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第一部
第五十話 三剣鬼(6)
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「お前らの好きにしろ。だが、あの広場に連れてきていた麻袋に入っていた女、あれはなんだ。今のボリバルと同じ大きさに複製したら到底袋に入らない。だが、五体満足なやつなら即座に他のものを複製されて反撃される。お前らがそんなヘマをするはずはないだろ?」
フランツは思考しながら問い質した。
「ははははは、こりゃ一本取られた。確かにあの袋に入っていた女《スケ》はボリバルじゃねえ。別の女だ」
マンゾーニは豪快に笑った。
「誰だ?」
フランツは釣られて笑わず、さらに声を怒らせて訊いた。
「別の女だよ。おめえは知らない女だ」
マンゾーニはなお笑っていた。
――こいつら、人身売買をしているのかもしれなんな。
とフランツは考えた。
だが、だからどうしたと言うのだろう。
フランツは開くまでスワスティカの猟人だ。シエラフィータの民を殺し尽くしたスワスティカの罪人どもを処罰することを目的で動いている。
世間で起こっているその他諸々の罪業を裁いたり、捜査したりする名目で来ている訳ではない。
そんなことは警察がやることだ。治安の悪い国であってもフランツが関わり合うことでない。
「おい、兄ちゃん黙ったようだなあ」
グリルパルツァーが下卑た笑いを上げる。
「もういい。俺は出ていく!」
フランツはそう言って歩き出した。
「ちょ、ちょちょ、フランツさん。救わないんですか」
オドラデクが縋り付いてくる。
「救うわけがない。あいつは大罪人だ」
フランツは冷たく言った。
階段を登り始める。今度は一人で、なおさら注意深く上った。
「でもぉ。ぶー」
オドラデクは頬を膨らませた。しぶしぶ階段を登り始める。
フランツは無視をする。
ファキイルはやはり無言だった。
三剣鬼は誰も追ってこなかった。
まあ、追ってくるはずもないのだが。
「これでいいんだ」
フランツは宿への道を辿った。
「でも、フランツさんは目標を達してないでしょう?」
オドラデクが言った。
ある意味ではそれは確かだ。
クリスティーネ・ボリバルの分身は生きている。
すべて処断しつくすのが猟人の役目ではなかったか?
だが、生きていると言っても三剣鬼により身体の自由を奪われ、今後死ぬまで苦しまされ続けるであろうことは明白だ。
――なら、別にいいではないか。
分身の一つだし、殺しても残りはまだたくさんいるだろう。
なら、そちらを探す方が早いし、他の残党を殺す方が効率的だ。
フランツはそう理性で納得した。だが、あの三剣鬼たちの下卑た笑いが頭の中にまだ張り付いている。
――あいつらだって剣一本で世を渡ってきた以上、簡単に倒せる相手ではないだろう。
なぜ、そんな連中を戦うリスクを冒さねばならない。特は何もないのに。
ボリバルを苦しまないように葬ってやることぐらいだ。
――そんなことはやらなくていいだろう。
既にあたりは暗くなっていた。夜風に吹かれて道を歩きながら、フランツは思った。
「まあフランツさんがそれで良いなら御勝手にですよ。こっちはただ旅についてきてるだけだし」
オドラデクが諦めたように言った。
「ファキイルはどう思う?」
「我も、オドラデクと同じ考えだ」
すぐ答えが返ってきた。
フランツたちは宿まで無言で歩いた。
フランツは思考しながら問い質した。
「ははははは、こりゃ一本取られた。確かにあの袋に入っていた女《スケ》はボリバルじゃねえ。別の女だ」
マンゾーニは豪快に笑った。
「誰だ?」
フランツは釣られて笑わず、さらに声を怒らせて訊いた。
「別の女だよ。おめえは知らない女だ」
マンゾーニはなお笑っていた。
――こいつら、人身売買をしているのかもしれなんな。
とフランツは考えた。
だが、だからどうしたと言うのだろう。
フランツは開くまでスワスティカの猟人だ。シエラフィータの民を殺し尽くしたスワスティカの罪人どもを処罰することを目的で動いている。
世間で起こっているその他諸々の罪業を裁いたり、捜査したりする名目で来ている訳ではない。
そんなことは警察がやることだ。治安の悪い国であってもフランツが関わり合うことでない。
「おい、兄ちゃん黙ったようだなあ」
グリルパルツァーが下卑た笑いを上げる。
「もういい。俺は出ていく!」
フランツはそう言って歩き出した。
「ちょ、ちょちょ、フランツさん。救わないんですか」
オドラデクが縋り付いてくる。
「救うわけがない。あいつは大罪人だ」
フランツは冷たく言った。
階段を登り始める。今度は一人で、なおさら注意深く上った。
「でもぉ。ぶー」
オドラデクは頬を膨らませた。しぶしぶ階段を登り始める。
フランツは無視をする。
ファキイルはやはり無言だった。
三剣鬼は誰も追ってこなかった。
まあ、追ってくるはずもないのだが。
「これでいいんだ」
フランツは宿への道を辿った。
「でも、フランツさんは目標を達してないでしょう?」
オドラデクが言った。
ある意味ではそれは確かだ。
クリスティーネ・ボリバルの分身は生きている。
すべて処断しつくすのが猟人の役目ではなかったか?
だが、生きていると言っても三剣鬼により身体の自由を奪われ、今後死ぬまで苦しまされ続けるであろうことは明白だ。
――なら、別にいいではないか。
分身の一つだし、殺しても残りはまだたくさんいるだろう。
なら、そちらを探す方が早いし、他の残党を殺す方が効率的だ。
フランツはそう理性で納得した。だが、あの三剣鬼たちの下卑た笑いが頭の中にまだ張り付いている。
――あいつらだって剣一本で世を渡ってきた以上、簡単に倒せる相手ではないだろう。
なぜ、そんな連中を戦うリスクを冒さねばならない。特は何もないのに。
ボリバルを苦しまないように葬ってやることぐらいだ。
――そんなことはやらなくていいだろう。
既にあたりは暗くなっていた。夜風に吹かれて道を歩きながら、フランツは思った。
「まあフランツさんがそれで良いなら御勝手にですよ。こっちはただ旅についてきてるだけだし」
オドラデクが諦めたように言った。
「ファキイルはどう思う?」
「我も、オドラデクと同じ考えだ」
すぐ答えが返ってきた。
フランツたちは宿まで無言で歩いた。
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