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第一章
01-12「ヘイト」後編
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やや遅れて合流したレインの両手には、いつもの盾ではなく、刃がギザギザした双剣が握られていた。
「その剣は何?」
ソウが興味を示す。
「元々僕はブロウラーだったんです。でも、先にウィル君というブロウラーが加入していたのと、ディフェンダーが居なかったことが理由で、ディフェンダーを引き受けてやることにしました。でもその時の交換条件で、高級だったこの武器を買ってもらうことにしました」
癖のある武器を作ることで有名な「スパイクダウン社」製「ヘイトブレイド」。
湾曲した刀身と鋸のような形状の刃が特徴的な双剣で、なんといってもその特殊効果がその真髄である。
「リーサルエモーション・システム」。
付属のヘッドギアによって持ち主の脳波を読み取り、「感情が強いほどその破壊力を増す」という画期的なものである。
「ウィル君、僕の相手をしてください」
「俺でいいのかよ?」
「ええ。あくまで感覚を取り戻すことが目的ですし、今は落ち着いていますので、今の僕はそんなに強くないですよ」
「そうか」
ウィルとレインは距離を取り、武器を構えた。
ソウは二人の立ち姿を交互に見て、なんとなく、レインの方が圧倒的に強いと思った。
「じゃあ、行きますよ」
「おう!」
二人は同時に走り寄った。
ジュピター、パール、トクスの三人は応接室に通され、ソファに腰掛けて待っていた。
トクスが足首に装着した補助用の機械のウィーン、ウィーンという作動音を広い部屋に反響させて待っていると、相手方の監督、雪冬兄弟、そしてコブラがやって来た。
「突然訪ねてすみませんね」
「いいや、むしろうちの選手たちは話したがっていたんだ。俺たちの仇をとって欲しい、そのために少しでも俺たちの経験を役立ててほしい、ってね。まあ、それは『うちの』選手だけじゃないんだが。…入っておいで」
ドアが開き、十人程がぞろぞろ入ってくる。
BTIの選手、元DHL所属の選手、かつてダンテやジュカイと練習試合で剣を交えたことがあるという選手もそこには居た。
「顔見知りに電話して集めたのさ」
ジュピター達は目を輝かせて、互いに顔を見合わせた。
経験は知識に勝る。
これだけの人の経験を結集すれば…!!
結果はレインが明らかに優勢だった。
途中から差が開き始め、最後はレインがその秘力の片鱗を見せることになった。
ウィルははあはあと荒い息をしながら、地面に座り込み、レインを見上げていた。
「なんで体力の多いウィルの方が疲れているの?」
素朴な疑問を、ソウが隣のミナーヴァにぶつけてみる。
「試合、見てたらわかるでしょ。レインは最小限の動きで攻撃して、最小限の動きで避けていたのよ。でもウィルは行動に明らかに無駄があったし、途中からずっと後手に回っていた。だからウィルの方が消耗が大きかったの、わかった?」
「うん。あと、ウィルの方が筋肉を使って動いていたし」
「…は?」
ミナーヴァは理解の為に間を置いた後、驚愕した。
「なによ、それ?」
「試合見てたら、わかるでしょ? ウィルは必要以上に力が入っていたけど、レインは力を抜いて動いてた。だから疲れなかったんだ。そうでしょ?」
他意を含有しない、真っ直ぐな瞳。
かえって、ミナーヴァの神経を逆撫でした。
ああ、やっぱりこいつ嫌い。
「いいわ、そんなにあたしを見下したいなら、すればいいわ。でも…」
キョトンとする相手のことなんて気にせず、ミナーヴァは言い放った。
「次の試合であたしに勝ってからよ!」
「次の試合? 今から練習試合をやるってこと?」
「違うに決まっているでしょ! DHLとの最終決戦よ! 絶対あんたとあたしは選ばれる! パパのことはあたしが一番よく知っているから!」
「勝つってどういうこと? 味方同士でしょ?」
「じゃあいいわ。ルールを決めましょ」
ミナーヴァはソウを真っ直ぐ指さした。
「相手に敗北感を与えた方の勝ちよ。あんたに敗北の味をプレゼントしてあげる!」
ソウは生まれてこの方「敗北感」というものを強く感じたことは無かった。
不意に興味を駆られてしまったのだ。
だからこう言った。
「うん。楽しみにしているね」
ここにおいて、二人の最後の対戦が取り決められた。
ジュピター、トクス、パールが戻ってきた。
全員が会議室で落ち合う。
「色々と有益な情報が得られたんだ。それも交えながら明日の作戦について説明する」
ジュピターはスクリーンに十人以上の顔写真を映した。
「正直、今回は出場メンバー全員が警戒対象だよ。でも、こちらもベストメンバーで行くつもりだから特に脅威になりそうな三人だけを紹介するね」
