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第12章 執事の恋人
執事の夢
しおりを挟む『結月ちゃん、レオのこと好きだよね?』
「……え?」
瞬間、結月は瞠目する。
目を細め、美しく微笑みながら紡がれた、ルイのその言葉は、まるで確信を持つような声で──
「え!? あ、あの、私……!」
(あはは……顔真っ赤。わかりやすいなー)
すると、慌てふためく結月を見て、ルイは更に表情をゆるませた。
耳まで赤くし恥じらう姿は、とても微笑ましかった。なにより、その表情から、ルイは更なる確信を得る。
やっぱり彼女は、今、レオのことが好きなのだと──
『ずっと、気になってたんだ』
「え?」
『レオから、あまりわがままを言わないお嬢様だって聞いていたから、どうしていきなり、執事の彼女に会いたいだなんて、言い出したのかなって……』
「……っ」
わがまま──その言葉に、結月は身を縮め萎縮する。きっと、困らせていたのだと思った。自分が突然言い出した、わがままのせいで……
「ッ……ごめんなさい」
『あ……』
だが、その瞬間、結月が申し訳さそうに、瞳を潤ませたのがわかって、ルイは「しまった」と結月の前に身を乗り出だすと、そのまま言葉を続けた。
『ごめん、ごめん。別に怒ってるとかじゃなくて……ねぇ、レオのどこが好きなの?』
「え?」
『結月ちゃん、レオのことが好きなんでしょ? なら、レオのどこを好きになったの?』
そう言って、柔らかく微笑むルイは、確かに怒っている風には見えなかった。
それどころか、不思議と、喜んでるようにすら見えて、結月は、恐る恐る、その問いに答え始める。
「五十嵐は、どんな時も、私の味方でいてくれるんです。お父様やお母様じゃなくて、私のことを一番に考えてくれて……それに、私が悲しんでいたら慰めてくれるし、落ち込んでいたら、笑わせてくれて、五十嵐と話していると、不思議と心が楽になります。ただ傍にいてくれるだけで、私……っ」
『……』
「あ! でも、だからと言って、五十嵐とどうしたいとか、どうなりたいとか、そんなことは全く考えてなくて! あの、本当に──ごめんなさい!!」
直後、ソファーから立ち上がったかと思えば、結月は、ルイに向け、勢いよく頭を下げた。
だが、いきなり謝罪しはじめた結月を見て、今度は、ルイは瞠目する。
(あ、そっか……今の僕、レオの彼女なんだっけ?)
これは、ややこしいことになってきた。
元々、結月が記憶を取り戻したあと、面倒なことになりそうだとは思っていた。だが、思い出したのなら、事情を話しさえすれば、なんとかなるだろうと思っていた。
だけど、今の彼女は、まだ記憶を思い出してはいない。そう、今彼女が好きなのは、8年前に将来を誓い合った"望月 レオ"ではなく
執事の──五十嵐 レオ。
(……参ったな)
この状況を、どう打開したら二人は結ばれるのか? ルイは眉根を寄せ考える。
仮にここで、自分がレオの悪口を言って「別れたい」と結月に言ったところで、レオの株下げるだけ。かといって、レオの彼女(偽)である自分が、結月に略奪愛を仕向けるのも、おかしな話だ。
なにより、そのような不純な恋愛を、彼女は好みはしないだろう。
むしろ彼女は今、忘れようとしてる。
レオへの想いを──
「ルイさん、本当に、ごめんなさい……っ」
『……謝らなくていいよ。人を好きになるって、頭じゃなくて"心"でするものだよ。心が、ただ求めただけ。だから、結月ちゃんがレオを好きになったことは、なにも悪いことじゃないよ』
「でも……」
『まぁ、相手に恋人がいるってのは、辛い恋ではあるけれど……でも、結月ちゃんは、私からレオを奪おうとしているわけじゃないよね。むしろ、なかったことにしようとしてるのかな。レオを、好きになったこと』
「……っ」
全て見透かすような、その青い瞳に結月は息をのんだ。その通りだ。全てルイさんの言う通り──
「はい……そうです」
『…………』
素直に返事を返すと、ルイはその結月の返答に複雑な心境を抱く。
『そう……だから、私に会いたいとおもったんだね。私とレオが仲良くしているところを見れば、その気持ちに区切りを付けられるとでも思ったから』
「……はい。ごめんなさい、私のわがままに巻き込んでしまって……ルイさんのおっしゃる通り、私はこの気持ちを、全部なかったことにしたいと思っています」
『出来るの?』
「え?」
『レオを好きだってその気持ち、全てなかったことになんて、本当に出来るの?』
「それは……っ」
心の中を満たすのは、これまで過ごした、五十嵐との時間。
それを、全部なかったことになんて、すべて忘れるなんて、本当に出来るかは、結月にも分からなかった。
「……分かりません。でも、なかったことにしなくては、ダメなんです。私は、五十嵐が好きです。でも、この気持ちを持ち続けても、誰も幸せにはなりません。私には婚約者がいて、ゆくゆくは、その方と結婚します。もし、私が五十嵐を……執事のことを、好きだなんて知られてしまったら、きっと、五十嵐は、執事を辞めさせられてしまいます」
『……』
「私は、五十嵐の『夢』を応援したいです。五十嵐は、中学からの夢を叶えて、今やっと執事になれたんです。その夢を、私のせいで……ダメにしたくはないんです……っ」
切実に訴える結月の声に、ルイは胸を痛めた。
婚約者がありながら、彼女は執事に恋をした。どうしたって、叶わぬ恋。だからこそ彼女は今、全て忘れようとしてる。
レオのために──
そう、レオが、この先もずっと、執事として生きていけるように
『レオの夢は……そんなんじゃないんだけどな』
「え?」
『結月ちゃんは、レオのこと、何もわかってないね』
「……っ」
だが、その後、放たれた言葉に、結月は打ちのめされる。
何も分かってない。その事実に、結月は自身の胸元をキツく握りしめた。
だが、そんな結月をみつめながら、ルイは再度、レオのことを思い浮かべた。
(ごめん、レオ。余計なことは話すなって、口止めされたけど……)
やっぱりここは『全て』話しておいた方がいいような気がした。
自分が男で、レオの友人だということも、レオの本当の夢も、そして彼女が、レオの本当の恋人だということも──
『結月ちゃん』
再度、目を合わせると、ルイは真剣な表情で結月を見つめ返した。
『結月ちゃんの秘密、教えてもらったから、今度は、私の秘密も教えてあげるね』
「え? 秘密?」
その言葉に、結月はゴクリと息を飲む。
「うん。実は僕──」
コンコンコン!!
「!?」
だが、その瞬間、部屋の扉を叩かれた。
会話が中断し、結月とルイが同時に部屋の入口に目を向ければ、その扉の奥から、申し訳なさそうに、メイドの恵美が顔を出し
「お嬢様、申し訳ありません。実は今、冬弥様から、お電話が入っておりまして、お嬢様に繋いで欲しいと」
「え? 冬弥さんが?」
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