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第20章 復讐の先

兄と弟

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 ※ 注意 ※

一部、不快な発言があります。
ご注意ください。




 ✣✣✣✣✣✣



「冬弥兄ちゃん、ばいばーい!」

 餅津木家が所有するビルの中。冬弥の兄、春馬はるまの息子である一馬かずまが子供らしく声を上げた。

 仕事中、いきなり兄に呼び出されたかと思えば、冬弥は、突然、子守りをおしつけられた。

 メイドや秘書に頼めばいいものを、一回、一馬と遊んであげてから、妙に気に入られたらしく、たまにこうして、職場に連れてきた時には、よく子守りで呼び出される。

「全く……なんで俺が、ガキの子守りなんてしなきゃならねーんだよ」

 一馬が母親の美由紀みゆきと帰った後、兄と二人きりになった社長室で、冬弥はタバコをふかしながら愚痴をこぼした。

 この兄には、よくこき使われるが、さすがに子守りまでとは。弟なのに、まるで召使いだ。

 すると、冬弥の横でタバコを蒸かしていた春馬が、とこか失笑気味に答えた。

「まあ、そう言うなよ。一馬が、冬弥兄ちゃんと遊びたいってうるさいんだ」

「つーか、職場に連れてくるなよ」

「別にいいだろ。一馬は、ゆくゆく俺の跡を継ぐんだ。なら、今から父親の働きぶりを見せつけとかないとな」

「見てねーだろ。ずっと俺と遊んでたんだから」

 自由奔放で俺様な兄には、ほとほと呆れ返る。

 しかも、一馬はまだ5歳。
 それなのに、もうその未来は決められていた。

 いずれは親の跡を継ぎ、餅津木家の頂点に立つ。

 長男の息子としての重圧は、もう既にその幼い肩のしかかっていて、だが、本人がそれを望めばいいが、もし望まなかったら?

 自分の前では、子供らしく笑う一馬をみていると、その将来が、つい心配になってしまう。

「そういえば、クリスマスは、上手くいったみたいだな?」

「え?」

 すると、話の腰を折り、春馬がまた話しかけてきた。

 クリスマスは──ということは、結月のことを言っているのだろう。

「あぁ、いい夜だったぜ。一晩中、将来のことについて語り合って」

 勿論、語り合ってはいない。

 あの日は、一晩中、を読んでいたし、あまりの名作に二人して涙したくらいだ。

 しかし、結月との約束は極秘事項。

 ならば、ここは指示通り"仲睦まじい恋人同士"を見せつける場面。故に、を言ってみる。

「結月も、早くってよ」

「へー、案外上手くいってたんだな」

「当たり前だろ。いずれ夫婦になるんだし、今じゃ、相思相愛」

「それで、結月ちゃんをは?」

「──は?」

 だが、その発言には、思わず耳を疑った。
 
 抱いた感想?
 そんなことまで話す必要あるか?

 ていうか、抱いてないし!
 それどころか、指一本すら触れられなかったし!

 だが、一応、結月には一線を越えたをしろといわれている。ならば、下手にはぐらかすのも

「ま……まぁ、よかったよ。初めての割に感度も良かったし、最後の方は、結月の方から求めてきて」

 勿論、全てだ。

 だが、妄想くらいは許されるだろう。結月を抱いたつもりで、テキトーなことを言ってみる。

 すると、春馬は、吸い終わったタバコを灰皿に押し付けながら

「へー、それは楽しみだ」

「楽しみ?」

「あぁ、今度、俺にもくれよ」

「は?」

 その言葉には、さすがの冬弥は困惑する。

 何を言ってるんだ?
 貸すって──何を?

「誕生パーティーで見た時から、いい女だと思ってたんだ。見た目も可愛いし、結構エロい身体してるし、その上、床上手とくれば、抱いてみたくもなるだろ」

「……っ」

 流石に意味を理解したのか、冬弥はグッと息を詰めた。額から嫌な汗が吹き出し、呼吸すら忘れるほど動揺する。

 なに、いってるんだ?
 貸してくれって、まさか──を?

「ッ──ふざけんな!! 誰がッ」

 一気に沸点があがり、乱暴に春馬の胸ぐらを掴み上げた。だが春馬は

「そう怒るなよ。これも一族のためだろ」

「はぁ?」

「だって、お前が、結月ちゃんを妊娠させられなかったら、阿須加家を乗っ取る俺たちの計画は、全部パーになるんだぞ。だから、っていってるんだ。大丈夫だって、酒たんまり飲ませて酔わしちまえば、相手が誰かなんて分からねーよ。なんなら、3人で楽しむか? 俺は構わないぜ」

「く……ッ」

 その瞬間、ワイシャツを掴む手に、より力が籠った。

 イカれてると思った。
 相手は、あの阿須加家の令嬢。
 それも、弟の婚約者だ。

 それなのに──

「どんだけ、トチ狂ってんだよ…ッ! そんなことさせるわけねーだろ。結月に指一本でもふれさせない!!」

「はは、お前そんなに惚れてんのかよ。まぁ、だからって、俺に逆らっていいわけねーよな。お前は、妾《めかけ》の子なんだから」

「……は?」
 
「お前の母親は、俺たちの母親から親父を寝とったんだ。なら、お前も、自分の嫁を兄貴に差し出すくらいしろよ」

「……っ」

 その瞬間、胸ぐらを掴んでいた手から、ゆっくりと力が抜けていく。

 あぁ、きっと、ここにいる以上、それは、ずっと付きまとうのだろう。

 自分は妾の子だという、絶対的な柵が……

「じゃぁな、冬弥。楽しみにしてるぜ、結月ちゃんが、餅津木家にくるの」

「……っ」

 すると、青ざめる冬弥の肩をぽんと叩いた春馬は、笑いながら社長室から出ていって、その後、冬弥は、力なく、だが、どこか諦めたように笑いだした。

「はは……ホントここにいたら……地獄しかねーじゃねーか……っ」

 悔しさと同時に、強く拳を握りしめた。
 そして、思い出したのは

『応援します。貴方の未来これからを──』

 そう言って、優しく笑いかけてくれた、結月の姿──…

(絶対、逃げろよ……結月……っ)

 餅津木家こんな所にくるべきじゃない。
 あんな奴らに、穢されていい女じゃない。

 だからこそ、強く願う。

 どうか、結月の計画が成功するように。



 結月が、この先


 決して、傷つくことがないように──…




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