114 / 114
第三章
第十話
しおりを挟む
「影渡り」で宙へと飛び出し、間一髪で奇襲から逃れた魔王の卵たち。
それを静かに睨む「金級」パーティ「夜明けの旅団」メンバー、「紅き黒猫」のキリカ。
ラーラ同様「闇」魔法の使い手である彼女は、グレア達が往路に残した微量な魔力を辿り、生身で南北横断してここまでやって来たのである。
グレア達は空中で素早く言葉を交わし、互いの顔を見合わせて力強く頷いた。
二人が落下する。
着地と同時にキリカが「影渡り」する。
「やあっ!」
グレアが叫び声とともに「隼斬り」を放つ。
二枚の刃はかち合い、グレアが敵を押しのける。
グレアが隙を逃さず、すかさず追撃を与える。
その刹那、敵は全身をしなやかにくねらせ、攻撃を避けながら懐に入り込もうとする。
だが、それを途中で止め、キリカは地面を蹴って素早く側転し、自ら離れる。
先程までキリカの立っていた場所を、「星滅刀」の黒く鋭い一閃が横切る。
敵はラーラの攻撃に気付いていたのだ。
両者ともに絶好の機会を逃したが、「次の機会」により近かったのは人数で「猫」に勝るグレア達の方であった。
グレアは剣の先端に魔力を溜め、そこから敵の眼球目掛けて「鎌鼬」を飛ばした。
一発目は躱されるが、二発目は頬を浅く切り裂き、鮮血が風に乗って後方へ飛んでいく。
「相方」の稼いだ時間でラーラは両手に十分な魔力を蓄えた。
全ての指から一本ずつ「闇針」を放出する。
関節が曲がるごとに向きが変わるが、キリカは必死で身を翻し、攻撃を紙一重で回避する。
グレアも剣を右手一本で支えながら、左手で「絹糸」の網を張り巡らす。
白黒な死の有刺鉄線の中を、盗賊は二つ名の通り身軽に跳び回る。
だが左太腿と右肩に被弾されると、たまらず「網目」の間を縫って上方向への「影渡り」で空中へ逃げ出した。
(妙ですね…)
ラーラは考えた。
(あの短剣は「見かけ以上に刃渡りが長い」か、中距離を攻撃できる強力な「闇」魔法があるか、そうじゃないとあんなに太い樹をあれほど綺麗に斬ることは出来ない。でも、何故かこんなにリスクを背負ってまで接近戦を選んでいる…)
「…めんどうくさいな」
満身創痍の暗殺者が、空中でひとり呟く。
「でも、しょうがないか」
彼女は肩を覆っていた布に噛み付くと、そのまま引き千切って飲み込んだ。
謎だらけな敵の「奇行」を目の当たりにしたグレアは、牽制の為に落下中の敵目掛けて「中火球」二つを放った。
次の瞬間、空中に現れた黒色の球体中にそれらは吸い込まれて消滅する。
だが彼女らが焦ったのはその後だった。
消滅した黒い球体の向こう側に「使い手」の姿はなかったのだ。
気付いた頃にはもう遅い。
大急ぎで上半身を反らしながら振り返ったグレアの左腕が、根元から切断されて地面に落下する。
髪の毛や耳たぶ、大量の血液がそれを追うように続いて落ちる。
「があああああああ!!!」
声にならない悲痛の悲鳴。
「グレア様ァア!!」
ラーラが半狂乱で「影渡り」して敵に近付き、腕を振り回し、矢継ぎ早に「星滅刀」、「喰」、「闇球」を繰り出す。
キリカは一歩も動かずその場で刃を振るう。黒い斬撃が短剣の周辺に出現し、魔力で劣るラーラの連続攻撃を次々正面から打ち消していく。のみならず、最後に放った斬撃はラーラの方へ真っ直ぐ飛んでくる。
我を忘れ、理性を投げ捨て、攻撃に全神経を集中していたラーラに回避する術はなかった。
突如、ラーラは横から何者かに激突され、その人物と一緒に激しく地面を転がった。攻撃は真横をすり抜けていった。
「お許しください、ラーラ様」
身を挺して命を救ったのはグレア。
「駿馬」の速度を維持したまま、身体全体という大きな面積でぶつかる。
衝撃は大きく、ダメージは少なく。機転を利かせた苦肉の策だった。
グレアは立ち上がると、剣を構えて敵と対峙した。
剣を握る手は「二本」だった。
「キリカナム教団」から盗んだ「接木」が機能し、斬り落とされた左腕をくっつけたのだ。
(あいつ、腕をくっつけた。おもしろい魔法…帰ったらマギクに話そう…)
「想い人」を頭に浮かべながら、キリカも敵と対峙した。
それを静かに睨む「金級」パーティ「夜明けの旅団」メンバー、「紅き黒猫」のキリカ。
ラーラ同様「闇」魔法の使い手である彼女は、グレア達が往路に残した微量な魔力を辿り、生身で南北横断してここまでやって来たのである。
グレア達は空中で素早く言葉を交わし、互いの顔を見合わせて力強く頷いた。
二人が落下する。
着地と同時にキリカが「影渡り」する。
「やあっ!」
グレアが叫び声とともに「隼斬り」を放つ。
二枚の刃はかち合い、グレアが敵を押しのける。
