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第4章 執事の策略

お嬢様のお世話

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 パタン──

 それから、部屋に戻った結月は、広い部屋の中をぐるりと見回した。

「五十嵐、いるの?」

 部屋から出ているのか、見る限り執事の姿はなく、結月は背後にある扉にもそっとたれかかると、そっと胸を撫で下ろした。

(これから、どうしよう……っ)

 とりあえず、決まってしまったものは仕方ない。

 だが、いくら彼女がいようが、相手が『異性』なのは確か。しかも、身の回りの世話を全てとなると、今後は五十嵐が四六時中、結月に付添うことになる。
 そう思うと、やはり前の執事のことがあるからか、少し不安だった。

「あ、お嬢様、お戻りですか?」
「……!」

 すると、どうやら部屋の中にいたらしい。

 その瞬間、奥のカーテンが開かれると、中から執事がひょっこりと顔を出した。

 衣装や小物が整理されたその小部屋は、いわゆるウォークインクローゼットのようなもので、中には6畳ほどの空間がある。

 レオは、その中から出ると、結月の制服を一式手にして、またにっこりと微笑みかけた。

「お召し物を、ご用意いたしました」

「あ、ありがとう」

「いえ。ただ、はどれがよいのかわからなかったので、お気に召さない時は、また仰ってください」

「……え?」

 し、下着!?

 なんの躊躇いもなく放たれた言葉に、結月は顔を引き攣らせた。

 見れば、制服のスカートやブラウスと共に、レースがあしらわれた白のブラジャーとショーツ、そしてキャミソールといった下着の類が、五十嵐の手元にあるのが見えて

「ッ──ちょ、ちょっと待って!? 下着まで用意しなくていいわ!」

「あぁ、私のことは気になさらないでください。これもですから」

「し、仕事だけど、そういう問題じゃないの! 私が気にするの! それに、未来の夫でもないのに、男性に下着をみられるなんて、私……っ」

(心配しなくても、俺が将来、お前のになるんだよ)

 顔を真っ赤にし、今にも泣き出しそうな勢いで声を震わせる結月をみつめ、レオが心の中でつっこむ。

 だが、それなりに異性として意識しているようで、恥ずかしがる結月をみるのは、実に楽しかった。

「それより、もう直、朝食のお時間ですので、早めにお支度を」

「あ、はい……!」

 早めに──と促され、結月は渋々了承すると、その後、レオは衣類をベッドの上に置き、結月の前に立つ。

「少し、じっとしててくださいね?」
「?」

 そういわれ、結月は言われるままじっと立ち尽くす。すると、なにを思ったか、執事は結月の胸元に手を伸ばし、服のボタンを一つ一つ外し始めた。

 首元から胸に向かってあしらわれたボタンを外せば、白い肌が少しだけ露わになった。

 そして、三つ目のボタンに差し掛かった時───

「な……ッ!!?」

 やっとのこと我に返った結月は、慌てて自身の胸元を掻き抱くと、大きく声を発した。

「ななな、な、なにしてるの!?」

「え? ですから、着替えの手伝いを」

「脱がすとこから!!?」

 もはや、半泣き状態だった。まさか、服を脱がすのも手伝おうとするなんて!

「き、着替えは一人でできます!!」

「あれ、そうでしたか? 相原が『脱がすのも着せるのも手伝っていた』といっていたので、てっきり」

「それは、恵美さんが女性だからで! とにかく、一人でするから、着替えは手伝わなくていいわ!! 五十嵐はここで待ってて!!」

 顔を真っ赤にして声を荒らげると、結月はベッドに置かれた制服一式を手にして、部屋の奥の小部屋に逃げ込んだ。

 カーテンがシャッと引かれると、それはまるで『入るな』と言わんばかりの音をたてる。

(ふふ……少し、強引だったかな)

 レオは、口元を覆い、クスリと微笑む。

 だが、これも全てお嬢様のため。
 そして、二人の──『未来』のため。

(……そうそう。もう18なんだし、自分で出来ることは、自分で出来るようになってもらわないとね)

 カーテン一枚隔てた先では、愛しい女が、服を脱ぎ着替えをしている。

 なかなか刺激的なシュチュエーションだが、それ以上、結月をからかおうとは思わなかった。

 きっと自分が、その服を脱がすのは、その肌に直接触れることができるのは……まだ少し、先の話だろう。

 そんなことを漠然と考えながら、レオは結月が着替えをすませて出てくるのを、大人しく待ったのだった。
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