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第15章 お嬢様の記憶
お嬢様の看病
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「それッ……読んだのか……っ」
「……っ」
結月が手にした『白い日記帳』を見て、レオがそう言えば、結月はじわりと冷や汗をかいた。
一瞬、嘘をつくべきかと悩んだ。
だが、嘘をついても、この執事には見破られてしまいそうだ。
結月は、そう思うと……
「よ……読みました」
「……っ」
「あ! でも、1ページだけよ!(見開き)1ページ! 他のページは、一切読んでないから、心配しないで!!」
「黒い方は?」
「へ?」
「手帳の方は、読んでない?」
手帳──そう言われ、結月はもうひとつの黒い手帳に目を向けた。
手の平に収まるくらいの『黒革の手帳』
それは所々擦れていて、かなり年季の入った手帳だった。
「?……こっちは……読んでないけど」
「…………そう」
素直に告げれば、一呼吸あいたのち、レオが安心したように呟いた。
その表情は、なんと形容しがたい複雑な表情をしていた。
「五十嵐……?」
「ごめん。夕べ、片付けるの忘れてた」
するとレオは、ベッドから抜け出し、結月の元へと歩み寄った。
結月が手にした『白い日記帳』と『黒革の手帳』を、二冊同時にうけとると、それを机の引き出しの中に隠す。
鍵付きの引き出しだ。厳重に、誰にも見られないようにしまい込んだ、その姿を、結月は、ただただ見つめていた。
(あの手帳には……何が書いてあるのかしら?)
漠然と、そんなことを思った。
大切な手帳なのだろう。
だが、それは、あの恥ずかしい日記以上に、読まれたくないものなのだろうか?
「それより……どうして、ここに?」
すると、再びレオが声をかけてきて、結月は、すぐさま我に返ると
「あ、それは、熱があるって聞いて……!」
「……心配して、わざわざ来てくれたのか?」
その瞬間、柔らかく微笑んだ執事の姿をみて、結月は頬を赤らめた。
嬉しそうに目を細めた姿は、普段と変わらない。だけど、どことなく気だるそうにも見えた。
「し、心配よ。ごめんね、私のせいで」
「……結月のせいじゃないよ」
「うんん、私のせい……私が、頼りないから……ごめんね。やっぱり、私……っ」
涙目になって俯けば、レオは、そっと結月の頬に触れた。
「結月、俺の日記を読んだんだよな? 読んでみて、どう思った?」
「……え?」
再度、日記の話を持ち出されて、結月は顔を赤らめた。
あの日記には、自分への思いが溢れていた。
恥ずかしくなるくらいの甘く優しい、愛の言葉が……
「あ、その……屋敷に来た時から……私のことを、好きだったんだなって」
「違うよ」
「え?」
「屋敷に来た時じゃなく、屋敷に来る前から、ずっとずっと結月のことが好きだった。結月は、自分のせいで俺が無理をしていると思ってるみたいだけど、俺は今、自分のためにこうしてる。結月を、誰にも渡したくないから──」
「……!」
真っ直ぐに見つめるその瞳には、自分だけが映っていた。それが、本心だと訴えるように……
何も出来ない自分は、彼には不釣り合いだと思った。
これ以上、無理をさせるくらいなら、もう、いっそのこと……そう、思っていた。
でも──
「私、五十嵐のこと……好きでいていいの? 私、看病ひとつ、まともに出来なくて……そんな私と一緒になって……五十嵐は、幸せ?」
「幸せだよ。むしろ、好きでいてくれなきゃ困る」
「……ッ」
ハッキリとそう返ってきて、結月は、思わずレオに抱きついた。
ダメな自分を見つける度に、迷いが生まれてしまう。完璧な彼の姿を目にする度に、劣等感に悩まされる。
だけど、今日ほど、彼に釣り合うような女性になりたいと思ったこともなかった。
「結月……ごめん。出来れば、もっとこうしていたいけど、風邪を移すといけないから、そろそろ離れて」
「……あ」
瞬間、目と目が合わさって、結月の顔は真っ赤になった。普段よりも高い彼の体温は、寒い廊下を歩いてきたせいか、冷えた体にはちょうど良かった。
できるなら、まだ、こうしていたい。
今はまだ、戻りたくない──…
「移して、いいわ」
「……!」
決して離れず、それどころか更にレオの胸に頬を寄せると、結月はポツリと呟いた。
「あ、あのね! 風邪は、人に移すと良くなると、昔どこかで聞いたの。だから、五十嵐の風邪も私に移せば、よくなるわ」
「……」
「あの、だから……その……私には、これしか、してあげられることがないから……だから、お願い。私に移して」
「……っ」
それは、冗談ではなく、紛れもなく本気の表情をしていて、レオは、酷く動揺してしまった。
移せば治ると、まだ信じているのか?