十個の内から三人の画像だけが拡大される。
一人目はおかっぱのような髪型に神秘的な笑顔が特徴的な少年。
髪色は下から暗紫、真紅、そして頭頂部は黄色掛かった白。
切れ長の目が特徴的で、鼻は細く、アルカイックスマイルを浮かべている。
「ダンテ、18歳。役割はジョーカー。得られた情報によると、全ての能力がバランスよく優れていて、隙がない」
「じゃあ、どうするのよ?」
足を組み、目を尖らせてミナーヴァが問う。
「でも数的優位に立って勝つ寸前までいけたっていう例とか、稀に不可解な行動を取るのでそれが隙になるとか、攻略の糸口はありそうだ。後述の作戦ではそれを利用するよ」
二人目は暗緑色の長い髪を垂らしたモンゴロイドの少年。
痩せていて目つきは鋭く細く、鼻も高い。そして丸い眉が印象的である。
「彼がジュカイ。17歳で、役割はアサシン。全ての行動が迅速で、クナイとカタナで中距離・近距離どちらにも対応できる。特にクナイは対象を追跡する機能が付いているから、レイン君には投げさせないように動いてもらいたい」
「任せて下さい。一分で追い出してやります」
三人目はキラキラ輝く蒼色の双眸が見るものを惹きつける少女。
白色のショートヘアで、ソウ達に眩しい笑顔を向けている。
「彼女はステラ。現在15歳だが入団して半年で一軍デビューして、役割:ブロウラーでこのリーグ最高クラス。槍の間合いを使った繊細な攻防戦から激しい撃ち合いまでこなせる器用な選手。逆に遠距離戦は苦手らしいので、ソウ君かミナーヴァに対応してもらうことになるかな」
「さて…」とジュピターが一息つく。
「明日がこのリーグ戦最後の戦いであり、最大の戦いになる。その出場メンバーを発表したいと思う。まずはレイン君。君にはジュカイ君の相手をしてもらいたい。君もそれを望むだろう?」
「はい。感謝します」
「次にミナーヴァ。君にはステラさんのような近距離特化型の選手を担当し、同時に全体の指揮を執ってもらいたい」
「わかったわ」
普段と違い、自然とミナーヴァはソウに対して優越感は覚えなかった。
「最後に、ソウ君。君にはミナーヴァの補助とダンテ君に対する攻撃をしてもらいたんだけれど、いい?」
「うん。わかった」
ソウは頷いた。
「これから作戦を伝える。まず、さっき紹介した最強の三人が出場してきたパターンでは…」
ジュピターはあらゆる場所から得た情報の数々を余す所無く用いた作戦を一切の淀みなく立案し続けた。
普段とは打って変わって綿密で心強い姿に、一同は監督としての威厳を見出した。
明日は最終決戦。
それぞれの想いを胸に、星の卵達は眠った。
「その剣は何?」
ソウが興味を示す。
「元々僕はブロウラーだったんです。でも、先にウィル君というブロウラーが加入していたのと、ディフェンダーが居なかったことが理由で、ディフェンダーを引き受けてやることにしました。でもその時の交換条件で、高級だったこの武器を買ってもらうことにしました」
癖のある武器を作ることで有名な「スパイクダウン社」製「ヘイトブレイド」。
湾曲した刀身と鋸のような形状の刃が特徴的な双剣で、なんといってもその特殊効果がその真髄である。
「リーサルエモーション・システム」。
付属のヘッドギアによって持ち主の脳波を読み取り、「感情が強いほどその破壊力を増す」という画期的なものである。
「ウィル君、僕の相手をしてください」
「俺でいいのかよ?」
「ええ。あくまで感覚を取り戻すことが目的ですし、今は落ち着いていますので、今の僕はそんなに強くないですよ」
「そうか」
ウィルとレインは距離を取り、武器を構えた。
ソウは二人の立ち姿を交互に見て、なんとなく、レインの方が圧倒的に強いと思った。
「じゃあ、行きますよ」
「おう!」
二人は同時に走り寄った。
ジュピター、パール、トクスの三人は応接室に通され、ソファに腰掛けて待っていた。
トクスが足首に装着した補助用の機械のウィーン、ウィーンという作動音を広い部屋に反響させて待っていると、相手方の監督、雪冬兄弟、そしてコブラがやって来た。
「突然訪ねてすみませんね」
「いいや、むしろうちの選手たちは話したがっていたんだ。俺たちの仇をとって欲しい、そのために少しでも俺たちの経験を役立ててほしい、ってね。まあ、それは『うちの』選手だけじゃないんだが。…入っておいで」
ドアが開き、十人程がぞろぞろ入ってくる。
BTIの選手、元DHL所属の選手、かつてダンテやジュカイと練習試合で剣を交えたことがあるという選手もそこには居た。
「顔見知りに電話して集めたのさ」
ジュピター達は目を輝かせて、互いに顔を見合わせた。
経験は知識に勝る。
これだけの人の経験を結集すれば…!!
