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第一章
第九話
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しばらく服を乾かした後、私達は帰途についた。
「わっ、ウサギ!」
「え!?」
帰り道、一人の声に反応し、残りの全員も振り向く。
茂みの間から、確かに昼の雲みたいな白色のウサギが、二本足でちょこんと立ってこちらを伺っていた。
「追いかけようぜ!」
「あっ、待って!」
私の止める声も聞かずに、アルクは茂みを越えて行ってしまった。
「待ってよ、アルク!」
皆が続々とアルクを追いかけた。
これ以上ないほどに縦横無尽、無我夢中に駆け回ってしまった。
ウサギは足が速く、到底追いつけっこなかった。
みるみる道から外れ、暗い森の奥へと入っていく。
村の掟では、入ってはいけない領域だ。
撃ち抜いてやろうかと、一瞬迷った。
そうすればみんな止まると。
でも過去の記憶と現在の幸福感とが邪魔をした。
気づけば、ウサギはいなくなっていた。
「ここは…どこだ?」
周囲を見回す。
全面、入り組んで生えた太い木々が私達五人を囲っていた。
ここがどこなのか、全く見当がつかない。
人の痕跡もない。当然だ。
こんな深い所、普段みんなが来る訳がない。
「な、なあ戻ろうぜ」
「でもどこから来たかわかんないよ」
三人が明らかに怯えているのがわかった。
私は何か言葉を掛けようとしたが、いかんせん言葉が出てこなかった。
第一、私自身も不安だったのだ。
だがその時、アルクは明るい声色で、言った。
「大丈夫だ」と。
「まだお日様が出てるからオオカミは居ないだろうし、俺達が居るところだってそんなに深くねえはずだ。道がわかんなくても、いつか帰れるよ」
オオカミに立ち向かった時に感じた勇気とリーダーシップは本物だった。
やっぱりアルクはすごい人だ。
「向こうに行ってみようよ」
友達の提案に乗り、私達はひとまず西(だと思う)方に進んでいった。
どこまでいっても代わり映えがしないので、今度は別の方向に進む。
「おお!?」
鬱蒼とした森からようやく解放された。
木々が切り倒されて積まれ、砕けた石が散乱した、広い芝生の場所に辿り着いた。
何物にも遮断されない太陽の光が私達の全身を暖めていく。
「一旦ここで休んでいこうぜ」
私達のために強がっていたが、やはり少なからず心細さはあったのだろう。アルクは思わずそう口にした。
五人は地面に座り込み、笑顔を向け合った。
明るいから、暖かいから、広いから…それもあるが、何よりも石片や丸太。
「よかった、人の居た形跡があってーー」
その時、地面が大きく揺れた。
「何? 地震!?」
いや、違う。何かが違う。
私とアルクは跳ねるように立ち上がった。
揺れはどんどん近付いてくる。
木々の間に、「それ」の太い腹が見えた。
皮のズボンを履き、片手に石の大斧を携えた、緑色の肌を持つ太った巨人。
言い伝えそのままの姿だ。
魔物だ。
亜人の中で一番危険で、一番珍しい、「トロール」だ。
「わっ、ウサギ!」
「え!?」
帰り道、一人の声に反応し、残りの全員も振り向く。
茂みの間から、確かに昼の雲みたいな白色のウサギが、二本足でちょこんと立ってこちらを伺っていた。
「追いかけようぜ!」
「あっ、待って!」
私の止める声も聞かずに、アルクは茂みを越えて行ってしまった。
「待ってよ、アルク!」
皆が続々とアルクを追いかけた。
これ以上ないほどに縦横無尽、無我夢中に駆け回ってしまった。
ウサギは足が速く、到底追いつけっこなかった。
みるみる道から外れ、暗い森の奥へと入っていく。
村の掟では、入ってはいけない領域だ。
撃ち抜いてやろうかと、一瞬迷った。
そうすればみんな止まると。
でも過去の記憶と現在の幸福感とが邪魔をした。
気づけば、ウサギはいなくなっていた。
「ここは…どこだ?」
周囲を見回す。
全面、入り組んで生えた太い木々が私達五人を囲っていた。
ここがどこなのか、全く見当がつかない。
人の痕跡もない。当然だ。
こんな深い所、普段みんなが来る訳がない。
「な、なあ戻ろうぜ」
「でもどこから来たかわかんないよ」
三人が明らかに怯えているのがわかった。
私は何か言葉を掛けようとしたが、いかんせん言葉が出てこなかった。
第一、私自身も不安だったのだ。
だがその時、アルクは明るい声色で、言った。
「大丈夫だ」と。
「まだお日様が出てるからオオカミは居ないだろうし、俺達が居るところだってそんなに深くねえはずだ。道がわかんなくても、いつか帰れるよ」
オオカミに立ち向かった時に感じた勇気とリーダーシップは本物だった。
やっぱりアルクはすごい人だ。
「向こうに行ってみようよ」
友達の提案に乗り、私達はひとまず西(だと思う)方に進んでいった。
どこまでいっても代わり映えがしないので、今度は別の方向に進む。
「おお!?」
鬱蒼とした森からようやく解放された。
木々が切り倒されて積まれ、砕けた石が散乱した、広い芝生の場所に辿り着いた。
何物にも遮断されない太陽の光が私達の全身を暖めていく。
「一旦ここで休んでいこうぜ」
私達のために強がっていたが、やはり少なからず心細さはあったのだろう。アルクは思わずそう口にした。
五人は地面に座り込み、笑顔を向け合った。
明るいから、暖かいから、広いから…それもあるが、何よりも石片や丸太。
「よかった、人の居た形跡があってーー」
その時、地面が大きく揺れた。
「何? 地震!?」
いや、違う。何かが違う。
私とアルクは跳ねるように立ち上がった。
揺れはどんどん近付いてくる。
木々の間に、「それ」の太い腹が見えた。
皮のズボンを履き、片手に石の大斧を携えた、緑色の肌を持つ太った巨人。
言い伝えそのままの姿だ。
魔物だ。
亜人の中で一番危険で、一番珍しい、「トロール」だ。
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