グラディア(旧作)

壱元

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プロローグ

P-02

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 男は寝た。

でも、今度は寝たふりで少年を騙そうとしているのかもしれない。

安心して寝てしまった少年の寝首を掻くつもりなのかもしれない。

そう思うと少年は眠れず、向き合って朝まで男を見張っていた。

「いてて」

男が頭を抑えながら目覚める。

少年ははっとして、すぐにパイプを構えた。

「ああ、待て待て」

男は手で少年を制止すると、よろけながらゆっくりと立ち上がった。

「まず第一に、俺は敵じゃない。間違えて君の庭に入ってしまったが、君を傷つける意志は微塵もない」

「お前はおれのなわばりに入った。だからてきだ」

「俺も本当に酔っていたから、わからなかったんだ。まあ、なんというか、すまなかった」

男はそう言うと、真っ赤になって隈のある少年の顔を指さした。

「君、風邪ひいたろう。俺も二日酔いの薬を買いたいんだ。ついて来なよ」

 少年は変わらず警戒していたが、気になって男の後を追った。

角を曲がって少し進んだ所に、真っ白でつるつるした外壁の建物があった。

男は大きさの違う二本の白い筒を持っていて、内一つは蓋が開いていた。

「おい、来なよ」

呼ばれた少年は恐る恐る近づいた。

男は無開封な方の筒を地面に置くと、ゆっくり後ずさった。

「上についている赤いボタン押せ、そうしたら開くから、そのまま飲むと良い」

少年が言われたとおりにすると、ポンッという軽快な音と共に蓋が開き、中に緑色の液体が見えた。

少年は少し舐めてみた。

人工的に作られた青りんごの甘い味が食欲を刺激した。

とうとう、少年はこの生まれてはじめての味を一気に飲み干した。

「美味いだろう。もう少ししたら効果が現れてきて、風邪もマシになるはずさ」

男は少年の側まで歩いてきた。

少年の警戒心は甘味一つで和らいでいたので、それは容易だった。

得意げに笑いながら、男が言う。

「腹減っていないか? 飯食いに行こうぜ」


 ホットドッグ屋のカウンターに二人並んで座り、同じホットドッグを頬張る。

「名前、なんていうんだ?」

少年は口いっぱいに食べ物を含んだまま答えた。

「ソウだよ」

「ソウか、いい名前じゃないか。歳はいくつ?」

「多分、13さい」

「へえ、それにしては立派じゃないか」

「ねえ、おっさん」

ソウは最後の一口を飲み込むと、今度は彼の方から質問した。

「なんだい?」

「おっさんは何ていうの?」

男は答えた。

「俺はロキ」

その瞬間、周囲の客たちの視線が確かにロキに集まった。

だがソウ少年は気にせず続ける。

「ロキのおっさんはとしはいくつ?」

「31歳。君と逆の数字だよ」

ソウは首を傾げた。

「どういうこと?」

「いや、いい。忘れてくれ」

「おっさんはなんでおれのなわばりに入ってきたの? なんでよっぱらっていたの?」

「はあ」

ロキは一つため息をつくと、店主に挨拶して代金の200レイを払い、少年の肩を優しく引き寄せながら店を出ていった。

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