89 / 289
第10章 餅津木家とお嬢様
ドレスと手紙
しおりを挟む
「五十嵐さん、見てください。お嬢様、とってもお似合いですよ!」
「……!」
すると、奥の部屋から恵美の声が聞こえて、レオは顔を上げた。
見ればそこには、真っ赤なドレスに身を包んだ結月が、すこし恥ずかしそうにして、カーテンの奥から出てくるのが見えた。
肩出しのマーメイドラインのドレスだ。
赤一色と一見派手にも見えるが、その深みのある赤は、結月の白い肌と茶色がかった黒髪を見事に引き立て、不思議と上品で落ち着いた印象に仕上がっていた。
細部まで施された刺繍は、とても華やかで、広く開いた胸元と美しいデコルテのライン。
そして、細い腰から太ももにかけて沿うように流れるドレスは、まさに人魚のように艶やかで、とても美しい。
今は髪を下ろしているが、これで髪を上げ、ネックレスやイヤリングなどを付ければ、きっと、どこのお嬢様にも引けを取らないだろう。
(……綺麗だ)
普段とは、全く違う結月の姿に、レオはただ呆然と、その姿に見つめた。
いつもは、ゆったりとしたブラウスに、ロングスカートというスタイルが多い結月。
あまり身体のラインが出ない服を着ているせいか、その色気のある姿には、自ずと鼓動が早まった。
なにより、とても綺麗だと思った。
まさに、目もくらむほど──
「……あの、どこか変?」
「あ、いえ……滅相もございません!」
黙ったまま、何も言わない執事に結月が不安げに尋ねると、レオは慌てて言葉を発した。
レオだって、まさかここまで色っぽい姿で出てくるとは思っていなかったのだ。
「とても、お綺麗です。お嬢様」
「そう……ありがとう」
恥じらいながらも嬉しそうに笑う結月に、自然と頬が緩みそうになった。
だが、今のレオは、あくまでも執事でいなくてはならない。
恵美もいるこの状況で、お嬢様に好意を抱いているそぶりなんて、一ミリたりとも見せてはいけない。
そう思うと、高鳴る感情を必至に押さえ込み、レオはいつも通り振る舞う。
「サイズや着丈はいかがですか?」
「それが、まるで測ったみたいにピッタリなの!」
(そりゃ、俺たちが……)
(しっかり調べましたからね)
すると恵美とレオは、夏休み、お嬢様のスリーサイズを調べるために奮闘した日を、懐かしく思う。
だが、バレないようにと、頑張ったかいもあり、そのドレスは、結月のスタイルの良さを最大限に引き出し、とてもよく似合っていた。
「でも、驚いたわ。まさかお母様が、私にドレスをプレゼントして下さるなんて」
「ホントですよ! よかったですね、お嬢様! なにより、とってもお綺麗です!」
「ありがとう、恵美さん。でも、このドレス、少し露出が高くないかしら?」
すると、結月は大胆に開いた自分の胸元を、手で隠すようにして押さえた。
赤いドレスに、赤いピンヒール。
大人の色気を押し出すようなそのドレスは、確かに、若干露出度が高い。
胸元は谷間までしっかり見えているし、スカートには深いスリットが入っていて、細く柔らかそうな太股が、ちらりと覗く。
身体のラインがしっかり出ているのもあってか、正直そのドレスは──とても"際どい"。
(確かに、似合ってはいるけど、この姿を他の男には見せるのはな……)
そして、その姿を見て、レオは改めて考える。
できるなら、あまり肌を晒さない清楚なドレスにしてほしかった。
まぁ、あの派手な母親が、好みそうなデザインでもあるが……
「お嬢様。胸元が気になるのなら、ショールで隠すというのはいかがでしょうか? それでも抵抗があるなら、あえて着る必要は」
「それは、ダメよ。せっかくお母様が選んでくださったのに」
「そうですよ、五十嵐さん! それに、お嬢様なら大丈夫です! スタイルいいんですから、どんどん見せていきましょう!」
(だから、見せなくていいって……)
自分とは真逆の提案をする恵美に、軽く苛立ちつつも、これ以上、私情を挟むわけにはいかない──と、レオは気持ちを切り替えると、先程、手にした手紙を結月に差し出す。
「お嬢様、こちらは、奥様からのお手紙のようです。袋の底に入っておりました」
「……え? 手紙まであるの?」
その手紙を手に取ると、結月は封を切り、中を確認する。すると
「モチヅキ──」
「え?」
「あ、手紙に書いてあるの。今月末、"餅津木 幸蔵様"のご子息、春馬さんの誕生パーティーが開かれるから、このドレスをきて出席するようにって」
「…………」
結月がレオに手紙を渡すと、レオもまた、その中身を確認する。
手紙の中には、美結が書いた手紙と一緒に、パーティーの招待状が入っていた。
だが、その『餅津木』という名前を見て、レオは目を細めた。
大型商業施設を中心に、数多くの総合レジャー施設を手がける『餅津木グループ』は、ここ10年ほどで、大きく躍進してきた企業だ。
そのチェーン店は全国に渡り、今一番勢いのある企業。
そんな企業の次期社長でもある春馬の誕生パーティーに招かれたとなれば、気合いが入るのも頷ける。
だが──
(どうやら、素直に娘へのプレゼントってわけじゃなさそうだな)
このタイミングで、早急にドレスを仕立てたということは、やはり何か裏があるのだろう。
多少、懸念していたが、どうやら的中したらしい。
(一体、何を企んで……)
赤いドレスを着た結月を見て、レオは招待状を握る手に微かに力を込めた。
その『餅津木』という名に、一抹の不安を宿しながら──