結果はレインが明らかに優勢だった。
途中から差が開き始め、最後はレインがその秘力の片鱗を見せることになった。
ウィルははあはあと荒い息をしながら、地面に座り込み、レインを見上げていた。
「なんで体力の多いウィルの方が疲れているの?」
素朴な疑問を、ソウが隣のミナーヴァにぶつけてみる。
「試合、見てたらわかるでしょ。レインは最小限の動きで攻撃して、最小限の動きで避けていたのよ。でもウィルは行動に明らかに無駄があったし、途中からずっと後手に回っていた。だからウィルの方が消耗が大きかったの、わかった?」
「うん。あと、ウィルの方が筋肉を使って動いていたし」
「…は?」
ミナーヴァは理解の為に間を置いた後、驚愕した。
「なによ、それ?」
「試合見てたら、わかるでしょ? ウィルは必要以上に力が入っていたけど、レインは力を抜いて動いてた。だから疲れなかったんだ。そうでしょ?」
他意を含有しない、真っ直ぐな瞳。
かえって、ミナーヴァの神経を逆撫でした。
ああ、やっぱりこいつ嫌い。
「いいわ、そんなにあたしを見下したいなら、すればいいわ。でも…」
キョトンとする相手のことなんて気にせず、ミナーヴァは言い放った。
「次の試合であたしに勝ってからよ!」
「次の試合? 今から練習試合をやるってこと?」
「違うに決まっているでしょ! DHLとの最終決戦よ! 絶対あんたとあたしは選ばれる! パパのことはあたしが一番よく知っているから!」
「勝つってどういうこと? 味方同士でしょ?」
「じゃあいいわ。ルールを決めましょ」
ミナーヴァはソウを真っ直ぐ指さした。
「相手に敗北感を与えた方の勝ちよ。あんたに敗北の味をプレゼントしてあげる!」
ソウは生まれてこの方「敗北感」というものを強く感じたことは無かった。
不意に興味を駆られてしまったのだ。
だからこう言った。
「うん。楽しみにしているね」
ここにおいて、二人の最後の対戦が取り決められた。
ジュピター、トクス、パールが戻ってきた。
全員が会議室で落ち合う。
「色々と有益な情報が得られたんだ。それも交えながら明日の作戦について説明する」
ジュピターはスクリーンに十人以上の顔写真を映した。
「正直、今回は出場メンバー全員が警戒対象だよ。でも、こちらもベストメンバーで行くつもりだから特に脅威になりそうな三人だけを紹介するね」
十個の内から三人の画像だけが拡大される。
一人目はおかっぱのような髪型に神秘的な笑顔が特徴的な少年。
髪色は下から暗紫、真紅、そして頭頂部は黄色掛かった白。
切れ長の目が特徴的で、鼻は細く、アルカイックスマイルを浮かべている。
「ダンテ、18歳。役割はジョーカー。得られた情報によると、全ての能力がバランスよく優れていて、隙がない」
「じゃあ、どうするのよ?」
足を組み、目を尖らせてミナーヴァが問う。
「でも数的優位に立って勝つ寸前までいけたっていう例とか、稀に不可解な行動を取るのでそれが隙になるとか、攻略の糸口はありそうだ。後述の作戦ではそれを利用するよ」
二人目は暗緑色の長い髪を垂らしたモンゴロイドの少年。
痩せていて目つきは鋭く細く、鼻も高い。そして丸い眉が印象的である。
「彼がジュカイ。17歳で、役割はアサシン。全ての行動が迅速で、クナイとカタナで中距離・近距離どちらにも対応できる。特にクナイは対象を追跡する機能が付いているから、レイン君には投げさせないように動いてもらいたい」
「任せて下さい。一分で追い出してやります」
三人目はキラキラ輝く蒼色の双眸が見るものを惹きつける少女。
白色のショートヘアで、ソウ達に眩しい笑顔を向けている。
「彼女はステラ。現在15歳だが入団して半年で一軍デビューして、役割:ブロウラーでこのリーグ最高クラス。槍の間合いを使った繊細な攻防戦から激しい撃ち合いまでこなせる器用な選手。逆に遠距離戦は苦手らしいので、ソウ君かミナーヴァに対応してもらうことになるかな」
「さて…」とジュピターが一息つく。
「明日がこのリーグ戦最後の戦いであり、最大の戦いになる。その出場メンバーを発表したいと思う。まずはレイン君。君にはジュカイ君の相手をしてもらいたい。君もそれを望むだろう?」
「はい。感謝します」
「次にミナーヴァ。君にはステラさんのような近距離特化型の選手を担当し、同時に全体の指揮を執ってもらいたい」
「わかったわ」
普段と違い、自然とミナーヴァはソウに対して優越感は覚えなかった。
「最後に、ソウ君。君にはミナーヴァの補助とダンテ君に対する攻撃をしてもらいたんだけれど、いい?」
「うん。わかった」
ソウは頷いた。
「これから作戦を伝える。まず、さっき紹介した最強の三人が出場してきたパターンでは…」
ジュピターはあらゆる場所から得た情報の数々を余す所無く用いた作戦を一切の淀みなく立案し続けた。
普段とは打って変わって綿密で心強い姿に、一同は監督としての威厳を見出した。
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