グレアが隙を逃さず、すかさず追撃を与える。
その刹那、敵は全身をしなやかにくねらせ、攻撃を避けながら懐に入り込もうとする。
だが、それを途中で止め、キリカは地面を蹴って素早く側転し、自ら離れる。
先程までキリカの立っていた場所を、「星滅刀」の黒く鋭い一閃が横切る。
敵はラーラの攻撃に気付いていたのだ。
両者ともに絶好の機会を逃したが、「次の機会」により近かったのは人数で「猫」に勝るグレア達の方であった。
グレアは剣の先端に魔力を溜め、そこから敵の眼球目掛けて「鎌鼬」を飛ばした。
一発目は躱されるが、二発目は頬を浅く切り裂き、鮮血が風に乗って後方へ飛んでいく。
「相方」の稼いだ時間でラーラは両手に十分な魔力を蓄えた。
全ての指から一本ずつ「闇針」を放出する。
関節が曲がるごとに向きが変わるが、キリカは必死で身を翻し、攻撃を紙一重で回避する。
グレアも剣を右手一本で支えながら、左手で「絹糸」の網を張り巡らす。
白黒な死の有刺鉄線の中を、盗賊は二つ名の通り身軽に跳び回る。
だが左太腿と右肩に被弾されると、たまらず「網目」の間を縫って上方向への「影渡り」で空中へ逃げ出した。
(妙ですね…)
ラーラは考えた。
(あの短剣は「見かけ以上に刃渡りが長い」か、中距離を攻撃できる強力な「闇」魔法があるか、そうじゃないとあんなに太い樹をあれほど綺麗に斬ることは出来ない。でも、何故かこんなにリスクを背負ってまで接近戦を選んでいる…)
「…めんどうくさいな」
満身創痍の暗殺者が、空中でひとり呟く。
「でも、しょうがないか」
彼女は肩を覆っていた布に噛み付くと、そのまま引き千切って飲み込んだ。
謎だらけな敵の「奇行」を目の当たりにしたグレアは、牽制の為に落下中の敵目掛けて「中火球」二つを放った。
次の瞬間、空中に現れた黒色の球体中にそれらは吸い込まれて消滅する。
だが彼女らが焦ったのはその後だった。
消滅した黒い球体の向こう側に「使い手」の姿はなかったのだ。
気付いた頃にはもう遅い。
大急ぎで上半身を反らしながら振り返ったグレアの左腕が、根元から切断されて地面に落下する。
髪の毛や耳たぶ、大量の血液がそれを追うように続いて落ちる。
「があああああああ!!!」
声にならない悲痛の悲鳴。
「グレア様ァア!!」
ラーラが半狂乱で「影渡り」して敵に近付き、腕を振り回し、矢継ぎ早に「星滅刀」、「喰」、「闇球」を繰り出す。
キリカは一歩も動かずその場で刃を振るう。黒い斬撃が短剣の周辺に出現し、魔力で劣るラーラの連続攻撃を次々正面から打ち消していく。のみならず、最後に放った斬撃はラーラの方へ真っ直ぐ飛んでくる。
我を忘れ、理性を投げ捨て、攻撃に全神経を集中していたラーラに回避する術はなかった。
突如、ラーラは横から何者かに激突され、その人物と一緒に激しく地面を転がった。攻撃は真横をすり抜けていった。
「お許しください、ラーラ様」
身を挺して命を救ったのはグレア。
「駿馬」の速度を維持したまま、身体全体という大きな面積でぶつかる。
衝撃は大きく、ダメージは少なく。機転を利かせた苦肉の策だった。
グレアは立ち上がると、剣を構えて敵と対峙した。
剣を握る手は「二本」だった。
「キリカナム教団」から盗んだ「接木」が機能し、斬り落とされた左腕をくっつけたのだ。
(あいつ、腕をくっつけた。おもしろい魔法…帰ったらマギクに話そう…)
「想い人」を頭に浮かべながら、キリカも敵と対峙した。
0
お気に入りに追加
12
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
NON PLAYER CROWN ~デスゲームに巻き込まれたNPC人魚が擬態スキルで行脚する~
貝袖萵むら
SF
2038年、NPCの感情は増幅し現実的なゲーム体験が出来ていた。DESSQではNPCに最新の人工知能が搭載され魂を持って生きていた。
ゲームマスターは最新技術を用いて、MMO内のNPCと現実世界の人間の意識を入れ替えることに成功した。ゲームマスターからの突然のアップデートによってメインサーバーにいた80000人のプレイヤー達はDESSQの世界から抜け出せないことと自身の見た目が村人や行商人に変化したことに慌てていた。
DESSQシステムのsquiから全員のHPを村人のHPである10にし、また死んだら消滅となり、また元NPCであったプレイヤー達のもとで復讐を受けると言われ危機を感じていた。
NPCであった人魚のレトファリックもゲームマスターによって人間と同じ扱いを受けてしまう。人魚のレトファリックがNPCとして様々な困難を乗り越えるお話。人間サイドはYobaseを中心に物語が展開していく。
