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第一部
第四十五話 柔らかい月(8)
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適当に豚と牛のひき肉を混ぜて、香辛料を振り、細長いかたちに整えた。
――不細工な出来だが、まあルナに食べさせるもんだ。どうでもいい。
たくさん皿に並べて、さきほど使った窯の中へ入れる。
この窯の火力は強めなので、時間は短めだ。
その間に綺麗に洗ったジャガイモを鍋の中に入れて蒸した。
「うわー、美味しそうな匂い!」
ルナはお腹を鳴らしていた。
カミーユは野菜炒めに時間を掛けているようだった。
「おいおい焦げかけてるぞ!」
ズデンカは素早く駈け寄ってフライパンを炉から離した。
「ああ、ごめんなさい!」
カミーユは前のようにペコペコ頭を下げた。
「だから謝らなくて良いっていってんだろ!」
その後パプリカを擦り潰してソースを作る。容器に塩や唐辛子を投じてかき混ぜる。どろどろと良い具合になってきたところで肉が焼けた。
ズデンカ皿に移してソースを掛け、出来上がったふかし芋を添えた。
「ふう、完成だ」
ズデンカは額を拭いたいところだったが、不死者のため汗は出ない。
しょんぼりしながらカミーユは絞った布巾でテーブルの掃除を始めていた。
「どうして私はだめですよ……私なんか……」
暗い雰囲気に包まれながら呟いていた。
「んなことない。お前の野菜炒めも」
と言ってフォークで幾つかカミーユの料理を刺し、ちょこんと待ち構えるようにテーブルに坐っていたルナの口の中に突っ込んだ。
「うぐっ……むしゃむしゃ……おいひい!」
ルナは喜びで顔を輝かせた。
「ちゃんと美味しいって言ってくれるやつもいる。元気出せ」
ズデンカはカミーユの背中を軽くポンと叩いた。
「はっ……はい」
奇妙な晩餐が始まった。
ズデンカはテーブルに坐りはしたが、少しも手を付けないのだ。
流石にジュリツァも不思議そうな顔でズデンカを眺めてくる。
「ありがたいが、あたしは物は何も口に入れられないんだ」
吐いてしまうのだから仕方がない。血以外のものを飲むことは出来ないのだ。
ズデンカは気まずかった。
これがジュリツァに作って貰った料理ならなおさらだっただろう。
――だから宿屋以外泊まりたくないんだ。
「それならわたしがメイドのぶんも食べますから、どうぞお気になさることなく。ずっとそんな感じなんですよ。偏屈者っていうか」
とルナが言いながらズデンカの前にあった皿を自分のところへ持っていった。
「そうかい」
ジュリツァもさすがにそこまでは追求してこなかった。
しかし、ルナの食欲は想像以上だった。あれだけ山盛りだった皿をまたたくまに空っぽにする。
野菜炒めも跡形もなくなった。
日射病でやられていた昼間が嘘のようだ。
「あー、食った食った」
ぽこりとお腹を膨らませながらルナは椅子の上で引っ繰りかえっていた。
カミーユはゆっくり食べていた。品良く切りわけて少しずつ口へ運んでいる。
「美味しい!」
その度にいちいち、頬を押さえていた。
「お前もちったぁカミーユを見倣え」
ズデンカは言った。
「はーい」
ルナはお腹を押さえて苦しそうに言った。
柔らかな月の光が、窓から差し込んでその顔を静かに照らした。
皆が食べ終わると、ズデンカは席を見回した。
カミーユもお腹いっぱいになったらしく、でも、ルナのようにひっくり返りも出来ず、満足げな表情を浮かべたままで椅子の上に畏まっている。
「しんどそうだな。向こうの部屋で休め」
ズデンカは言った。
「でも! 食後に寝ちゃうのは行儀が……」
「ちょっとぐらいいんだよ」
