魔王メーカー

壱元

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第三章

第六話

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「見てください」

開かれた両掌には、鮮やかな色をした瘡蓋があった。

右は投擲用の石を思い切り握りしめた時、左は倒れながら思わず出して砂利との間に摩擦を起こした時に「開いた」傷である。

私はジャサー城を乗っ取り、演説を終えた後、走りくるサノーネからラーラを守って両掌を負傷した。

それなりに深い傷だったのは確かだが、私の肉体に「太陽」のある限り、一晩で無かったことになるはずだった。

そう、「太陽センズム」があってくれるなら。

だが、裂傷は四日たってもほぼ治癒せず、むしろその過程で再び開いてしまった。

 考えているのか、感情を抑えているのか、動揺しているのか、ラーラは随分長い間私の傷を眺めていた。

それがとにかく痛かった。

その視線にじわじわと焼かれ、またも傷が開いてしまうのではないかとさえ思った。

遂にラーラが口を開く。

「私のせいかもしれません」

彼女の思わぬ一言に虚を突かれた。

「実は…読んだことがあります」

俯き気味で説明し始めた。その声は微かに震えていた。

「高度な魔法であればあるほど、複雑で繊細なメカニズムを持ちます。そのため、何かしらの形で使い手が大きな衝撃を受け、少しでもメカニズムが狂うと『壊れて』しまうのです。それで、その『衝撃』として代表的なものの一つに…”限界を超えた魔法の発動”というものが…あります」

「私は何度も傷ついては回復するというのを繰り返しました。だから、ラーラ様のせいじゃないです」

「ごめんなさい。…説明が足りませんでした。大体の場合、『一度に限界を超える』ことで『壊れる』のです。魔法を繰り返し、その累計の消費魔力が限界値を超える場合、回を経るごとに、だんだんと、出力が弱まっていくことが多いのですが、そうじゃなかった…ですよね?」

肯定することが怖い。

本来は人を救うこの行為が、ラーラに最期の一撃をもたらす短剣に思えた。

私は返答せず、色々と考えた。

次の一手をどこに打てば彼女を殺さずにいられるか

 だが最終的に、敢えて思考を放棄した。

己の心、真っ直ぐな想いをそのまま抽出すればいいのだ。

「ラーラ様」

一つ深呼吸して、

「私は、貴方を救えて嬉しいんです。貴方が生きててくれるだけで嬉しいんですよ。…私は昔、大事な人を亡くしてしまったので…今度は大事な人を守れたことに後悔はないんです。だから、そんなにくよくよしないで」

ラーラはいつの間にか顔を上げていた。

「ごめんなさい」

再び発せられた謝罪の言葉。だが、今度はそこに確かな力がこもっていた。

「もうくよくよしません」

「でも」と彼女は自らの胸に手を当てた。

「責任は取らせてもらいます。必ず貴女を守りますから」

十三回目の誕生日は、こうして幕を閉じた。

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