真剣に、自分の負担を減らそうとしている結月に、胸が熱くなった。
あぁ……君は、いつもそうやって、俺の心を揺さぶる。
「それ、嘘だよ」
「え!?」
だが、その瞬間、レオがそう言えば、結月は驚きのあまり、レオを見上げた。
「う、嘘!?」
「そうだよ。人に移しても、風邪は治らないよ。それに、お嬢様に風邪なんて移したら、執事失格なのでは?」
「……そ、それは、そうかもしれないけど……っ」
まさかの事実に、結月は軽く衝撃を受けた。
腕の中でシュンとする結月は、酷く落ち込んでいて、そんな結月を愛おしそうに見つめながら、レオはそっと結月の肩を掴むと、その後、結月を引き離した。
熱のせいか、上手く理性が効かない。
これ以上、煽られたら、本当に、移してしまいたくなる。
「お嬢様、私なら大丈夫です。一日休めばよくなりますから、もう、部屋にお戻りください」
あえて執事として振舞ったのは、演技をするため。
『本当は、傍にいて欲しい』と、そんな気持ちを、悟られないため。
「うん……分かったわ。私がここにいても休めないでしょうし……しっかり寝て、食事も、ちゃんと食べてね?あと、無理しないで困った時は頼らなきゃダメよ?」
「……はい」
すると、結月もまた名残惜しそうに、レオの傍から離れた。
顔を見て、安心した。
だけど、離れるとなると、無性に寂しくなった。だが、その時
コンコンコン──!
「五十嵐さん、相原です。入ってもいいですか~?」
「「!!?」」
直後、ノックの音が聞こえたかと思えば、それは、外で庭掃除をしていたはずの──相原 恵美だった。
「……っ」
結月が手にした『白い日記帳』を見て、レオがそう言えば、結月はじわりと冷や汗をかいた。
一瞬、嘘をつくべきかと悩んだ。
だが、嘘をついても、この執事には見破られてしまいそうだ。
結月は、そう思うと……
「よ……読みました」
「……っ」
「あ! でも、1ページだけよ!(見開き)1ページ! 他のページは、一切読んでないから、心配しないで!!」
「黒い方は?」
「へ?」
「手帳の方は、読んでない?」
手帳──そう言われ、結月はもうひとつの黒い手帳に目を向けた。
手の平に収まるくらいの『黒革の手帳』
それは所々擦れていて、かなり年季の入った手帳だった。
「?……こっちは……読んでないけど」
「…………そう」
素直に告げれば、一呼吸あいたのち、レオが安心したように呟いた。
その表情は、なんと形容しがたい複雑な表情をしていた。
「五十嵐……?」
「ごめん。夕べ、片付けるの忘れてた」
するとレオは、ベッドから抜け出し、結月の元へと歩み寄った。
結月が手にした『白い日記帳』と『黒革の手帳』を、二冊同時にうけとると、それを机の引き出しの中に隠す。
鍵付きの引き出しだ。厳重に、誰にも見られないようにしまい込んだ、その姿を、結月は、ただただ見つめていた。
(あの手帳には……何が書いてあるのかしら?)
漠然と、そんなことを思った。
大切な手帳なのだろう。
だが、それは、あの恥ずかしい日記以上に、読まれたくないものなのだろうか?