「……!」
すると、奥の部屋から恵美の声が聞こえて、レオは顔を上げた。
見ればそこには、真っ赤なドレスに身を包んだ結月が、すこし恥ずかしそうにして、カーテンの奥から出てくるのが見えた。
肩出しのマーメイドラインのドレスだ。
赤一色と一見派手にも見えるが、その深みのある赤は、結月の白い肌と茶色がかった黒髪を見事に引き立て、不思議と上品で落ち着いた印象に仕上がっていた。
細部まで施された刺繍は、とても華やかで、広く開いた胸元と美しいデコルテのライン。
そして、細い腰から太ももにかけて沿うように流れるドレスは、まさに人魚のように艶やかで、とても美しい。
今は髪を下ろしているが、これで髪を上げ、ネックレスやイヤリングなどを付ければ、きっと、どこのお嬢様にも引けを取らないだろう。
(……綺麗だ)
普段とは、全く違う結月の姿に、レオはただ呆然と、その姿に見つめた。
いつもは、ゆったりとしたブラウスに、ロングスカートというスタイルが多い結月。
あまり身体のラインが出ない服を着ているせいか、その色気のある姿には、自ずと鼓動が早まった。
なにより、とても綺麗だと思った。
まさに、目もくらむほど──
「……あの、どこか変?」
「あ、いえ……滅相もございません!」
黙ったまま、何も言わない執事に結月が不安げに尋ねると、レオは慌てて言葉を発した。
レオだって、まさかここまで色っぽい姿で出てくるとは思っていなかったのだ。
「とても、お綺麗です。お嬢様」
「そう……ありがとう」
恥じらいながらも嬉しそうに笑う結月に、自然と頬が緩みそうになった。
だが、今のレオは、あくまでも執事でいなくてはならない。
恵美もいるこの状況で、お嬢様に好意を抱いているそぶりなんて、一ミリたりとも見せてはいけない。
そう思うと、高鳴る感情を必至に押さえ込み、レオはいつも通り振る舞う。
「サイズや着丈はいかがですか?」
「それが、まるで測ったみたいにピッタリなの!」
(そりゃ、俺たちが……)
(しっかり調べましたからね)
すると恵美とレオは、夏休み、お嬢様のスリーサイズを調べるために奮闘した日を、懐かしく思う。
だが、バレないようにと、頑張ったかいもあり、そのドレスは、結月のスタイルの良さを最大限に引き出し、とてもよく似合っていた。
「でも、驚いたわ。まさかお母様が、私にドレスをプレゼントして下さるなんて」
「ホントですよ! よかったですね、お嬢様! なにより、とってもお綺麗です!」
「ありがとう、恵美さん。でも、このドレス、少し露出が高くないかしら?」
すると、結月は大胆に開いた自分の胸元を、手で隠すようにして押さえた。
赤いドレスに、赤いピンヒール。
大人の色気を押し出すようなそのドレスは、確かに、若干露出度が高い。
胸元は谷間までしっかり見えているし、スカートには深いスリットが入っていて、細く柔らかそうな太股が、ちらりと覗く。
身体のラインがしっかり出ているのもあってか、正直そのドレスは──とても"際どい"。
(確かに、似合ってはいるけど、この姿を他の男には見せるのはな……)
そして、その姿を見て、レオは改めて考える。
できるなら、あまり肌を晒さない清楚なドレスにしてほしかった。
まぁ、あの派手な母親が、好みそうなデザインでもあるが……
「お嬢様。胸元が気になるのなら、ショールで隠すというのはいかがでしょうか? それでも抵抗があるなら、あえて着る必要は」
「それは、ダメよ。せっかくお母様が選んでくださったのに」
「そうですよ、五十嵐さん! それに、お嬢様なら大丈夫です! スタイルいいんですから、どんどん見せていきましょう!」
(だから、見せなくていいって……)
自分とは真逆の提案をする恵美に、軽く苛立ちつつも、これ以上、私情を挟むわけにはいかない──と、レオは気持ちを切り替えると、先程、手にした手紙を結月に差し出す。
「お嬢様、こちらは、奥様からのお手紙のようです。袋の底に入っておりました」
「……え? 手紙まであるの?」
その手紙を手に取ると、結月は封を切り、中を確認する。すると
「モチヅキ──」
「え?」
「あ、手紙に書いてあるの。今月末、"餅津木 幸蔵様"のご子息、春馬さんの誕生パーティーが開かれるから、このドレスをきて出席するようにって」
「…………」
結月がレオに手紙を渡すと、レオもまた、その中身を確認する。
手紙の中には、美結が書いた手紙と一緒に、パーティーの招待状が入っていた。
だが、その『餅津木』という名前を見て、レオは目を細めた。
大型商業施設を中心に、数多くの総合レジャー施設を手がける『餅津木グループ』は、ここ10年ほどで、大きく躍進してきた企業だ。
そのチェーン店は全国に渡り、今一番勢いのある企業。
そんな企業の次期社長でもある春馬の誕生パーティーに招かれたとなれば、気合いが入るのも頷ける。
だが──
(どうやら、素直に娘へのプレゼントってわけじゃなさそうだな)
このタイミングで、早急にドレスを仕立てたということは、やはり何か裏があるのだろう。
多少、懸念していたが、どうやら的中したらしい。
(一体、何を企んで……)
赤いドレスを着た結月を見て、レオは招待状を握る手に微かに力を込めた。
その『餅津木』という名に、一抹の不安を宿しながら──
2
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる