上 下
224 / 289
第21章 神隠し

準備開始

しおりを挟む

「ねぇ、やっぱり脱がなきゃダメなの?」

 就寝時刻を迎えた頃──

 普段なら眠りにつく阿須加家の屋敷は、未だに煌々こうこうとした光に包まれていた。

 大晦日の夜くらい、お嬢様も夜更かしをするだろう。だが、世間的には、そう思わせつつも、今、結月たちは、ここを出るための準備に取りかかっていた。

 カーテンを閉め切った部屋の中では、執事とお嬢様が二人だけで向き合う。

 黒い燕尾服を着たレオと、真っ白なナイトドレスの着た結月。その姿は、自然と、あの夜を彷彿とさせた。

 初めて身体を重ねた、あの甘美な夜。

 だが、今の二人は、そんな甘やかな夜を想像することすらなく、お互いに押し問答を繰り返していた。

するなら、その胸は隠さなきゃダメだろ」

「わ、分かってるわ! でも、なにも、下着まで脱がなくても……っ」

「サラシを巻く時は、下着ははずすものだよ。素肌にそって巻かないと、隙間が出来て緩みやすくなる」

「そ、そうなの。でも……っ」

「なにを、そんなに恥ずかしがってるんだ。何度も愛し合った仲だろ」

「そ、それでも、恥ずかしいものは、恥ずかしいの!」

 そう、これは、あくまでものやりとり。

 男装するためには、どうしても、結月の豊満な胸元を隠す必要があった。

 だが、巻かねばならないのはわかってはいても、やはり恥ずかしさには敵わない。

「こ、こんなに、明るい部屋でなんて……っ」

「じゃぁ、明かりを落とす?」

「そ、それでも、やっぱり、直接、胸をみられるのは」

「じゃぁ、どうしろって言うんだ」

 胸元を押さえつつ恥ずかしがる結月は、ずっと嫌だと言い張っていて、それには、さすがのレオもため息をついた。

 このままでは、一向に準備が進められない。

 なにより、結月の身体は、もう隅々まで堪能したあとで、今更、胸ごときで、恥ずかしいがる意味がわからない。

 だが、この恥じらう姿ですら、愛らしく思うってしまうのは、結月に、心底惚れているからだろう。

 なにより、嫌がる結月に、無理強いはしたくない。

 とはいえ、今の時刻は、もう午後の10時半。
 まだ、時間はあるとはいえ、あまりモタモタはしてられない。

「では、こうするのはいかがでしょうか、お嬢様」

 すると、まるで切り替えるように執事口調に戻ったレオはふところから、サッとハンカチを取り出した。

 日頃から、白く清潔なハンカチを持ち歩くのは、言わば執事のたしなみ。だが、突然、あらわれたハンカチに、結月は首を傾げる。

「それを、どうするの?」

「はい。明るい場所が嫌なら、暗くしてしまえばいいのです。というわけで、をしましょうか」

「え!?」

 目隠し──そう言われ、結月は瞠目する。

 まさか、目隠しをしたまま、サラシを巻けと!?
 
 驚きを隠くせず、困惑していれば、その後、レオは、結月の背後に移動し、そのハンカチで、あっさり結月の目元を隠した。

「ちょ、ちょっとレオ……!」

 一気に視界を奪われ、世界が黒一色になる。すると、そんな結月の耳元で、レオが、そっと囁きかける。

「これなら、恥ずかしくないでしょう?」

「な……なにいってるの、私が見えなくなっても、レオは……っ」

「そうですね、私にはしっかり見えておりますよ、お嬢様の美しいお姿が……ですが、、この肌に触れるところを、お嬢様が目にすることはございません」

「ひゃっ!」

 瞬間、夜着越しに、そっと背筋を撫でられた。

 視界を奪われているせいか、そんな些細な刺激にすら反応して、結月が艶めいた声を漏らす。

「や……レ、レオ……これじゃ、余計に恥ずかしいわ……っ」

「なぜですか? お嬢様は、見えてないのに」

「み、見えてないから、恥ずかし──ひゃ、あっ……な、なにしてるのッ」

「服を脱がしてるんですよ。サラシを巻かなくてはなりませんから」

「へ、ちょっと、待って……!」

「ダメです。これ以上のワガママはきけません。このまま下着も脱がしますから、大人しくしていてくださいね」

「あ……っ」

 その後は、問答無用でナイトドレス脱がされると、慣れた手つきで下着まで奪われた。

 必死に隠していた胸元は、あっさり空気に晒され、結月は、顔を真っ赤にする。

 だが、抵抗したくても視界を奪われてしまえば、そうもいかず、結月が必死に羞恥心をこらえる中、レオは、準備していたサラシを、丁寧に結月の腰元から胸にかけて巻き始めた。

「んっ……や、レオ……早く終わらせて……っ」

 だが、見えないせいで、余計に意識してしまい、結月は、それからしばらく、わがままを言ってしまったことを深く後悔したのだった。

 
 ✣

 ✣

 ✣


「これからだってのに、何を疲れた顔してるんだ」

 その後、サラシを巻き終わり、衣装の着付けまですませたあと、レオが、結月の髪を結いながら、そう言った。

 計画の実行は、これからだというのに、肝心の結月が、なぜかお疲れモードだからだ。

「レオが、あんなことするからじゃない!」

「俺は、サラシを巻いただけですか?」

「サラシだけじゃないでしょ! 目隠しもしたわ!」

「それはお嬢様が、明るい場所は嫌だとおっしゃったので」

「暗くなったのは、私だけじゃない」

「あぁ、そうでしたね」

 意地悪く微笑みつつも、執事は、お嬢様の反応を十分に楽しみ、ご満悦と言ったところ。

 だが、必要以上に疲れさせるつもりはなかったため、時間をかけずに、手早く終わらせたのだた。

 しかし、目隠しをされていたからか、はたまた恥ずかしさによるものか。その5~10分のことが、結月には、やたらと長く感じたらしい。

「はい、できたよ」

 その後、髪を結い終わりると、レオが結月を見つめながら声をかけた。結月は、鏡に映った自分を見つめると

「ありがとう、レオ。ちゃんと男装できてるかしら?」

「あぁ、よくできてるよ。男装していても、結月は可愛い」

「え? 可愛いのは、よくないんじゃ?」

 見た目は完全に少年だが、可愛いなどと言われると不安になる。

 だが、これも仕方のないこと。
 だって、レオにとっては、結月がどんな姿をしても可愛いのだから……

 ──コンコンコン!

 すると瞬間、部屋の扉がなった。

 結月が返事をすれば、準備を終えたらしい。
 男装した恵美と、私服姿の愛理が入ってきた。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

処理中です...