「それより……どうして、ここに?」
すると、再びレオが声をかけてきて、結月は、すぐさま我に返ると
「あ、それは、熱があるって聞いて……!」
「……心配して、わざわざ来てくれたのか?」
その瞬間、柔らかく微笑んだ執事の姿をみて、結月は頬を赤らめた。
嬉しそうに目を細めた姿は、普段と変わらない。だけど、どことなく気だるそうにも見えた。
「し、心配よ。ごめんね、私のせいで」
「……結月のせいじゃないよ」
「うんん、私のせい……私が、頼りないから……ごめんね。やっぱり、私……っ」
涙目になって俯けば、レオは、そっと結月の頬に触れた。
「結月、俺の日記を読んだんだよな? 読んでみて、どう思った?」
「……え?」
再度、日記の話を持ち出されて、結月は顔を赤らめた。
あの日記には、自分への思いが溢れていた。
恥ずかしくなるくらいの甘く優しい、愛の言葉が……
「あ、その……屋敷に来た時から……私のことを、好きだったんだなって」
「違うよ」
「え?」
「屋敷に来た時じゃなく、屋敷に来る前から、ずっとずっと結月のことが好きだった。結月は、自分のせいで俺が無理をしていると思ってるみたいだけど、俺は今、自分のためにこうしてる。結月を、誰にも渡したくないから──」
「……!」
真っ直ぐに見つめるその瞳には、自分だけが映っていた。それが、本心だと訴えるように……
何も出来ない自分は、彼には不釣り合いだと思った。
これ以上、無理をさせるくらいなら、もう、いっそのこと……そう、思っていた。
でも──
「私、五十嵐のこと……好きでいていいの? 私、看病ひとつ、まともに出来なくて……そんな私と一緒になって……五十嵐は、幸せ?」
「幸せだよ。むしろ、好きでいてくれなきゃ困る」
「……ッ」
ハッキリとそう返ってきて、結月は、思わずレオに抱きついた。
ダメな自分を見つける度に、迷いが生まれてしまう。完璧な彼の姿を目にする度に、劣等感に悩まされる。
だけど、今日ほど、彼に釣り合うような女性になりたいと思ったこともなかった。
「結月……ごめん。出来れば、もっとこうしていたいけど、風邪を移すといけないから、そろそろ離れて」
「……あ」
瞬間、目と目が合わさって、結月の顔は真っ赤になった。普段よりも高い彼の体温は、寒い廊下を歩いてきたせいか、冷えた体にはちょうど良かった。
できるなら、まだ、こうしていたい。
今はまだ、戻りたくない──…
「移して、いいわ」
「……!」
決して離れず、それどころか更にレオの胸に頬を寄せると、結月はポツリと呟いた。
「あ、あのね! 風邪は、人に移すと良くなると、昔どこかで聞いたの。だから、五十嵐の風邪も私に移せば、よくなるわ」
「……」
「あの、だから……その……私には、これしか、してあげられることがないから……だから、お願い。私に移して」
「……っ」
それは、冗談ではなく、紛れもなく本気の表情をしていて、レオは、酷く動揺してしまった。
移せば治ると、まだ信じているのか?
真剣に、自分の負担を減らそうとしている結月に、胸が熱くなった。
あぁ……君は、いつもそうやって、俺の心を揺さぶる。
「それ、嘘だよ」
「え!?」
だが、その瞬間、レオがそう言えば、結月は驚きのあまり、レオを見上げた。
「う、嘘!?」
「そうだよ。人に移しても、風邪は治らないよ。それに、お嬢様に風邪なんて移したら、執事失格なのでは?」
「……そ、それは、そうかもしれないけど……っ」
まさかの事実に、結月は軽く衝撃を受けた。
腕の中でシュンとする結月は、酷く落ち込んでいて、そんな結月を愛おしそうに見つめながら、レオはそっと結月の肩を掴むと、その後、結月を引き離した。
熱のせいか、上手く理性が効かない。
これ以上、煽られたら、本当に、移してしまいたくなる。
「お嬢様、私なら大丈夫です。一日休めばよくなりますから、もう、部屋にお戻りください」
あえて執事として振舞ったのは、演技をするため。
『本当は、傍にいて欲しい』と、そんな気持ちを、悟られないため。
「うん……分かったわ。私がここにいても休めないでしょうし……しっかり寝て、食事も、ちゃんと食べてね?あと、無理しないで困った時は頼らなきゃダメよ?」
「……はい」
すると、結月もまた名残惜しそうに、レオの傍から離れた。
顔を見て、安心した。
だけど、離れるとなると、無性に寂しくなった。だが、その時
コンコンコン──!
「五十嵐さん、相原です。入ってもいいですか~?」
「「!!?」」
直後、ノックの音が聞こえたかと思えば、それは、外で庭掃除をしていたはずの──相原 恵美だった。
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