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第20章 復讐の先
隠し事
しおりを挟む就寝の時刻を向かえる前、レオは、いつも通り、結月の部屋に訪れていた。
戸締りなどの最終確認は、執事の仕事。
ノックをし、部屋の中に入れば、結月は、三人がけのソファーに腰かけ、荷造りをしているところだった。
三日後、この屋敷から出る際に、手にしていく荷物……と言っても、衣類などの生活必需品は、先に新居に持って行ってもらったため、当日、手にする荷物は、ほとんどない。
結月の前に置かれた、小ぶりのトランクの中には、思い入れのある数冊の本と黒猫のぬいぐるみと、空っぽの箱。そして、貴重品と言った大切なものだけがつまっていた。
荷造りをする姿を見れば、また気が引き締まる。
やっと、この屋敷から離れられるのだ。
だが、その前に、話すべきことがある。
「──結月」
部屋の中を進み、レオは結月の側に立つと、静かに声をかけた。
すると、珍しく『お嬢様』呼びでないことに驚きつつ、結月が、ゆっくりとレオを見上げる。
「どうしたの?」
優しい声が、室内に響く。
そして、その声は、ゆっくりとレオの心を満たしていく。だが、その優しげな声も、すぐに懸念の声に変わった。
「やっぱり、何かあったの?」
きっと、昼間のことを心配しているのだろう。
不安げに瞳をゆらす結月を見つめ、レオは苦笑する。
今思えば、かなり軽率だったと思う。
いきなり、抱きしめるなんて──
だけど、不快感と不安が度重《たびかさ》なったせいか、無意識に結月にすがってしまった。
早く、あの母親の感触を消しさりたかった。
そして、結月に触れれば、それが叶うと思った。
でも、その衝動的な行動は、ルイの言う通り、結月に心配をかけることに繋がってしまった。
「昼間は、すまなかった。ルイや相原の前で、抱きしめたりして」
「え!? や、あの……いいのよ! ちょっと、ビックリはしたけど……っ」
頬を赤くし、恥じらう結月は、本当に可愛いらしい。
だが、そんな結月を愛でたい気持ちを押さえつつ、レオは、執事としてではなく、今日は、恋人として、結月の隣に腰かけると、その後、優しく包み込むように、結月の手を握りこんだ。
「結月……お前に、まだ話していないことがある」
「え、話していないこと?」
「あぁ、俺の父親のこと」
「父親? それは、フランスにいるお父様のこと?」
「いや、違う。俺の本当の──」
その瞬間、微かに手が震えだした。
もし、この話をして、結月に嫌われたら。
そう思うと、続く言葉が、なかなか出てこない。
「レオ」
「──っ」
だが、そうして躊躇っていると、結月が、そっとレオの首に腕を回し、強引に引きよせた。
ふわりと柔らかな胸元に、優しく抱きとめられる。
まるで、母親が幼子を抱きしめるように。
だが、その突然の抱擁に、レオは酷く困惑する。
「ゆ、ゆづ……っ」
「レオ、そのまま聞いて」
「そ、そのままって」
「私もまだ、話していないことがあるの」
「え?」
「……ごめんなさい……隠しごとはしないと話していたのに……っ」
思いもよらぬ返答に、レオは大きく目を見開く。
隠しごと? 結月に?
一体、どんな?
甘い香りに誘われながらも、身体は無意識に強ばり、自然と結月の腰を抱き返した。
すると、結月は、レオを抱きしめたまま
「私──あなたのお父様のこと、知ってるの」
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