上 下
131 / 289
第14章 夢を叶えるために

ターゲット

しおりを挟む
 その後、3日がたち、火曜日の朝。
 結月は鏡の前で、打ちひしがれていた。

 なぜなら、土曜の夜に付けられた、あのキスマークが、いまだに消えていないからだ!

(こ……こんなに消えないものなの?)

 制服に着替えながら、結月は、軽く衝撃を受けた。
 だいぶ薄くはなっているが、まだ完全には消てない。何より、結月はとっては初めての経験。

 知らなかった。
 キスマークが、こんなにも長く残るものだなんて!(←個人差があります)


(消す方法は、ないのかしら?)

 今日は、体育があるから、着替える時が心配だ。結月は、顔を赤らめ、そのあとに触れる。

(もし、こんな跡を誰かに見られたりしたら)

 いくらお嬢様学校とはいえ、まったくセキララな話が飛びかわない訳ではない。

 それに、キスマークなんて見られたら、明らかにそういう行為を経験済みだと思われる。

 それは、絶対にさけたい。

 というか、本当に経験してないから、変な誤解は抱かれたくないし、万が一父や母の耳に入ったりしたら、最悪だ。

(あとで、五十嵐に、消し方知らないか聞いてみようかしら?)

 あの万能すぎる執事なら、キスマークの消し方も、知ってるかもしれない。

 と、おもったのだが……

(あ、でも、つけた本人に消し方を聞くのは失礼かしら?)

 なにが失礼にあたるのかは、自分でも分からないが、これが手紙や絵だとしたら、本人に消してくれは、あまりにも失礼。

 それに、下手なことをいえば、消すどころか、もっと付けられる。ただでさえ、隙あらばスキンシップをはかろうとしてくる執事だ。

 逆鱗に触れたら、次は何をされるか……

(っ……やっぱり、五十嵐に聞くのはやめましょう)

 肩から手を離すと、結月は諦め、手早く着替えを終わらせた。だが、その瞬間、ふと気になった。

(そういえば……五十嵐って、今までどのくらい女性と付き合ってるのかしら?)

 見た目もかっこいいし、何より優しいし、執事だけあってなんでも出来る。

 前に、デパートに買い物に行った時も、女性に声をかけられていたから、きっと、それなりにモテたのではないかと思う。

 女性経験なんてあって当たり前だろうし、自分の以外の女性に、こうしてキスマークをつけたことも、あるのかもしれない。

 例えば──

(ルイさん……とか?)

 不意に、あの美人な外国人女性のことを思い出した。

 五十嵐は「彼女ではない」と言っていたが、今は付き合ってなくても、元カノだった可能性もある。

(あんなに綺麗な方だもの。男性なら、きっと、ほっとかないわ)

 女として、軽く敗北感を味わう。なによりルイさんは、五十嵐のことを、とても、よく知っていた。

 それはきっと、自分以上に──

「やっぱり、そういう関係だったのかしら?」

「なにがですか?」

「きゃ!?」

 だが、その瞬間、真横から声をかけられて、結月は跳ね上がった。見れば、そこには、普段と変わらない執事の姿があって

「い、五十嵐!?」

「失礼致します、お嬢様。ノックをしても返事がなかったもので」

「あ、うそ、ごめんなさい!」

「それより、なにか悩み事ですか?」

「え?」

「少し、思い詰めていらしたようなので……」

 軽く小首を傾げながら、執事が問いかけると、結月は、ほのかに頬を赤くした。

 自分が、彼の彼女だなんて、まだ信じられない。目が覚める度に、夢だったのではと思う。だけど……

「あの、その……は、本当に五十嵐の彼女ではないの?」

「……え?」

 結月が恐る恐る聞けば、執事はキョトンと首を傾げ

「何を悩んでいるのかと思えば、俺の事なの?」

 と、どこか嬉しそうな笑みを浮かべた執事は、その後、遊ぶように結月の髪に触れた。

「まだ、信じらない?」

「だ、だって、あんなに綺麗な方、なかなかいないし、五十嵐のことも、すごく分かってるみたいだったし、私よりもお似合いというか……もしかして、元カノだったのかなとか、それに、ルイさんじゃなくて、私を選ぶ意味がよく分からないわ」

(わからないも、なにも、あいつだし)

 あんなに綺麗でも、レオからしたら、ただの男。だが、女と思い込んでる結月にとっては、切実な話なのかもしれない。

 とはいえ、ルイの存在にヤキモチをやく結月は、見ていて、とても気分がよかった。

 そして、ここ数日、結月の思考が、自分のことで、いっぱいなことが……

「ルイは、ただの悪友ですよ。アイツを女としてみたことなんて、一度もありません」

「ほんとに?」

「はい。それに、私は今も昔も、お嬢様だけをお慕いしております。ほかの女の入る余地など、ありませんよ。……しかし、朝から、そんなことで悩んでいるなんて」

 くるくると結月の髪を弄んでいたレオの指先が、頬に移動した。……かと、思えば、そのまま、くいっと顎を持ち上げられ

「このまま、キスをしても宜しいですか?」

「えぇぇ!? なんでそうなるの!?」

 いきなり、とんでもない了承を得に来た執事に、結月は顔を真っ赤にしてうろたえた。

「ダ、ダメに決まってるでしょ! ここは屋敷の中で、ちゃんと隠す気あるの!?」

「そう、申されましても……お嬢様が、朝っぱらから、こんなにも可愛らしく誘ってくるので」

「誘ってないわ! 私は、ルイさんのことを聞いただけじゃない!」

「ああ、無自覚なんですね? それは、またタチが悪い」

 でも、そこがまた可愛いとでもいうように、そっと頬に口付けられた。

 唇はダメだと思ったのか、頬にだけ繰り返しキスをする執事を、結月も恥じらいつつ受け入れる。

 だが、そのキスは、気を抜けば、すぐにでも唇に触れてしまいそうで……

「ちょ……もう、いいでしょ……っ」

「ダメです。あと、少しだけ」

「ん……っ」

 唇が頬に触れる度に、鼓動はどんどん早くなる。

 だが、そうして素直に受け入れる結月に、レオも内心参っていた。

 せっかく執事の仮面をつけて出てきたのに、こうもあっさり外されてしまうなんて……これでは、執事としての業務にも差し支える。

 だが、もうあの夜から、自分の理性というストッパーは、壊れたまま治る兆しがない。

 さすがのレオも、それには軽い危機感を抱いていた。

 今、この屋敷には、まだ使用人が二人残ってる。

 彼女たちに見られる訳にはいかないのに、結月の言動ひとつで、こうも心を揺さぶられる。

 触れたくて、たまらなくなって、気がつけば、いつもこうして、ちょっかいをかけてしまう。

(……早いところ、あの二人を追い出さないとな)

 結月の頬に口付けながら、レオは、そんなことを思う。


 残るターゲットは、二人。

 まず、一人目は
 最近、彼氏と別れたといっていた



 ───冨樫とがし 愛理あいり


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...