開けながら、そう言った。

 真冬の深夜は、冷え込みも厳しい。

 レオを待つ間、風邪をひかせる訳にはいかないと、ルイは、愛理や恵美たちと一緒に、結月を家の中に招き入れた。

 中にはいれば、ルイの家は、とても趣のある家だった。結月が暮らしていた西洋風の屋敷とは、全く違う和風の家。

 その古風な日本家屋の中は、落ち着きある畳の香りに満ちていて、どこかのどかで優しい雰囲気を漂わせていた。

 そして結月は、当然、ルイの家に来るのは初めてのことで、物珍しそうに家の中を見回す。

 すると──

「この家、レオが、子供の頃に住んでいた家なんだよ」

「え?」

 
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