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第一部
第五十話 三剣鬼(8)
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マンゾーニは容赦なく剣を振るう。
華麗な速さで十文字に斬り刻んでも、少しも隙を見せない。
フランツは避けることだけを努めた。
仮に少しで踏み込もうとしたら、その隙を突かれて心臓に風穴を開けられるかも知れない。
疵を受けたときに急所を躱す訓練も受けてはいるが、これほどの剣客相手では防戦体制を捨てたら命取りだ。
フランツは後退に後退を重ねた。
「俺っちに代われえ!」
突然マンゾーニを横から押しのけて、グリルパルツァーが剣を抜いた。
「俺は守り崩しが得意だぜ」
そう言ってかなり細いの刀身を抜き、フランツを突いてきた。
突く。突く。突く。
ただただ突くだけだ。
マンゾーニの方がまだ斬り込んだり守ったりした。
一本調子と見えたが、フランツは受け止めることすら出来なった。
弾いたかと思うと、それを上回る速さで繰り出された次の一撃を食らいそうになる。
結局、マンゾーニに対して同じように、退く一方だった。
「臆病者めぇ!」
グリルパルツァーは罵る。
フランツも怒りが込み上げてくるのを感じたが押さえた。
「フランツさぁん、頑張れぇ! 頑張れぇ! やっちゃいなさい!」
とうとうオドラデクは演技すら止めて叫びだしていた。
「おらああっ!」
フランツはなかば呆れながらも渾身の力を振り絞って、薔薇王を振り下ろした。
バキバキッ。
大きな音が響いた。
見事にグリルパルツァーの刀身を真っ二つに砕いていたのだ。
割れた刃先は逆回転して天井に突き刺さった。
『薔薇王』は瑕《キズ》一つない。
大した剣だった。
「なかなかやりますね。それでは私が行きましょう」
ドゥルーズが動いた。
オドラデクはグリルパルツァーに預けられる。
巨大な剣を見て、フランツは身震いした。既にだいぶ疲弊している。
肩が震えているし、息も荒い。
めまいまでしてきた。
敵は三人、いや剣は使えなくても手下までいる。
こっちは一人、ファキイルには頼れない。
フランツは焦った。
「おう!」
ドゥルーズは掛け声とともに大剣を振り下ろした。『薔薇王』はそれを受け止める。
物凄い重量だ。
地下室の床の下に靴が若干めり込みそうになっていた。
どうやら鋼を鍛えた剣らしい。
「私はいつも最初の一撃で押し潰します。それを耐えられるとは、あなたは素晴らしい!」
ドゥルーズは感嘆の声を上げた。
大剣の重さはどんどん増していく。
ドゥルーズの神父の黒服を注意深く眺めていると、なんと鉛を鎧の胸当てや肩当てのようにあちこちへ貼り付けていることがわかった。
このような服では歩き辛いことだろう。にも関わらずドゥルーズの動きは普通の剣士とまったく代わらない。
どれほどの修練を重ねてきたのだろうか。
それを考えただけで、既に頭がくらくらとしつつあったフランツは崩れ折れてしまいそうになる。
「私は細身だ。体重が軽いとあなどられますからね。その隙をうかがって一気に鳧《ケリ》を付ける、と言うわけです」
もはや、フランツの負けははっきりしていた。
意地でも『薔薇王』の柄を握り締めながら、このまま大剣に潰されていく時分の人生を思った。
――これも、悪くないのかも知れない。
だが、次の瞬間。
フランツはふっと軽くなった。ドゥルーズは喉から血を吹いて死んでいた。
そこには針金のように尖った糸が刺さっていた。
ドゥルーズだけではない。マンゾーニも、グリルパルツァーも、その他の名も無き手下どもも、ことごとく首を刺し貫かれていた。
全て糸によってだ。
オドラデクの髪が、地下室の四方八方に長く伸びて広がっていた。
華麗な速さで十文字に斬り刻んでも、少しも隙を見せない。
フランツは避けることだけを努めた。
仮に少しで踏み込もうとしたら、その隙を突かれて心臓に風穴を開けられるかも知れない。
疵を受けたときに急所を躱す訓練も受けてはいるが、これほどの剣客相手では防戦体制を捨てたら命取りだ。
フランツは後退に後退を重ねた。
「俺っちに代われえ!」
突然マンゾーニを横から押しのけて、グリルパルツァーが剣を抜いた。
「俺は守り崩しが得意だぜ」
そう言ってかなり細いの刀身を抜き、フランツを突いてきた。
突く。突く。突く。
ただただ突くだけだ。
マンゾーニの方がまだ斬り込んだり守ったりした。
一本調子と見えたが、フランツは受け止めることすら出来なった。
弾いたかと思うと、それを上回る速さで繰り出された次の一撃を食らいそうになる。
結局、マンゾーニに対して同じように、退く一方だった。
「臆病者めぇ!」
グリルパルツァーは罵る。
フランツも怒りが込み上げてくるのを感じたが押さえた。
「フランツさぁん、頑張れぇ! 頑張れぇ! やっちゃいなさい!」
とうとうオドラデクは演技すら止めて叫びだしていた。
「おらああっ!」
フランツはなかば呆れながらも渾身の力を振り絞って、薔薇王を振り下ろした。
バキバキッ。
大きな音が響いた。
見事にグリルパルツァーの刀身を真っ二つに砕いていたのだ。
割れた刃先は逆回転して天井に突き刺さった。
『薔薇王』は瑕《キズ》一つない。
大した剣だった。
「なかなかやりますね。それでは私が行きましょう」
ドゥルーズが動いた。
オドラデクはグリルパルツァーに預けられる。
巨大な剣を見て、フランツは身震いした。既にだいぶ疲弊している。
肩が震えているし、息も荒い。
めまいまでしてきた。
敵は三人、いや剣は使えなくても手下までいる。
こっちは一人、ファキイルには頼れない。
フランツは焦った。
「おう!」
ドゥルーズは掛け声とともに大剣を振り下ろした。『薔薇王』はそれを受け止める。
物凄い重量だ。
地下室の床の下に靴が若干めり込みそうになっていた。
どうやら鋼を鍛えた剣らしい。
「私はいつも最初の一撃で押し潰します。それを耐えられるとは、あなたは素晴らしい!」
ドゥルーズは感嘆の声を上げた。
大剣の重さはどんどん増していく。
ドゥルーズの神父の黒服を注意深く眺めていると、なんと鉛を鎧の胸当てや肩当てのようにあちこちへ貼り付けていることがわかった。
このような服では歩き辛いことだろう。にも関わらずドゥルーズの動きは普通の剣士とまったく代わらない。
どれほどの修練を重ねてきたのだろうか。
それを考えただけで、既に頭がくらくらとしつつあったフランツは崩れ折れてしまいそうになる。
「私は細身だ。体重が軽いとあなどられますからね。その隙をうかがって一気に鳧《ケリ》を付ける、と言うわけです」
もはや、フランツの負けははっきりしていた。
意地でも『薔薇王』の柄を握り締めながら、このまま大剣に潰されていく時分の人生を思った。
――これも、悪くないのかも知れない。
だが、次の瞬間。
フランツはふっと軽くなった。ドゥルーズは喉から血を吹いて死んでいた。
そこには針金のように尖った糸が刺さっていた。
ドゥルーズだけではない。マンゾーニも、グリルパルツァーも、その他の名も無き手下どもも、ことごとく首を刺し貫かれていた。
全て糸によってだ。
オドラデクの髪が、地下室の四方八方に長く伸びて広がっていた。
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