渋るカミーユを送り出してルナがさっきまでいた部屋へ入れた。
「げぷう」
ルナはゲップしていた。
――不細工な出来だが、まあルナに食べさせるもんだ。どうでもいい。
たくさん皿に並べて、さきほど使った窯の中へ入れる。
この窯の火力は強めなので、時間は短めだ。
その間に綺麗に洗ったジャガイモを鍋の中に入れて蒸した。
「うわー、美味しそうな匂い!」
ルナはお腹を鳴らしていた。
カミーユは野菜炒めに時間を掛けているようだった。
「おいおい焦げかけてるぞ!」
ズデンカは素早く駈け寄ってフライパンを炉から離した。
「ああ、ごめんなさい!」
カミーユは前のようにペコペコ頭を下げた。
「だから謝らなくて良いっていってんだろ!」
その後パプリカを擦り潰してソースを作る。容器に塩や唐辛子を投じてかき混ぜる。どろどろと良い具合になってきたところで肉が焼けた。
ズデンカ皿に移してソースを掛け、出来上がったふかし芋を添えた。
「ふう、完成だ」
ズデンカは額を拭いたいところだったが、不死者のため汗は出ない。
しょんぼりしながらカミーユは絞った布巾でテーブルの掃除を始めていた。
「どうして私はだめですよ……私なんか……」
暗い雰囲気に包まれながら呟いていた。
「んなことない。お前の野菜炒めも」
と言ってフォークで幾つかカミーユの料理を刺し、ちょこんと待ち構えるようにテーブルに坐っていたルナの口の中に突っ込んだ。
「うぐっ……むしゃむしゃ……おいひい!」
ルナは喜びで顔を輝かせた。
「ちゃんと美味しいって言ってくれるやつもいる。元気出せ」
ズデンカはカミーユの背中を軽くポンと叩いた。
「はっ……はい」
奇妙な晩餐が始まった。
ズデンカはテーブルに坐りはしたが、少しも手を付けないのだ。
流石にジュリツァも不思議そうな顔でズデンカを眺めてくる。
「ありがたいが、あたしは物は何も口に入れられないんだ」
吐いてしまうのだから仕方がない。血以外のものを飲むことは出来ないのだ。
ズデンカは気まずかった。
これがジュリツァに作って貰った料理ならなおさらだっただろう。
――だから宿屋以外泊まりたくないんだ。
「それならわたしがメイドのぶんも食べますから、どうぞお気になさることなく。ずっとそんな感じなんですよ。偏屈者っていうか」
とルナが言いながらズデンカの前にあった皿を自分のところへ持っていった。
「そうかい」
ジュリツァもさすがにそこまでは追求してこなかった。
しかし、ルナの食欲は想像以上だった。あれだけ山盛りだった皿をまたたくまに空っぽにする。
野菜炒めも跡形もなくなった。
日射病でやられていた昼間が嘘のようだ。
「あー、食った食った」
ぽこりとお腹を膨らませながらルナは椅子の上で引っ繰りかえっていた。
カミーユはゆっくり食べていた。品良く切りわけて少しずつ口へ運んでいる。
「美味しい!」
その度にいちいち、頬を押さえていた。
「お前もちったぁカミーユを見倣え」
ズデンカは言った。
「はーい」
ルナはお腹を押さえて苦しそうに言った。
柔らかな月の光が、窓から差し込んでその顔を静かに照らした。
皆が食べ終わると、ズデンカは席を見回した。
カミーユもお腹いっぱいになったらしく、でも、ルナのようにひっくり返りも出来ず、満足げな表情を浮かべたままで椅子の上に畏まっている。
「しんどそうだな。向こうの部屋で休め」
ズデンカは言った。
「でも! 食後に寝ちゃうのは行儀が……」
「ちょっとぐらいいんだよ」
渋るカミーユを送り出してルナがさっきまでいた部屋へ入れた。
「げぷう」
ルナはゲップしていた。
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