チートなタブレットを持って快適異世界生活
ちびすけ
ファンタジー
勇者として召喚されたわけでもなく、神様のお告げがあったわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもないのに、山崎健斗は突然十代半ばの少し幼い見た目の少年に転生していた。
この世界は魔法があるみたいだが、魔法を使うことが出来ないみたいだった。
しかし、手に持っていたタブレットの中に入っている『アプリ』のレベルを上げることによって、魔法を使う以上のことが出来るのに気付く。
ポイントを使ってアプリのレベルを上げ続ければ――ある意味チート。
しかし、そんなに簡単にレベルは上げられるはずもなく。
レベルを上げる毎に高くなるポイント(金額)にガクブルしつつ、地道に力を付けてお金を溜める努力をする。
そして――
掃除洗濯家事自炊が壊滅的な『暁』と言うパーティへ入り、美人エルフや綺麗なお姉さんの行動にドキドキしつつ、冒険者としてランクを上げたり魔法薬師と言う資格を取ったり、ハーネと言う可愛らしい魔獣を使役しながら、山崎健斗は快適生活を目指していく。
2024年1月4日まで毎日投稿。
(12月14日~31日まで深夜0時10分と朝8時10分、1日2回投稿となります。1月は1回投稿)
2019年第12回ファンタジー小説大賞「特別賞」受賞しました。
2020年1月に書籍化!
12月3巻発売
2021年6月4巻発売
7月コミカライズ1巻発売
聖黒の魔王
灰色キャット
ファンタジー
「お嬢様。おはようございます」
知らない部屋でいきなりそんな事を言われたかつて勇者と呼ばれた英雄。
こいつ、何言ってるんだ? と寝ぼけた頭で鏡を見てみると……そこには黒髪の美しい少女がいた。
相当美人になるだろうなー、なんて考えてたら……なんとその少女は勇者が転生した姿だった!?
おまけに国はぼろぼろで、その立て直しに追われる始末。
様々な種族と交流し、自分の国を復興し、世界の覇者を目指せ!
TS異世界転生型戦記ファンタジー、開幕!
なろう・カクヨムで連載中です。
【完結】極妻の悪役令嬢転生~あんたに払う安い命はひとつもないよ~
荷居人(にいと)
恋愛
「へぇ、それで悪役令嬢ってなんだい?」
「もうお母さん!話がさっきからループしてるんだけど!?」
「仕方ないだろう。げーむ?とやらがよくわからないんだから」
組同士の抗争に巻き込まれ、娘ともども亡くなったかと思えば違う人物として生まれ変わった私。しかも前世の娘が私の母になるんだから世の中何があるかわからないってもんだ。
娘が……ああ、今は母なわけだが、ここはおとめげぇむ?の世界で私は悪いやつらしい。ストーリー通り進めば処刑ということだけは理解したけど、私は私の道を進むだけさ。
けど、最高の夫がいた私に、この世界の婚約者はあまりにも気が合わないようだ。
「貴様とは婚約破棄だ!」
とはいえ娘の言う通り、本当に破棄されちまうとは。死ぬ覚悟はいつだってできているけど、こんな若造のために死ぬ安い命ではないよ。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
おおぅ、神よ……ここからってマジですか?
夢限
ファンタジー
俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。
人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。
そんな俺は、突如病に倒れ死亡。
次に気が付いたときそこには神様がいた。
どうやら、異世界転生ができるらしい。
よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。
……なんて、思っていた時が、ありました。
なんで、奴隷スタートなんだよ。
最底辺過ぎる。
そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。
それは、新たな俺には名前がない。
そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。
それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。
まぁ、いろいろやってみようと思う。
これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる